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〈亜細亜大の中国人教授が「スパイ容疑」で拘束か〉「何が罪に問われるかわからない」現地ビジネスマンも恐れる反スパイ法…投獄されたら連日強制される「共産党革命歌」と「深夜の歩行訓練」

集英社オンライン / 2024年4月26日 17時0分

中国籍を持つ亜細亜大の范雲濤(ハン・ウントウ)教授(61)が昨年2月に中国に一時帰国した後消息を絶ち、拘束されたとみられることがわかった。習近平体制は「国家の安全」を強調しながら「スパイ」の摘発に力を入れているが、何がスパイ行為かを明らかにせずに捕まえるため、中国を訪れる外国人や、外国に接点を持つ中国人までも気が気でない状況だ。

〈中国で拘束〉100人以上が収容された中国の大監獄で1フロアにわずか5個しかなく、大行列ができていたものとは

これまでにも17人がスパイ容疑で拘束 

林芳正官房長官は4月22日の記者会見で范氏が失踪した情報を日本政府が把握していることを前提に「関心をもって注視しているが、事柄の性質上これ以上のコメントは差し控えたい」と話した。全国紙デスクが話す。

「范氏は昨年2月に実家のある上海に一時帰国し、予定していた昨年4月までに日本に戻りませんでした。亜細亜大には『病気療養に入る』と連絡がありましたが、現在日本にいる家族は連絡が取れない状態です。

音信不通になる前に『当局者に同行を求められ、尋問を受けた』ともらしていたとの情報があり、拘束されたとみられますが、何の発表もありません。大学のホームページによれば范氏は中国の環境エネルギー戦略などを研究していましたが、拘束の理由が何なのかも日本側では見当がついていません」

日本の大学に所属する中国人研究者が当局の拘束で日本に戻れなくなるケースはこれだけではない。2019年には北海道教育大の教授が一時帰国中に拘束・起訴され、また、神戸学院大の教授も昨年夏に一時帰国後、消息を絶っていることが今年3月にわかっている。

「中国当局は日本在住の中国人研究者を標的にし、スパイ容疑をかけている可能性があります」と話すのは全国紙デスクだ。

「それだけでなく、中国当局による日本人の拘束も続いています。実際、中国では2015年以降、スパイ容疑などで邦人17人が拘束されており、そのうち5人はいまだに帰国できていません。どの事件も中国当局は拘束の具体的な理由を発表せず、裁判も非公開で行われます。

日本の外務省は邦人の拘束がわかるたびに解放を求めますが、これを中国が聞き入れたことは皆無。一度拘束されると数年に及ぶ刑期の後、国外追放になってようやく日本に帰ってこられるのです」(前同)

「スパイ」にされた親中派日本人の記録

2016年7月に拘束され、スパイ罪で懲役6年の実刑判決を受けて服役した日中青年交流協会の鈴木英司元理事長は帰国後、体験記を出版。ここから中国当局の荒っぽい手法が見えてきた。

「元理事長によれば、北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党総書記の義理の叔父である張成沢氏が処刑され大騒ぎになっていた時期に、中国の知人との会話でこの話題を持ち出したことが『中朝関係の秘密情報を探った』とされたといいます。

張成沢の処刑は北朝鮮が発表し、世界中に報道されたので秘密でも何でもない。後にTBSが入手した元理事長の『判決書』には、『被告人は日本のスパイ組織の代理人の任務を受け、長期的に我が国の国家情報を収集、報告した』と書かれていました」(国際部記者)

ここにある「日本のスパイ組織」とは公安調査庁を意味するとみられ、元理事長も日本メディアの取材に、同庁の調査官と接触したり、謝礼をもらったりしたことを認めている。

とはいえ、企業の駐在員を中心とした現地の日本人社会は数年前まで、日本人の拘束が増えていても大きな危機感は感じていなかったようだ。というのも「捕まるような人とビジネスで来ている自分たちとは別だ」との意識があったからだと北京駐在経験者は語る。

