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アメリカの産業スパイ事件、9割に中国が関与

ニューズウィーク日本版 2018年12月13日 17時0分

<アメリカで中国のハイテク企業への風当たりが強まる中、中国によるスパイ活動の実態が明らかになった>

米司法省が過去7年間で摘発した経済スパイ事件の90%に中国が関与していたことが、12月12日に同省が米上院情報委員会に提出した報告書で明らかになった。

「2011~2018年にかけて、経済スパイ容疑で司法省が起訴した事件の90%以上は中国が関与またはその便宜を図ったものだった。企業秘密を盗もうとした罪で起訴した事件の3分の2以上は中国とつながっていた」と書かれている。

中国政府が企業秘密の窃盗を直接指示したことを必ず明らかにできるとは限らないが、実際にあった事例はほぼ例外なく中国の経済政策を利するものだった、という。さらに、中国に知的財産権の侵害を取り締まる法律がないことや米当局の捜査に対する非協力的な態度、中国経済における国有企業の肥大化が、中国の国家ぐるみの犯罪を助長しているとした。

雇用の半分が失われた例も

「よい例が、米企業から風力タービンの技術を盗み出した罪で有罪判決を受けた中国国有企業の風力タービン大手、華鋭風電科技集団の事件だ。それにより米企業の企業価値は10億ドル以上下落し、全世界の従業員の半数以上に上る700人の雇用が奪われた」と、報告書にある。

「最近では、中国人の科学者が米バイオ医薬品企業から遺伝子組み換えされたコメの種子を盗んだ罪で起訴された。種子を受け取った中国の作物研究所は盗んだ技術を使って経済的利益を得ている」

今回の報告書は、2013年に当時NSA(国家安全保障局)の長官を務めていたキース・アレクサンダーが、産業スパイと知的財産の窃盗は「史上最大の富の流出」としたコメントを裏付けるものだ。米シンクタンク民主主義防衛財団(FDD)が9月に発表した報告書は、中国のサイバースパイ活動による米企業の損害は年間3000億ドルに上り、「アメリカの技術にとって最大の脅威」と断じた。



ドナルド・トランプ米政権は、中国との通商摩擦の中でもとりわけ知的財産の窃盗を問題視して貿易戦争を仕掛けてきた。マイク・ペンス米副大統領は10月4日に保守系シンクタンク、ハドソン研究所で演説した際、中国政府は「あらゆる手段を使ってアメリカの知的財産を取得するよう官僚や企業に命じている」と批判した。

ただし今後の米中交渉でその問題がどう対処されるかは不透明だ。一部の政策アナリストは、中国による経済スパイ活動を封じるため、アメリカは新たな制裁措置を講じるべきだと主張する。

「中国のハッキングに対する仕返しとして、アメリカは対象を特定して国際的な制裁体制を築くべきだ。サイバースパイ活動で利益を得た企業に制裁を科し、スパイ防止活動を強化することで、人工知能(AI)や量子コンピューター、半導体、通信システムならびに中国の技術戦略の中核となる他の領域に関して、中国のスタートアップや小規模企業を監視する必要がある」と、米シンクタンク外交問題評議会が12月6日に発表した論文の冒頭には書かれている。

「中国共産党と企業は一体」

米共和党のベン・サス上院議員(ネブラスカ州選出)は12月12日、上院司法委員会の会場前で取材に応じ、司法省の報告書についてこう言った。

「中国企業と中国共産党の間にありもしない区別をしたがる人が、ワシントンには多すぎる」と、彼は言った。「(中国による経済スパイ活動は)企業による盗用や、昔からあるスパイ対スパイの駆け引きより遥かに大きい問題だ。中国は習近平国家主席の裁量で実行可能なあらゆる手段を利用することで、戦いを始める前から勝利したがっている。そのために国家権力を利用する時もあれば、民間人や企業を利用することもある。この脅威に今すぐ対処すべきだ」

(翻訳:河原里香)


クリスティナ・マザ

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