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トランプのWTO批判は全くの暴論でもない

ニューズウィーク日本版 2017年3月9日 10時30分

<為替操作や紛争解決への対応策の欠如には、自由貿易擁護派からも批判の声が上がる>

トランプ米政権が、今度はWTO(世界貿易機関)の攻撃に乗り出した。

連邦議会に提出した米通商代表部(USTR)の年次報告で、トランプ政権はWTOの紛争解決プロセスを批判。アメリカの主権を侵害する規定については、無視する権利があると主張した。歴代政権よりもかなり激しいトーンだ。

だがWTOについては、自由貿易の擁護派の中にも改革の必要性を指摘する声がある。よく聞かれるのは、以下の4点だ。

■為替操作を罰するべき

WTOは不公平な貿易の実践に対して制裁を科す権限を持つが、為替操作はそうした罰則の対象としていない。

多くの貿易専門家はこれを変えるべきだと考えており、アメリカがWTOに圧力をかけるべきとも考えている。トランプ政権はWTOに対し、為替操作を違法な援助と見なし、罰則の対象とするよう強く迫ることができるだろう。

想定されている標的は中国だ。アメリカは中国を為替操作国と公式に名指ししたことはないが、為替を安い水準に維持する中国政府の介入は長年、米中貿易における争いのタネになっている。

トランプ政権のロス商務長官は上院での指名承認公聴会で、中国政府が為替市場に介入しているという認識を示した。これは同政権が今後WTOに、為替操作国に対してこれまで以上に強硬姿勢を取るよう促す兆候だと、専門家らは指摘している。

【参考記事】トランプ政権が掲げる「国境税」とは何か(前編)

■ダンピングを取り締まる罰則を設けよ

現在、ダンピング(不当廉売)を行った国に対して制裁を科す権限を持つのは個々の加盟国だけだ。WTOとして制裁を科すことはできない。EUや米英は、自国の鉄鋼・アルミ産業を保護している中国と他の加盟国との条件を公平にする上で、その点が障害になっていると考えている。

トランプ政権のライトハイザーUSTR代表は10年に議会の委員会で、WTOは既存の権限を駆使し、中国による国内産業の保護に対してより積極的に罰を科すべきだと語っている。



■紛争解決のシステムを改善すべき

WTOには加盟各国から、紛争解決が遅いと批判の声があり、WTOもそれを認めている。昨年解決されたEUと中国の間の紛争も、7年の時間がかかった。

迅速な決断を下せなければ、違法な貿易が続くのを許すことになるかもしれない。トランプはWTOに対し、紛争処理への対応法を増やし、決定に期限を設けるよう圧力をかけることができるだろう。

【参考記事】トランプ経済が「レーガノミクスの再来」ではない理由

■デジタル貿易への対処を強化せよ

WTOの規定は、デジタル製品の取引やそれらに関する知的財産の保護に対応し切れていない。加盟各国や実業界は、デジタル貿易を取り締まる規制の設置を望んでいる。

トランプはWTOに対し、アメリカの知的財産を今まで以上に保護し、特許権侵害を罰するために世界経済の「デジタルな未来」を反映すべく規定の刷新を求めることができると、ピーターソン国際経済研究所のチャド・ボウン上級研究員は言う。

だが今のところ、トランプはITよりも重工業に重点を置いている。「鉄鋼業がアメリカ経済に影響を及ぼしたのは20年前のことだ」と、ボウンは言う。「トランプはアメリカ経済の未来を考えなければならない。しかし今までのところ、デジタル貿易に関するWTOの規制の刷新には全く興味を示していないようだ」

From Foreign Policy Magazine

[2017.3.14号掲載]
デービッド・フランシス

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