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米ミサイル実験計画で米露は核軍拡競争に逆戻り

ニューズウィーク日本版 2019年3月15日 15時9分

<INF全廃条約が8月に失効すれば、ヨーロッパでまた米露間の核の睨み合いが始まりそうだ>

米ロ間で締結された中距離核戦力(INF)全廃条約からの離脱をドナルド・トランプ米大統領が表明していたが、条約失効後の今年8月、これまで条約で禁止されていた中距離ミサイルの発射実験をアメリカが計画していることが明らかになった。

米国防総省は今週13日、INF全廃条約で禁止されていた地上発射型の中距離ミサイルの発射実験を行う計画を明らかにした。これに対してロシア政府は14日、米政府が条約の崩壊を狙っていると非難した。これまで米政府は、アメリカが条約から離脱するのは、ロシアが条約に違反してミサイルの製造・配備を進めているからだと主張していた。今や米ロ両国の政府が、お互いの条約違反を非難し合っているのが現状だ。

ロシアのドミトリー・ペスコフ大統領報道官は、「ロシアが条約を遵守していないという非難を断固として否定する。条約違反で条約を破壊しようとしているのはアメリカだ」と記者団に語った。「アメリカは予算案にも中距離ミサイルの研究・開発費を計上している」とペスコフは続けた。

「イージス・アショアは条約違反」

世界各国の軍事専門家はロシアが配備中の新しい地上発射型巡行ミサイルが条約違反にあたるとしばしば指摘してきた。しかし、アメリカが地上配備型のイージス弾道ミサイル防衛システム「イージス・アショア」を東欧のポーランドやルーマニアに売却したことが条約違反にあたるかどうかについては、賛否が分かれている。

米学術誌「原子力科学者会報」のウェブサイトに2月に掲載された論考で、マサチューセッツ工科大学のセオドア・ポストル名誉教授(国家安全保障)は、「西側メディアはしばしば、アメリカのミサイル防衛システムに攻撃能力があるとするロシアの主張を、大げさな情報操作のようのように扱う。しかし公の情報から見て、東欧に配備された米軍のイージス防衛システムは、中距離ミサイルを装備した場合、実際には条約違反にあたる」と述べている。

「イージス防衛システムをポーランドとルーマニアに配備する際に、オバマ政権内部でどのような議論が行われたか、これまで報道されていない。いずれのケースでも、防衛システムの能力について、国防総省からオバマ大統領とその政策スタッフに対して正確な助言はされていない。このため、東欧に配備したイージス・アショアが条約違反にあたる攻撃能力を持っていることを、オバマ政権が理解していたかどうか、確信をもって言うことはできない」とポストルは言う。



しかし実際の条約違反と、理論的に条約違反になり得るのとには、かなりの違いがあると言う軍事専門家もいる。

INF全廃条約は、冷戦中の1987年に米ソ間で締結された軍縮条約で、射程500~5500キロの全ての地上発射型の弾道ミサイル、巡行ミサイルの廃棄を求めている。この条約が破棄され、アメリカとロシアが再びお互いにミサイルを向け合えば、ヨーロッパは今後一体どうなるか、ヨーロッパの多くの米同盟国が不安を感じている。

アメリカがいつ再び中距離ミサイルを配備するか(そもそも配備するかどうか)、国防総省は明らかにしていない。しかしアメリカのミサイル実験計画は、米ロ間の軍拡競争が予想よりも早く始まるのではないかという恐れを生んでいる。



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クリスティナ・マザ

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