「鈴木元理事長のような人が捕まったことは日本のメディアも報じていたので知っていましたが、はっきり言って“他人事”でした。というのも中国当局がスパイだとして拘束した人の中には、『公安調査庁からカネをもらって中国の軍事基地の写真を撮りに来た』といったうわさが出る人もいた。要するに“本物”か、スパイの真似事をした人が捕まっているだけで、自分たちとは別世界の話だと思っていたんです」(北京駐在経験者)

100人程度が暮らす1フロアにトイレは大便器が6個

ところがその空気が昨年3月に一変した。

「製薬大手、アステラス製薬の幹部社員の男性が赴任を終え、帰国便に乗るため北京の首都国際空港に向かう途中、北京の国家安全局に突如、拘束されたんです。50代のこの幹部社員は中国駐在歴が20年に及び、進出する日系企業で作る経済団体『中国日本商会』の副会長まで務めたことのある有名人で、中国要人にも知己が多かった。

当然中国との付き合い方も熟知しており、下手に公安と付き合ってひっかけられるようなリスクを冒すわけがない。やり手のビジネスマンなので政治・経済分野の情報収集は長年してきたでしょうが、それを本気で罪に問う姿勢を当局が見せたことに日本の駐在員たちは戦慄しました」(元中国特派員)

これに追い打ちをかけたのが、改正された「反スパイ法」が昨年7月に施行されたことだ。

「昨年春から3期目に入った習近平国家主席の体制の統制強化策の柱です。収集を禁じる『国家秘密』が何かを示さない上、それ以外に国家の『利益に関わるデータ』を入手する行為も処罰の対象にしています。これも何を指すのか明らかにされていませんが、例えば中国経済の減速を示す経済指標を入手して分析する行為も、国益に反する行動だとみなされかねない。

さらにこの法律は、中国の企業が従業員に対しスパイ防止教育と訓練を行うことも義務付けています。とにかく、何が罪に問われるかわからないことで駐在員も研究者もメディアも戦々恐々としています」(元中国特派員)

日本企業の中国駐在経験者は「一部の日本企業は駐在期間が長いベテランを中心に社員らを法施行直前に帰国させました。予測できない拘束の恐怖があることは、企業には最大の“チャイナリスク”になっています」と話す。

アステラス製薬の男性に対し中国検察は、今年3月になって起訴するかどうかの審査に入ったと伝えられた。容疑を開示することもなく1年間拘束した末に、起訴の是非の審査はさらに最長で6か月半かかり、起訴されればその先に裁判と投獄が待っている。

有罪が確定すればどのような監獄暮らしが待っているのか。

「北京市第2監獄」に収容された日中青年交流協会の元理事長は体験記で、「外国人収容者専用の施設で2段ベッドが6台置かれた房に入れられた」と書いている。房の扉は日中は施錠されず、廊下に自由に出ることができたが、夜は出られなかった。100人程度が暮らす1フロアにトイレは大便器が6個しかなく、毎朝列ができたという。

また、最初の3か月は新人教育として共産党の革命歌を嫌というほど歌わされる“洗脳教育”が続き、1週間に1度は深夜に2時間にわたって廊下を歩かされる訓練を受ける。新人教育機関が終わっても国営テレビの英語ニュースや共産党史のビデオを見せられることもあったという。

元理事長は「習近平政権になって以降、減刑が認められたケースはほとんどなく、仮釈放も一切ない。法律では75歳になると釈放してもよいという規定があるのにそれもなし。こんなところにも、習政権の人権軽視の強硬姿勢が現れていると言えるだろう」と記している。

日本国籍者が拘束された場合、日本政府は当然中国に釈放を働きかけたり、駐在外交官による面会を求めたりする。中国政府は外交官による面会は認めており、拘束中の人の扱いについて最低限の監視はできている状態だが、范教授のような中国人が拘束された場合はこれもままならない。

范教授の健康状態などが心配される。

取材・文/嵯峨哲太郎 集英社オンラインニュース班

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