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中国整形「サイボーグ」の素顔は発明家

ニューズウィーク日本版 2017年12月1日 17時30分

<中国の近未来都市・深圳が生んだ新世代クリエーター、ナオミ・ウーの奇想天外で(意外に深い)ハードウェア制作の世界>

中国の「サイバーパンク都市」深圳に住む自己デザイン型の美しき「サイボーグ」――それがナオミ・ウーだ。

彼女の正体はテクノロジーデザイナー。LEDで光るスカート、3Dプリンターで造形したタンポンケースやビキニトップなど、女性向けの実験的な試作品を生み出す一方で、ハードウエアの製作もしている。

ウーがYouTubeで公開する動画は、中国のテクノロジー業界の内情を英語で伝える点で類を見ない。製作現場を紹介する映像ブログは膨大な数の再生回数を誇り、プロジェクトの進行状況をシェアするソーシャルメディアアカウントには数万人のフォロワーがいる。

国際的に名を知られたのは15年、光るスカートを発表したとき。超ミニのデニムスカートの内側にLEDを装着したこの作品は、米ソーシャルニュースサイトのレディットで大きな話題に。ほかにも光る靴から中国企業・澄星無人機のナノドローン専用ケースまで、手掛ける分野はさまざまで、ポップで奇想天外なデザインが売りだ。

「秘密は何もない」と、ウーは強調する。「私の工作スキルは中高生レベルだけど、この手のハードウエア製作の分野で最も理想的な環境に住んでいる。作品はどれも自作している」

当初はアメリカ人が「無名の中国の女の子」に注目していることに得意になったという。だが知名度が上がるなか、彼女をネットで知った男性たちから反発と中傷の声が巻き起こった。



15年に光るスカート(写真上)が話題になったウーは、LED内蔵の鏡をつないだ第2弾のスカートも制作(写真下) Naomi Wu

ウーが自身の身体も「工作」の対象にして美容整形手術を受けたことから、シリコンバレーの多くの男性が彼女は本物の人間ではないと信じた。その1人が、ものづくりに携わる「メーカー」のムーブメントを起こしたデール・ドハティだ。

ドハティは、ウーは男性エンジニアチームの顔を務めるモデルにすぎないと中傷。「ナオミは虚構の存在で、実在しない」とツイートした(このツイートは既に削除され、ドハティはウーの正体について疑問を呈したことを謝罪した)。



女性らしさと技術が共存

ドハティの一件は、欧米のテクノロジー関係者が自分のような人間に取る態度のいい例だと、ウーは言う。中国に来る欧米人男性は地元女性にちやほやされて当然と考え、こちらが性的な誘いなどを断ると激怒する、と。

だが、性差別的なアメリカ人が理解していない点がある。ウーが住む深圳では、テクノロジーとアートが交わる領域に「女性らしさ」が存在しても不思議ではないという事実だ。

80年に経済特区に指定された新興都市の深圳は、映画『ブレードランナー』や『AKIRA』に出てくる近未来都市と似ている。ウーが人工の巨乳を強調する露出度の高い服装をしても、ここでは誰も気にしない。

移民都市という深圳の特徴は、超高速で変化するスタートアップ文化の醸成に一役買っている。「ここの住人は若くてハングリー。テクノロジーをツールにして金持ちになろうとしている」

Naomi Wu

その深圳でも、「専門職タイプ」の女性は周辺的存在にとどまることを強いられるという。そんななかでウーは、テクノロジー業界のあらゆる女性の擁護者として自分を定義する。「私よりずっとすごい仕事をしている女性がたくさんいる。できる限りのことをしてその存在を知らせ、女性のコミュニティーに貢献したい。私は派手だけど、チームプレーヤーでもある」

ウーら革新者がみるところ、業界の未来はアプリ開発や人工知能(AI)にあるとは限らない。ハードウエアやウエアラブル技術など、触れることが可能なものこそが目指すべき道だ。

深圳は「ハードウエアのシリコンバレー」だと、ウーは言う。クリエーター支援プラットフォーム、パトレオンの自身のページにはこう記す。「あなたがこのページを読んでいる携帯電話やコンピューターはここで作られたものかも。それも、私の幼なじみの女性の手で」

女性たちはまた1人、心強い味方を得たのかもしれない。

<本誌2017年12月5日号[最新号]掲載>

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エミリー・ゴデット

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