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アジア駐在の欧米特派員はセクハラ男だらけ

ニューズウィーク日本版 2018年6月21日 18時0分

<アジアで活躍する欧米ジャーナリストの性的モラルの低さを知ってほしい――しかも「苦しむ女性たち」の記事を現地から発信するのは彼らだ>

今でこそ筆者はメディア業界における女性と社会的弱者の権利擁護を訴える活動家だが、中国で仕事を始めた7年前は全く違う立場にいた。中国系カナダ人の記者である私は、当時23歳。仕事を通じて知り合った何人かの男にとって、私は仲間ではなかった。獲物だった。

狙われる獲物から天敵と戦う活動家に変身するまでの道のりは平坦ではなかった。セクシュアル・ハラスメント(性的嫌がらせ)を受け、力ずくで襲われ続けた。タクシーに相乗りしたジャーナリストは、私のアパートに着くと一緒に降りてきた。てっきりそれぞれの家に帰ると思っていたのに、彼には別の期待があったようで、突然キスしてきた。

ナイトクラブで会ったジャーナリストに、強引に連れ出されたこともある。私は泥酔していて、同意もへったくれもないのは明らか。酔いつぶれた女性にセックスを強要するゲスな男だった。北京のレストランでは、欧米の広報担当のお偉いさんが私のドレスの下に手を入れ、あそこをつかんだ。

身体的な被害だけではない。外国人特派員たちから何度も「ペニス写真」を送り付けられた。それも監視が厳しいチャットアプリ、微信(ウェイシン、WeChat)を使って。中国の監視当局のどこかには、ジャーナリストの性器写真の膨大なコレクションがあるに違いない。

「#MeToo(私も)」運動は、先進国でもセクハラが日常茶飯事である事実を教えてくれた。しかし、私に言わせれば国外で働く男たちの行儀はずっと悪い。カナダでは、ここまで不快な経験はしなかった。そして幸いにして、私は今の職場でセクハラ被害に遭ったことはない。でも私ほど幸運でない人もいる。セクハラはこの業界に限ったことではないが、報道の質には深刻な影響をもたらしている。

最近、中国外国記者協会(FCCC)の集まりで、この手の残念な話が出た。前FCCC会長でロサンゼルス・タイムズ紙の北京支局長のジョナサン・ケイマンが、同業者のフェリシア・ソンメズに対する性暴力で告発されたのだ。ケイマンは1月に友人のローラ・タッカーに対する不適切な性的行為が発覚し、会長職を辞していた。

そして2件目の告発後、ロサンゼルス・タイムズはケイマンを停職処分とし、会社として調査を始めた。しかし非営利団体のオンライン新聞「香港フリー・プレス」によると、最初の告発後には多くの男性特派員がネットで被害者のタッカーを誹謗中傷したという。

被害を受ける「現地スタッフ」

セクハラがまかり通るアジアの文化に浸っている男たちは、アジア発の報道をゆがめかねない。何しろ女性の同僚を餌食にしている人物がニュースの書き手になるのだ。セクハラ常習犯が、アジアの女性の苦しみをテーマにした報道で主導的な役割を果たし、人権についての特集を組んだと胸を張る姿を、私は何度も見てきた。

あまりにも多くの記事がアジアの男だけを取り上げ、女はセックスの対象か犠牲者として片付けている。こうした見方と、それに基づく偏向した報道は、アジア全域に見られるパターンだ。

仲間うちのそんな環境に反発し、女性のために声を上げた男性もいるが、彼らはごく少数だ。香港や中国で出会ったメディア業界の男たちの特権意識や行動は、故郷カナダのバンクーバーや、学生時代を過ごしたニューヨークでは目にしたことがない。



人民大会堂の取材風景。中国でも欧米人男性記者によるセクハラが問題に Damir Sagolj-REUTERS

観光客のみならず、男は母国を離れると性的なご乱行に走りやすい。最悪の被害はジャーナリズムや外交団、多国籍企業など、影響力のある特権的地位にいる男たちがもたらしている。

ニューヨークでなら解雇されかねない行動でも、北京やクアラルンプールの駐在員事務所では本社に報告されず、そもそも被害を報告する仕組みがない場合もある。事件が報告されても、加害者の特派員がアジアの別な地域に移されるだけで終わる例も多い。

「国外、特に中国や東南アジアに派遣された多くの男性が、女性に対して困った見方をしていると思う」と、中国南部に駐在する男性写真家は言う。「セックスが非常に容易にできて、しかも地元の女性が白人男性を特別視するような場所では、それにつけ込む男たちがいるものだ」

国際メディアの駐在事務所は、翻訳や調査の作業を行い、面倒な取材手続きを処理するための「現地スタッフ」を採用する。だが支払う給料は、特派員の収入の数分の1だ。この不平等な力学によって問題は悪化する。

中国では、こうした「ニュースアシスタント」は主として若い女性が担う。このパターンは、仕事に必要な英語力を備えた人材が女性に偏りがちな他のアジア諸国でも似たようなものだ。

「地元で仕事をするノウハウがある人材に、然るべき待遇が与えられていない。法律や労働組合の支援はもちろん、当たり前のサポートや教育的支援もない」と、香港生まれのジャーナリスト、ディディ・カーステンタトローは言う。遠く離れた本社は、現地スタッフの存在さえ知らないかもしれない。

「現地スタッフに雇用の保障はない。問題が起きれば、次の日にはクビになるかもしれない」と言ったのは、かつてニュースアシスタントを務めていたある女性。その結果、セクハラだけでなくジェンダーや人種による差別が起きても見逃されるケースもある。

