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『君の名前で僕を呼んで』多感な17歳が落ちたひと夏の同性愛の恋

ニューズウィーク日本版 2018年2月27日 16時50分

<アカデミー賞4部門にノミネートされた今作で傷つきやすい青年の内面を見事に演じた、期待の新星ティモシー・シャメラの魅力に迫る>

もうすぐ映画賞シーズン。覚えておくべき名前を1つ挙げるとしたら、ティモシー・シャラメ(22)だ。シャラメは17年、アカデミー賞受賞がささやかれる2つの作品に出演してブレイクを果たした。『レディ・バード』ではイカれたミュージシャンを熱演。『君の名前で僕を呼んで』の傷つきやすいエリオ・パールマン役では、アカデミー主演男優賞への期待が高まる。

『君の名前で僕を呼んで』は07年のアンドレ・アシマンの小説を映画化したイタリアを舞台にした切ないロマンス。17歳のエリオは夏の間同居することになった年上のアメリカ人青年オリバー(アーミー・ハマー)と恋に落ちる。

イタリア人のルカ・グァダニーノ監督(『ミラノ、愛に生きる』)の指導の下、シャラメはどのシーンでも注目をさらう。3つの言語を苦もなく操り、バッハの曲を三様に弾き分け、桃を使ったマスターベーションのシーンを熱演した。

シャラメの成功は偶然ではない。彼は間違いなく研究熱心で、映画『フェーム』のモデルになったマンハッタンの芸術系高校で学んだ。本誌のアナ・メンタが話を聞いた。

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――ニューヨーク出身なのに3カ国語ができるのはなぜ?

父がフランス人で、子供の頃は毎年夏はフランスで過ごした。だからフランス語は流暢に話せるし、ニューヨークで育ったから当然英語は話せる。イタリア語はちょっとズルをして1カ月半くらい早くイタリアに行って、ピアノとギターのほかに毎日イタリア語のレッスンも受けた。エリオの能力と原作のイメージに近づけるようにね。

イタリア語を覚えるのは大変だった。徹底的にやりたかったから、文法や構文や活用も勉強した。映画の中での自分のイタリア語には満足してるけど、もう一度やるとしたら耳から覚えるようにしようかな。

――音楽的な素養はどうやって身に付けたのか。

ピアノは子供の頃やっていて10~12年くらいブランクがあった。最初の頃、ルカと脚本のジェームズ・アイボリーから会うたびに「ピアノは弾けるか」って聞かれて「もちろん、大丈夫!」って答えてた(笑)。

撮影に入る前にニューヨークで芝居に出ていたとき、ルカに「実は相当練習しなくちゃいけない」って打ち明けたら、「分かった。1カ月半早く来い」って。撮影開始まで1カ月半、イタリア人作曲家のロベルト・ソルチと毎日練習してスキルを磨いた。

――このラブストーリーのどこに一番感動した?

恥ずかしげもなく正確なところ。スティーブン・チョボスキーの『ウォールフラワー』みたいに、若者の欲望と抑制の気まぐれな熱狂がのぞくんだ。



――エリオは自分の感情をよく把握しているが、普通のアメリカのティーンエイジャーは違うようだ。10代の少年はエリオから学べるだろうか。

いい質問だね。難しいと思う。映画ではエリオは好意を持っている相手に対してためらわずに手の内を見せ、相手も彼に好意を持っている。それを現実の人生に当てはめるのは難しい。現実には拒否される可能性もあるから。

それでも若者が映画を見て、ありのままの自分でいいんだって気付くのはとてもいいと思う。アメリカの若者は特にね。ヨーロッパではアメリカより大っぴらに劣等感や悩みについて話せる気がするから。

――既に質問攻めに遭っていると思うが、桃のシーンについては監督からはどんな指示があったのか。

あのシーンには2週間くらいかかった。ルカの話だと、原作者のアンドレはカットしたほうがいいんじゃないかと思ってたみたいだ。このシーンは小説で描写するほうが効果的で、実際に説得力のある演技をするのは難しくてあからさま過ぎるって。撮影したい気持ちは変わらなかったけど、説得力がなかったら没にするつもりだった。1~2回撮影して、2回目で「これだ!」と感じた。

準備をしているときは「ちゃんとやらなきゃ」って感じじゃなかった。あらかじめ決めたとおりに演じたくはなかった。見ていて面白いのは、自然に出てくる演技だから。かといってコメディーっぽい芝居や、自意識過剰な感じにもしたくなかった。

ああいうプライベートなシーンは怖いけど、ありがたくもある。1人でいるとき、人はさまざまな感情表現をする。桃とのセックスとか、ベッドで跳びはねるとか。

――ルカと一緒に仕事するのはどんな気分? ほかの監督との違いは?

数え上げたらきりがないよ。マーロン・ブランドの出現で演技の意味が変わり、誰もがリアルに演じるようになったことを(ルカが)思い出させてくれた。クリスチャン・ベールが『マシニスト』のために大幅に減量した以降は、役作りのために減量するのが当たり前になった。

ルカとの今回の仕事は、役に没頭するように要求されて大変だった。手抜きは一切なし。ちょっとした小道具まで考え抜かれたものばかりだった。土壇場で加わった人間は1人もいなかった。

―― 17年は『レディ・バード』の高校生カイル役でも注目を浴びた。監督のグレタ・ガーウィグから準備のために渡された本があったそうだが?

そうなんだ。『インターネットは存在しない』ってタイトルで「あなたが演じる人物が読みそうな本」だって言われた。なぜインターネットは全員につながることを要求するのかについて、抽象的なことが延々と書いてあった。2000年問題とか。

開いてみたらマニアックな書き込みがびっしりで、「どこの古本屋で買ったんだ? 僕の前に読んだ奴は絶対にひどい被害妄想の持ち主だ」って思ったよ。そしたらグレタが「書き込みは全部私がしたの!」だって(笑)。

――『君の名前で僕を呼んで』で集まった注目に、どんなふうに対処している?

ずっと楽しみにしていることがある。一部のマスコミ関係者は1年前にプレミア上映を見ている。僕が長年憧れて、作品を見て演技を研究してきた俳優たちも見ている。でもこの作品の本来のターゲットである一般の観客や僕の地元の友人たちはこれから見るんだ!



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[2018.1.30号掲載]
アナ・メンタ

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