大型爆撃機を空母から「片道出撃」もう戻ってこれない 米海軍が採った驚きの方法 どうにか積みたかった巨大爆弾とは?
乗りものニュース / 2024年4月30日 6時12分
開発当初の核爆弾はとても大きく、当時の空母艦載機には搭載できない兵器でした。しかし、なんとかして運用したかったアメリカ海軍は驚くべき方法で核爆撃機を空母に搭載します。その機体は発艦できても着艦は無理なシロモノでした。
太平洋戦争中に行った日本本土初空襲がヒントか?
世界がアメリカを中心とする資本主義陣営と、ソ連(現ロシア)を中心とする社会主義陣営に分かれて対峙していた東西冷戦の初期、原子爆弾を搭載した大型爆撃機が空母から「片道出撃」するという運用方法が、アメリカで実施されていたことがあります。
これは、空母から飛び立って目標を攻撃したのち、その空母には戻らず、到達可能な味方の陸上基地(飛行場)へと降り立つというもの。当時の空母や航空機の性能的な限界から採られた、いうなれば「苦肉の策」です。しかし、なぜアメリカはこのような運用方法をわざわざ考えたのでしょうか。
そもそも、アメリカが空母からの「片道出撃」を実行したのは、太平洋戦争中にさかのぼります。
日本海軍によるハワイ真珠湾攻撃で始まった太平洋戦争において、開戦5か月後の1942年4月18日、アメリカは海軍の空母「ホーネット」から陸軍航空隊のB-25「ミッチェル」陸上爆撃機を発艦させて、日本本土に対する初空襲を成功させました。
ただ、このとき用いたB-25は、大型ゆえに空母へは着艦できるシロモノでなかったため、「ホーネット」に戻るのではなく、そのままユーラシア大陸へと飛び抜けて、中国内陸部にあった飛行場へと着陸しています。
最新の対潜哨戒機を爆撃機へ転用
戦争末期の1945年初頭にアメリカは、原子爆弾の実用化に成功。「リトルボーイ」を広島で用いたのち、2発目「ファットマン」を長崎に投下しました。なお、この「ファットマン」は、原子爆弾としては初めての量産型で、Mark IIIの型式名で終戦後の1949年までに120発が造られています。
ただ、当時はまだ原爆を小型・軽量化する技術が未発達だったため、Mark IIIは約4.6tもの重量がありました。ここまで重いと、小型の軍用機に搭載することができません。
アメリカ空軍が運用するB-36「ピースメーカー」やB-50「スーパーフォートレス」といった大型爆撃機ならば問題なく運用できましたが、当時のアメリカ海軍の空母搭載機、いわゆる艦上機で、Mark III原爆の運用が可能な機体はありませんでした。
そのようななか、アメリカ海軍としては、どうにか艦上機で原爆を運用できないか探っていました。その結果、ひらめいたのが前出のB-25「ミッチェル」と同様、空母からの片道出撃による核爆弾の運用法だったのです。
そのために白羽の矢が立てられたのが、双発エンジンのP2V「ネプチューン」でした。同機は、太平洋戦争中に対潜哨戒専用の機体として開発が始まった海軍機で、実用化と実戦配備は戦後となりました。アメリカ海軍は、当時最新鋭だった同機を流用することとし、その艦上運用型P2V-3Cを開発します。
艦上機の急速な発達により少数生産で終了へ
P2V-3Cの特徴は、「JATO」と呼ばれるジェット補助推進装置を胴体側面に装着できる点で、これを利用すれば、大重量の原子爆弾を搭載しても、当時のアメリカ海軍における最大の空母であるミッドウェイ級から発艦することができました。
なお、目標へ原爆を投下した後は、味方の陸上基地へと帰還するか、もしくは空母艦隊が遊弋する海域まで戻って不時着水することが想定されていました。
ちなみに、搭載する原爆についてもP2V-3Cで運用するために旧式のMark Iを再生産しました。このMark Iは広島に投下された「リトルボーイ」と同じ構造のもので、Mark IIIと比べると安全性の面で劣っていました。
ゆえに、広島に投下された1発しか造られなかったのですが、P2V-3CにはMark IIIが搭載できなかったため、苦肉の策としてMark Iが再生産されたのです。とはいえ結局、Mark Iの量産もわずか5発で終わっています。
また、空母で運用可能なように開発されたP2V-3Cも、のちに核爆弾の搭載が可能な双発の艦上爆撃機AJ「サヴェージ」が登場したため、わずかに12機が原型のP2V「ネプチューン」から改修という形で造られただけで終わり、その運用もごく短期間で終了しています。
東西冷戦の本格化という切迫した状況下に発案された「片道出撃」の原爆攻撃機。「時代のあだ花」といってしまえばそれまでですが、かつての日本本土への初空襲と同じく、敵に対する優位性を確保するための、なりふりかまわぬ戦法だったといえるのかもしれません。
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