スタッフが懸念を訴えても、地理的な距離や文化的な障壁に阻まれて調査が困難であることも多い。上司の悪事を告発することは、自国内でも困難だが、国外では不可能に近い。

昔はアジア駐在の特派員は、自分の語学力では手に負えない個人的な用事までニュースアシスタントにやらせていた。さすがに、こんな習慣は特派員の世代が変わり、経歴も多彩になった今では、ほとんど消えている。それでも立場の弱い現地スタッフは今なお多くのリスクを個人で引き受け、報道現場で大切な役割を果たしながら、本社からは2級社員と見られている。



セクハラや性差別の被害者は、現地スタッフに限らない。アジアでアメリカの主要メディアの外国特派員を15年以上務めてきたある女性は、過去に何度も記者仲間から露骨な性差別を受けたと言う。時には、男性の同僚に手柄を横取りされた。ある上司には、君には子供がいるから昇進は無理だと言われたこともある。

「公平な法制度がない環境では、現地部門はやりたい放題で逃げ切れる。契約の『現地採用』や『現地国の法を適用』といった条項のせいで、苦情の申し立てが難しい」と、彼女は言う。

その結果、現地採用でないスタッフも苦情を申告しにくい状況ができる。「上級管理職に不平を申し立てても返答がなく、本社の人事部に掛け合ってもらちが明かない」こともある。

ある時、彼女は有力な情報源の人物からレイプされそうになった。しかし彼女はそれを上司に報告しなかった。それが明らかになれば自分のキャリアに傷が付くと思ったからだ。

本社から出張で来る記者も、現地スタッフをぞんざいに扱いがちだ。とりわけ女性への接し方はひどい。

マレーシアのベテラン女性ジャーナリストが、米有力紙の上級特派員を昨年、クアラルンプールで迎えたときの経験を語ってくれた。彼女が彼に然るべき情報源を教えると、彼は彼女を食事に誘った。お礼のつもりなのだろうと思って、彼女は応じた。

「最初は世間話だったが、彼は私に付き合っている人はいるかと尋ね、性生活について聞いてきた。私は冗談でかわし、彼が取り組んでいるプロジェクトに話題を変えようとした。やがてトイレに行くと、出てきたところでいきなり抱き付かれ、キスされそうになった。私は顔を背け、『やめてください』と2度繰り返した。ショックだった。彼が下着を着けていないのが分かった。パニックに陥ったが、相手は超一流メディアの特派員。すっぱり切り捨てるわけにはいかなかった」

仕事への影響を恐れ、彼女は匿名を条件に取材に応じてくれた。

10年来アジア各地で取材し、中国の雲南省に住んだこともあるマット・スキヤベンザに言わせると、酒の安さや人目を気にしないでいい環境、セクハラに対する現地の対応の甘さなど、さまざま要因が絡み合っている。「男性特派員の中にはジェームズ・ボンドばりのプレイボーイを気取り、大勢の女性とセックスしてこそ特派員だと勘違いしている連中がいる」と、彼は言う。

記者のセクハラ観は要確認

セクハラ被害に追われるようにして業界を去る女性は多い。加えて給与格差も立ちふさがる。1月にはBBCのキャリー・グレイシー中国編集長が、北米や中東の男性編集長が自分や他の女性編集長より「少なくとも50%高い」給与を得ていることに抗議して、編集長を辞任した。

ソーシャルメディアの普及でジャーナリスト個人の発言の場が増えるにつれ、こうした問題は一般に知られるようになった。しかしアメリカのシンクタンク「ウッドロー・ウィルソン国際研究センター」で米中関係を研究するルイ・チョンによれば、「#MeToo」運動をめぐるアジア各地の報道に反発するかのように、SNS上で怪しげなハラスメント観を披露する男性ジャーナリストも少なくない。



「#MeToo には反発も大きいから、批判的な持論を展開したくなる男性もいるだろう。しかし報道は政治家の姿勢を左右する。ジャーナリストがああいう見解を披露するのは見過ごせない」と、チョンは言う。「例えば中国のセクハラ問題を報道するなら、記者が男女間の合意をどう捉えているのかを事前に確かめるくらいが妥当だと思う。どんな報道がなされ、被害者がどう描かれるかは彼ら次第なのだから」

海外勤務には苦労が付き物だし、危険も潜む。ジャーナリストはジャーナリスト同士、嫌がらせをするより助け合うべきだ。実際、たとえライバル会社に勤めていても、海外特派員は同業者を仲間と見なす傾向が強い。そんな連帯感があるからこそ、彼らは当局の介入などの脅威に対して結束できるのだが、身内のセクハラや暴力の被害を訴えにくい雰囲気にもなる。

欧米のメディアは現地スタッフを使い捨てにせず、自社の人材ネットワークに組み込むべきだ。そうすれば職場の安全と多様性が高まるだけでなく、待遇に不満を覚えながらも立場の弱さから声を上げられないでいる現地スタッフが会社を信頼し、仕事に打ち込むようになる。

全ての支局や支社に人事担当を置く予算がないのなら、せめて女性、とりわけ地位の低い現地スタッフが気軽に相談できる窓口を本社に設けるべきだ。女性を食い物にする連中を、のさばらせてはいけない。

From Foreign Policy Magazine

<本誌2018年6月26日号掲載>



ジョアナ・チュー(AFP中国特派員)

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