タイヤを黒光りさせるためにワックスを多用する人がいますが、使いすぎると逆にタイヤの劣化を早めたりヒビ割れを誘発する恐れがあります。タイヤワックスの正しい使い方とはどのようなものなのでしょうか。
■ツヤや光沢を甦らせる「タイヤワックス」の使い過ぎに注意!
タイヤには主成分であるゴムのなかに油分が含まれており、この油分によって新品のタイヤはツヤがあります。そして、この油分が経年や洗車などで徐々に失われることで、ゴムが白っぽくなる劣化が進むのですが、それをカバーする目的で「タイヤワックス」を使用することがあります。
しかしタイヤワックスを使いすぎると、逆にタイヤの劣化を進めたり、ヒビ割れの原因になることがあるのです。タイヤを美しくするつもりが、逆にタイヤを傷めてしまっているというのですが、一体どういうことなのでしょうか。
タイヤワックスの目的はタイヤの見栄えを良くすることです。白っぽくなったタイヤに塗るだけでツヤや光沢を得られるとあって、愛用している人も多いでしょう。
では、なぜタイヤは経年で白っぽくなってしまうのでしょうか。その理由を神奈川県の整備士 H氏に聞いてみました。
「タイヤの主成分であるゴムのなかには油性の『劣化防止剤』が配合されており、走行して摩耗することで内側の『劣化防止剤』が少しずつ出てくることによってヒビ割れなどの防止効果が期待できるように設計されています。
しかし洗車や直射日光、経年などによって内部の油分が先に溶け出してしまい、ツヤや光沢が失われてしまうのです。
実はタイヤは使用しない状態、つまりほとんど乗っていない状態が、もっとも劣化しやすいともいえます」
そんなときタイヤワックスを正しく使えば色褪せやヒビ割れの抑制効果も期待でき、黒光りするタイヤに仕立てることもできますが、新品タイヤのようなツヤと光沢を求めるあまり使いすぎないように注意する必要があるといいます。
「タイヤワックスは大きく分類すると『油性』と『水性』があるのですが、『油性』のタイヤワックスを使いすぎると、内側の『劣化防止剤』が化学反応で早く滲み出てしまうのです。
結果としてツヤを出すはずがツヤを早く失ってしまい、ゴムの硬化やヒビ割れを起こしやすくなってしまいます。そのため使いすぎには注意が必要なのです」(H整備士)
タイヤワックスには大きく2種類あるというのは、意外に知られていない情報かもしれません。しかも使いすぎによる劣化は主に油性のもので起こる症状なのだとか。だからといって油性のタイヤワックスそのものが悪いわけではなく、使い方を誤ると良くないということです。
油性のタイヤワックスと水性のタイヤワックスにはどんな違いがあるのでしょうか。
油性は、石油を原料とした親油性溶剤(石油系溶剤)に親油性のあるシリコンを溶かしたもので、深いツヤと光沢が得られ、さらに油性ならではの水はけの良さが特徴。汚れを強く弾く防汚効果が期待できるうえに、その効果が比較的長期間続きます。
ただし先述したように、タイヤのゴム内に練り込まれた劣化防止剤を早く染み出させてしまう傾向があります。
一方で水性は、シリコンを水のなかで乳化分散させたもの。シリコン自体は油性なので完全に溶けたわけではなく、水中に小さく分裂し浮いている状態です。
こちらはシリコンがタイヤ表面に膜を形成し防汚効果が期待でき、ツヤや光沢も得られます。ただし、水性のため雨などでワックス効果が落ちやすく、長持ちしないのがデメリット。効果を持続させるためには定期的な塗布が必要になります。
水性のほうがタイヤに優しいのは間違いないところですが、高い防汚効果や深いツヤなどが欲しい人は油性を使うのもアリでしょう。逆にタイヤには優しいけれど効果が持続しない水性は定期的に洗車する人にはお勧めといえます。
■タイヤワックスの正しい使い方は?
では、タイヤワックスはどのように塗るのが正しいでしょうか。
「皆さん、やはりタイヤを黒々させたいがために、かなり広範囲に塗る人が多い印象です。確かにタイヤにツヤや光沢があるときれいに見えますが、塗って良い箇所だけでなく、塗ってはいけない箇所にまで使っていることが多いです」(H整備士)
「タイヤワックスを使用できるのは、サイドウォール(側面)程度にしておくという意識が大切です。路面と接するトレッド面にも塗布したくなるでしょうが、光沢やツヤと引き換えにグリップ力が失われてしまい非常に危険です。
また、痛みやすいショルダー部分にも塗りたくなる気持ちはわかりますが、この箇所もグリップに関与する箇所なだけに、できれば塗布は避けたいところです」(H整備士)
ちなみに市販されているタイヤワックスには、スプレー式、乳液タイプ、固形などがありますが、使いやすいのはスプレー式。ただし必要以上の広範囲にスプレーが飛び散ってしまうため、ムラなく均一に塗布するのは意外に難しいそうです。
またボディやホイールに飛び散ってしまったワックスを早めに拭き取らないと、シミの原因になってしまうこともあります。
「余分な部分を拭き取ったクロスでホイールなどを磨く人もいますが、これもできればやめたほうが良いでしょう。ホイールにシミができたり、変色する恐れもあります」(H整備士)
タイヤワックスがついたクロスをついでに使うなら、ホイール本体ではなくホイールハウスの内側に使用したほうがいいとH整備士はいいます。
「タイヤだけでなく、ホイールハウス内もしっかり洗浄することも大事です。ホイールハウスは手が届きにくいので洗車し忘れしやすい箇所ですが、ここに付着した汚れを落としておくとクルマがより一層引き締まって見えます」(H整備士)
またH整備士によると、スタッドレスタイヤにはタイヤワックスの使用はNGとのこと。
「冬に使用するスタッドレスタイヤはノーマルタイヤと比べても柔らかいコンパウンドを使用しています。つまり外的要因で痛みやすいのです。
加えて、ただでさえ摩擦係数が下がった路面を走行するのですから、グリップ力を損なうようなワックスの使用は控えたほうが良いでしょう」(H整備士)
それよりもワックス使用前にホイールハウスも含めてしっかり洗浄しておくこと、拭き取りが必要なタイヤワックスは、乾き切る前に余剰分を拭き取ることも重要だそうです。
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タイヤワックスは美観を保つだけでなく、使い方によってはタイヤを汚れや紫外線から守ってくれる役目も果たしてくれますが、万能ではありません。
またタイヤは必ず交換する消耗品だと認識し、たとえ見た目はきれいに保てても、距離や経年など一定期間を走行したら新品に交換することで見た目だけでなく安全性も確保できるでしょう。