高齢者の交通事故、増加の要因は「認知症」ではない 「脳ドックデータ」で判明した大きな事実誤認
東洋経済オンライン / 2024年4月30日 18時0分
では実際に、どんな人が事故を起こしているのでしょうか。そこに共通点はあるのでしょうか。
高齢ドライバーが事故を起こす理由は多岐にわたりますが、総じて脳の衰えと、それにともなう身体機能の低下が大きく関係しているといっても過言ではありません。運転をする際に必要となる機能をつかさどる脳―――すなわち“運転脳”が加齢とともに衰えてくると、事故を起こしやすくなります。
私はこれまで、数万件に及ぶ脳ドック診察を行い、さらには事故を起こした人への聞き取り調査をとおしてMRIデータと照合するなどの研究を重ねた結果、白質病変(MRI 画像の高信号域)と脳萎縮(脳室・脳溝・硬膜下腔の拡大)が進むと、交通事故や危険運転を起こす可能性が高まるということをつきとめました(Scientific Reports, 2022. , Front. in Aging Neurosci, 2022.)。
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白質病変は加齢のほか、高血圧等の生活習慣病、喫煙、生活習慣の乱れなどによって生じる脳の毛細血管を中心とする脳虚血病変のことで、40代までは喫煙者以外ほとんど発生しませんが、50代くらいから増え始め、60代以降に急増し、80代では半数以上の人に認められます(著者主宰脳ドック施設でのデータ分析より)。
白質病変では、神経細胞が集まっている大脳皮質(灰白質)にダメージがないため、呂律が回らない、あるいは手足が動かないといった脳卒中でよく見られる明白な症状はありません。ただし、広範囲にわたる白質病変は、脳梗塞の再発や血管性の認知症と高い関連性があります。
そして何より、安全運転を阻害するやっかいなファクターになることが、長年の研究により明らかになっています。白質病変は、脳神経ネットワークの破綻をもたらし、情報伝達の障害をまねき、それが運転操作に影響して、交通事故や高速道路の逆走を引き起こしやすくするのです(PLOS ONE, 2013; J. Nourol. disoders, 2023)。
例えば、脳が「ブレーキを踏め」という指令を出したとしても、ネットワークが壊れているためにうまく伝わらず、いつの間にか「アクセルを踏め」に置き換わってしまうケースもあるということです。
「アクセルとブレーキの踏み間違い」。何度も耳にするフレーズですよね。これが起こる原因は認知症ではなく、白質病変という状態が大きく関係している可能性があるのです。だから、認知症でなくても油断することはできません。
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