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「なぜ人類は絶滅しない?」哲学者が出した"答え" 「進化したサピエンス」がなぜ生きづらいのか?

東洋経済オンライン / 2024年4月24日 13時30分

言い換えれば、数万年前の環境において僕らを生かしてくれていたさまざまな形質の名残りを、現在も持ってしまっているということなのです。

数百万年前から数万年前までの自然環境。僕らの心はそこで生まれた。

生存の危険に満ちたサバンナで、僕らの心は生まれた。

その心理的傾向、認知的特徴が現代では「認知的バイアス」と呼ばれます。

例えば、「みんな」や「いつも」という表現を僕らが思わず使ってしまうのは、「3人」「3回」からです(池谷裕二『自分では気づかない、ココロの盲点 完全版』)。

「私の友達はみんな喫煙者だ」とか「君はいつも眠たそうだね」と一般化するのに必要な目撃回数は3人、3回だといいます。

現代においては、そのようなたった3つのサンプルをもとにした、「みんな」「いつも」とすべてがそうであるという認知は確かに偏見であり、思い込みにすぎません。

ですが、数万年前のサバンナではたとえば仲間がある色のヘビに噛まれて亡くなったとしたら、科学的な観察や実験をすることなく、3回程度観測した時点で「この色のヘビは危険である」と思い込む個体の方が適応的でしょう。

つまり、都市環境では偏見、思い込みになってしまう認知的バイアスも、かつての危険に満ちた環境では僕らを生かしてくれたのです。

認知的バイアスは、まさに、太古的な環境では適応的だったが、現代的な都市生活においては不適応となる最たる例です。

農耕がはじまってからのたった1万年のあいだに、サピエンスたちは遠くまで歩いてしまった。EEAでは適応的だったさまざまな行動パターン、認知の枠組み、心のメカニズムが不適応な形質となってしまったのです。

僕らが進化するよりも早く、制度とテクノロジーが進歩してしまうから。

環境に適応できず、傷を抱えた動物

環境とのミスマッチ。

それゆえ、僕らの心はバグを抱え込むことになった。というよりも、サピエンスという存在自体が、進化というメカニズムにとってバグなのです。

環境に適応できない、出来損ないの種。傷を抱えた動物。

生物学者のエドワード・O・ウィルソンは人間という存在を次のように端的に表現しています。

われわれは、石器時代からの感情と、中世からの社会システムと、神のごときテクノロジーをもつ
(エドワード・O・ウィルソン『人類はどこから来て、どこへ行くのか』2頁)

見事な要約だと思います。

身体と心、制度やシステム、そしてテクノロジー。

この3つが見事にズレている。それぞれがもつ、生理的時間、進展のタイムスパンがあまりにもちぐはぐなのです。

「ケア」抜きには生きていけなくなった

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