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年功賃金、男女格差......収入カーブから見える日本社会の歪み

ニューズウィーク日本版 2019年2月20日 13時30分

<定年年齢の60歳を過ぎると急落する男性の収入と、20代以降はパート就業のために下がり続ける女性の収入>

先月、内閣府の『老後の生活設計と公的年金に関する世論調査』の結果が公表された。「何歳まで仕事をしたいか」という問いに対し、4割近くが「66歳以上」と答えている。老後の生活資金への不安からだろう。年金制度が崩壊しつつあるのは、多くの国民が肌で感じていることだ。

長く働き続けたいと思うのは、経済的理由からだけではない。寿命の延びにより、人生100年の時代が到来しつつある。長い余生を何もしないで過ごすのは耐えがたい。これから先、定年後の高齢期を「引退期」として過ごすのは経済的にも心理的にも不可能だ。

しかし、高齢期になると収入は大きく目減りする。最近は定年後の再任用も多いが、同じ仕事であるにもかかわらず給与が半減するという話をよく聞く。それはデータでみても明らかだ。有業者の年間所得の中央値を年齢層別に出し、線でつないだグラフにすると<図1>のようになる。



男性で見ると50代をピークに急落し、65歳を超えると200万円を割る。表現は良くないが「ワーキングプア」だ。年金の足し程度の短時間勤務が増えるためだが、60歳を境に極端に稼ぎが減っていることには驚かされる。

男性と女性の差も大きい。生産年齢にかけて男性が右上がりだが、女性は右下がりだ。20代後半以降、男女のカーブが乖離してくるところに、日本的なジェンダー意識(男は仕事、女は家庭)がはっきりと表れている。

諸外国でも、このようなグラフになるのだろうか。OECDの国際成人力調査「PIAAC 2012」では、有業者に年収を答えてもらい、全体の中での相対階層に割り振っている。<表1>は、日本の40代前半男女の結果だ。



同じ年齢層だが、男女では分布が大きく違う。男性は33%(3人に1人)が上位90%以上だが、女性は47%(半分近く)が下位10%未満だ。男性はフルタイム就業が大半であるのに対し、女性は家計補助のパート就業が多いためだ。

按分比例(比例による配分)を使って年収相対値の中央値を計算すると、男性は80.9、女性は12.5となる。普通のアラフォー労働者の稼ぎは、男性は上位20%、女性は下位10%という具合だ。



このやり方で、5歳刻みの年齢層ごとに年収相対値の中央値を算出した。これらをつなげば、年収の年齢カーブになる。国際比較も可能だ。日本、韓国、アメリカ、スウェーデンの4カ国のカーブを描くと<図2>のようになる。



日本は、<図1>の国内統計のカーブと似ている。ジェンダー差が大きく、男性は60歳を過ぎると急落する。性別・年齢による役割規範(拘束)がきわめて強い社会だ。韓国もこのタイプだが、日本ほどではない。

これに対してアメリカ、スウェーデンは違っている。ジェンダー差が小さく、女性のカーブが日本のように右下がりになることはない。収入の伸びが30代から頭打ちになるのも興味深い。日本のような機械的な年功賃金ではない。「何であるか」よりも「何ができるか」、簡単に言えば実力主義だ。

これは今から7年前のデータだが、日本は今後これではやっていけない。労働力不足の時代に、女性・高齢者の就業が促されるところだ。

賃金格差の是正も求められる。日本は収入のジェンダー差がはなはだ大きいが、「女性はパートが多いからだろう」と思われるかもしれない。事実、配偶者控除のライン(年収150万円以下)を意識した働き方をしている女性も多い。しかし、労働時間を考慮した時間給で見てもジェンダー差がある。

外国人労働者の受け入れ拡充が決まったが、上記のグラフを見ると、できることは他にありそうだ。働き手は、伝統的な意味での生産年齢層の男性だけではない。まずもってなすべきは、履歴書から性別・年齢の記入欄を無くすことではないか。

<資料:総務省『就業構造基本調査』(2017年)、
    OECD「PIAAC 2012」>


舞田敏彦(教育社会学者)

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