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アメリカは核武装した北朝鮮との共存を選ぶ

ニューズウィーク日本版 2017年11月29日 19時26分

<核・ミサイル技術の進歩で北朝鮮の脅威はますます高まったが、アメリカが北朝鮮を攻撃する可能性は依然として低い>

北朝鮮が核・ミサイル保有国として台頭したのは、間違いなく2017年の重大ニュースだ。だが驚くほどのことではない。北朝鮮は遅くとも1980年代から核兵器の保有を目指し、1990年代前半からは核開発にのめり込んでいった。それでも、本当に核兵器保有国になるには、技術、調達、資金、知識などの面で、かなり高いハードルがあると見られてきた。

北朝鮮は今、北米にミサイルを届かせる技術を獲得し、ドナルド・トランプ米大統領は北朝鮮問題を外交の最優先課題に押し出した。トランプは対北朝鮮で強硬発言を繰り返し、一時は核攻撃を行う可能性にまで言及。米朝戦争が差し迫っているかのような警戒心と恐怖感を煽った。

だが歴史を振り返ると、米朝戦争が本当に起こるという根拠はほとんどない。筆者は韓国在住で、米朝戦争をめぐる噂話は尽きないが、在韓米軍は増強もしていない。空爆のための爆撃機も入っていない。トランプが4月に朝鮮半島に送り込んだと言った無敵艦隊もまだ到着しない。在韓米軍は、普段通りに休みを取っている。軍属も国外退避しないまま。韓国の現実と米朝戦争を彷彿とさせるトランプのレトリックの間には、著しいギャップが存在するのだ。

ツイートに何を書こうと攻撃はしない

欧米メディアもいつの日か真実を理解し、トランプがどれほど大げさな発言をしても米朝戦争が起こる可能性は低いと報じ始めるだろう。事実、トランプは11月8日に韓国国会で行った演説で、韓国世論を北朝鮮に対する先制攻撃支持に変えさせる絶好のチャンスをみすみす見送った。北朝鮮を攻撃するなら韓国の協力が不可欠だ。攻撃に必要な軍事物資の多くは韓国国内にあるし、北朝鮮の報復攻撃で標的にされるのも韓国人だ。だがトランプは、北朝鮮との戦争はおろか限定空爆への支持すら取り付けようとしなかった。

代わりに、北朝鮮を封じ込め、抑止し、孤立させ、経済制裁を科すという、数十年変わらないアメリカの対北外交を継続すると強調した。もしトランプが韓国の支持を得る努力をしないのなら、ツイッターに何と書こうと、北朝鮮を攻撃しない可能性の方が高い。

なぜ攻撃しないのかと言えば、核武装した北朝鮮との共存は不可能という主張とは裏腹に、共存は可能だからだ。アメリカは長年、ロシア、中国、パキスタンという3つの信用ならざる核兵器保有国の脅威に耐えてきた。アメリカが軍事力で核兵器を放棄させようと考えたのは、1962年に当時のソ連がキューバに核ミサイルを配備した「キューバ危機」のときだけだ。結局核戦争は回避され、ミサイルは撤去されたが、核戦争一歩手前の緊張はアメリカにとっても世界にとっても耐えがたいものだった。



それ以降アメリカは、核開発を放棄させるのに軍事力を行使しようとしたことはない。中国が1960~70年代に核ミサイルを開発した時、中国は文化大革命で混乱の最中にあったにも関わらず、アメリカは干渉しなかった。パキスタンが1990年代に核武装した時もそうだ。当時も今も、パキスタンはイスラム原理主義勢力の拠点としてアメリカに深刻な脅威を与えているにも関わらず、見逃した。

スターリン主義や毛沢東主義、イスラム原理主義など、イデオロギー的にも対立するこれらの国々が核兵器を獲得する過程では、「狂信者」が核を持つことに対する危機感が国内で強まった。

だが軍事介入という選択肢はそれ以上にあり得なかった。もし中国を空爆すれば、東アジア全体が焦土と化しただろう。パキスタンの核兵器を奪うために米軍の特殊部隊を投入するのは、自殺行為に近かった。「イスラム過激派」を標的にした攻撃は、パキスタン周辺地域のイスラム教徒の反乱を招いたかもしれない。そう考えると、新たな核保有国と共存するリスクより、軍事力行使に伴うリスクの方が高いと、米政府関係者は理解した。以降、米政府はその教訓をを外交に反映してきた。

北朝鮮でも同じことになるのはほぼ間違いない。今回も「狂信者」が核兵器を保有し、核戦争が勃発する悪夢のシナリオが巷には溢れている。だが北朝鮮が他国を攻撃するために核兵器を使用する兆候はほとんど見られない。もしアメリカを核攻撃すれば、あっという間に北朝鮮が崩壊するのは目に見えている。

北朝鮮のエリートは自殺ではなく、生き残りを望んでいるようだ。実際、イラクのサダム・フセイン元大統領やリビアの元最高指導者ムアンマル・アル・カダフィ大佐が核兵器を保有していれば、アメリカに打倒されることなく今日まで生き延びていたはずだと、北朝鮮は主張している。

やれば全面戦争になる

北朝鮮を攻撃するという選択肢もアメリカにはあるが、実行すれば米中戦争や極東アジアででの核兵器使用に発展する恐れが高まる。北朝鮮は1968年以降、少なくとも6回、重大な挑発行為を仕掛けてきたが、アメリカは決して反撃しなかった。理由は当時も今も同じだ。北朝鮮が報復に出れば、通常兵器だけで韓国の首都ソウルを壊滅できる。中国とは相互防衛条約を締結している。アメリカが北朝鮮を空爆すれば、国民を人間の盾に使って妨害するだろう。

北朝鮮は数十年前から戦時に備えたトンネルを採掘しているため、米軍の空爆は大規模にならざるを得ず、実質的な全面戦争に発展するだろう。北朝鮮を相手に限定攻撃で済ませる選択肢は存在しない。すでに北朝鮮は核兵器を保有しているため、アメリカの軍事行動に核兵器で反撃してくる恐れもある。

一言で言えば、北朝鮮に対する攻撃はリスクがあまりに高過ぎる。北朝鮮の核・ミサイル技術が劇的に進歩した今、そのリスクはさらに跳ね上がった。たとえ政治指導者が表向きには認めなくても、ソ連、中国、パキスタンへの対応と同様、アメリカは核武装した北朝鮮と共存する方法を学ぶはずだ。

(翻訳:河原里香)

ロバート・E・ケリー(釜山国立大学准教授)

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