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慰安婦合意を捨て去った、韓国「馬耳東風」の論理

ニューズウィーク日本版 2018年11月30日 15時40分

<文在寅政権が「和解・癒やし財団」の解散を発表――強気の背景には世界的な人権重視のトレンドがある>

日韓関係はこうもこじれるものなのか。韓国政府が21日、15年の日韓慰安婦合意の根幹となる「和解・癒やし財団」の解散を発表した。合意に基づき、日本政府がこの財団に10億円を拠出。生存する47人のうち34人が1人当たり1億ウォン(約1000万円)を受け取っている。

だが、合意と財団は慰安婦支援団体をはじめ少なからぬ韓国世論の反発を受けてきた。「朴槿恵(パク・クネ)前政権が日本と政治的な合意を結んだ」というのがその理由だ。文在寅(ムン・ジェイン)現政権はこれを受け、「法的拘束力がない政治合意で、公権力の行使とみるのは難しい」と発表。理事の大半が昨年末で辞任し、財団の実質的な機能は停止していた。

さらに韓国では10月末、大法院(最高裁判所)が徴用工問題に対し、「個人請求権はある」との判決を出し、日本の新日鐵住金に賠償を命令。65年の請求権協定で定められていない「個人請求権」を韓国司法が認めたことで、国際法違反という反発が日本側で強く起きた。そして今回の財団解散だ。安倍晋三首相も「国際約束が守られないのであれば、国と国との関係が成り立たなくなってしまう」と、強い口調で反発している。

しかし、韓国には馬耳東風だろう。「(財団解散について)もともと韓国国民は無関心な上に、文政権が慰安婦合意に否定的な声明を発表した延長線上にあると認識しているので、大きな問題になっていない」と、ある韓国の全国紙記者は言う。「日本側の反発も大したことがないと、大統領府や政府が思っている可能性はある」

日本からすれば、韓国側の態度は「日本軽視」に見える。だが「大統領府のスタッフはむしろ逆に『日本に対し、われわれはよくやっている』と思っている」(日本の韓国政治研究者)。植民地支配の過去の清算をきちんと行わない日本には現在のような対応でいい、ということだ。

中国や北朝鮮も参戦か?

日本では慰安婦や徴用工の存在そのもの、そして「被害」の定義をめぐって論争がある。だが、韓国にとっては「戦争・植民地による人道的被害」というのが共通認識であり、道徳性や正当性から見て日本側が一方的に悪い、と今も考えられている。

徴用工問題について、日本側は日韓基本条約に定められた手続きによる2国間紛争解決、さらには国際司法裁判所(ICJ)への提訴も考えている。慰安婦問題は当時の状況からして同条約には言及・明記されていないが、日本政府は「国際法・合意違反」を打ち出し、世界に韓国の非を訴えるほかない。だが、それがどこまで通じるか。



冷戦終了以降、過去の戦争や植民地支配などでの非人道的行いについて、国家間では解決済みとされても、個人的な責任追及や賠償などを求める声が高まった。そして、この動きが世界的なトレンドになっている。

日本では異論があるが、国連での場でも、途上国を中心にそうした意見が高まり、決議もされている。11月19日にも、国連の強制的失踪委員会が、日本の慰安婦問題について元慰安婦らへの保障は十分とは言えず、最終的かつ不可逆的に解決したという日本政府の立場に遺憾の意を示したばかりだ。

慰安婦合意の再交渉や破棄はないというのが日本の立場だ。しかし「国際法違反」という日本側の主張が、世界にどこまで通用するか。今後、中国や北朝鮮も歴史問題を取り上げてくるかもしれない。負の連鎖を止める日韓両国の知恵が、今こそ最も必要とされているのだが。

<本誌2018年12月04日号掲載>




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浅川新介(ジャーナリスト)

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