「日経平均が史上最高値を更新」という”幻想” 日銀も加担した「上げ底相場」という”現実”
財経新聞 / 2024年4月9日 15時53分
「今年は34年ぶりに日経平均株価が史上最高値を更新した」と、お祭り騒ぎの状況だ。新聞・テレビなどのマスコミも、諸手を挙げて「失われた30年」の終焉を囃し立てている。日本銀行が大規模緩和を終了してマイナス金利政策に区切りをつけたこと、賃上げが進行していることも後押しになっているだろう。
だが冷静に考えて、34年前と現在の日経平均株価を比較することに、多少なりとも意味があるのだろうか。
昔から言い伝えられた言葉に「10年一昔」がある。10年も経てば世の中は変わっているということを、分かりやすく表現している。ただ、時間の進み方は加速している。今時10年も経過したら浦島太郎のようなものだ。
株価に話を戻すと34年である。浦島太郎が3代目を襲名して登場するような超大作だ。当時の産業構造は「鉄は国家なり」と言われた名残を残していた時代で、現在を端的に示す言葉は「半導体は国家なり」だ。
TSMCが熊本県に最先端の半導体工場を建設中で、北海道ではラピダスが世界初の2nm(10億分の1メートル)の量産化工場を建設中だ。重厚長大から軽薄短小へ産業構造が変わったと表現すること自体が、とぼけた話になるだろう。34年前に電池で動くのはおもちゃの車で、現在はEV(電気自動車)が世代交代を狙っている。
日経平均株価を算出するための対象企業は、数ある東証上場企業の中のごく一部(日経225であれば東証プライム1650銘柄のうちの、わずか225銘柄が対象)だから、対象企業の入れ替えがあれば平均値は全く変わる。
そんな視点で考えると、対象企業が大きく変動した34年前と現在を比較すること自体が滑稽なことだ。意味がないどころか”何かしらの意図”すらも感じられる話だから、まともな神経があれば、「史上最高値を更新した」と持て囃すことは全く筋が通らない。
日本経済新聞がそんな事情を理解できていなければお粗末な話だし、分かっていながらお祭りに参加しているのであればタチが悪い。
そもそも、投資家にとって大事なのは「自分が投資した先」の株価がどの程度上昇したかということであって、平均値が上がったことには(多少期待が膨らむかもしれないが実質的には)意味がない。
疑惑だらけの日経平均を引き上げている要因の1つに、日本銀行が絡んでいることも大きな問題だ。日本銀行は白川前々総裁の末期に4500億円と限度額を設定した上で、時限的な試みとして上場投資信託(ETF)の買い入れを実施した。
日本経済がリーマンショックの余波に悩まされていて、日経平均が1万円前後を上下するという時期に「下支え」として行われた。
この政策は非常にリスキーだ。日銀の買い入れ後に株価が下落すると含み損が発生する。資本金がわずか1億円の日本銀行はアッという間に「債務超過」に陥るリスクがあった。
逆に、株価が上昇して含み益が出たとしても、売却して利益を確定することは至難だ。日本銀行が「売り」に回ったとマーケットに知れ渡れば、狼狽売りを読んで相場が一気に下落する。日本銀行が暴落の引き金を引くことがあってはならないから売るに売れない。
幕引きができないこんな禁じ手のETFの買い入れが、黒田前総裁の任期中に積もり積もって総額37兆円になった。時価総額が70兆円だから日本銀行は計算上33兆円の含み益を抱えていることになるが、売却できないからいつまで経っても”塩漬け”ならぬ”砂糖漬け”のままという不健全な状態が続く。
視点を変えると、日本銀行の資金が37兆円含まれて成立しているのが現在の日経平均だ。まさに日経平均は日銀によって”あげ底”にされたということになる。こんな異常な状態を知ってか知らずか、日本経済の復活と持て囃すマスコミの軽薄さが日本最大の不幸だろう。
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