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パートタイム労働を差別する日本の特異性

ニューズウィーク日本版 2019年4月3日 16時30分

<高齢者の就業が増える今後の日本では、パートタイム労働をフルタイム労働と同等に考えなければ社会は回らない>

働き方にはいろいろあって、フルタイム労働もあればパートタイム労働もある。日本では少子高齢化が進むなか、高齢者の就業も増えているが、それに伴いパートタイムの働き方も多くなっている。

それは教員の世界も同じだ。人手不足の波が学校にも及んでおり、定年退職した教員を再任用したり、特定分野に秀でた地域人材を教壇に立たせたりしているが、こうした人たちの多くは勤務時間が少なめのパートタイム勤務だ。

OECD(経済協力開発機構)の国際教員調査「TALIS 2013」から、教員の勤務形態の内訳が分かる。今から6年前のデータだが、日本の中学校教員のパートタイム比率は3.8%となっている。調査対象の35カ国の数値を出すと幅広く分布しており、50%(半分)を超える国もある。高い順に並べたグラフにすると、<図1>のようになる。



ブラジル、メキシコ、オランダ、ジョージアでは、中学校教員の半分以上がパートタイマーだ。中南米の諸国では「教員の仕事は授業」という割り切りが強いのだが、そのことと関連しているように思える。パート天国と言われるオランダも率が高い。

日本のパート教員率3.8%は下から6番目で低い部類だ。われわれが日頃、目にしている光景は、世界では一般的ではないことが分かる。しかし冒頭で述べた事情から、今後は変わってくるだろう。



ところでパートタイムといっても、雇用の形態はさまざまだ。雇用期間のないパーマネントの人もいれば、細切れの有期雇用で働いている人もいる。この点の国際比較をすると、これまた日本の特異性が見えてくる。

中学校のパート教員の無期雇用率を出すと、日本はわずか1.5%だが、ブラジルやメキシコでは6割、オランダでは8割近くにもなる。勤務形態(フルタイムかパートか)と雇用形態(無期雇用か有期雇用か)から、中学校教員の組成を明らかにしてみる。<図2>は、日本とオランダの比較図だ。



日本ではパート教員はわずかしかおらず、その大半は有期雇用だ。対してオランダでは、教員の半分以上がパートで、その8割近くが無期雇用となっている。パート労働がどう見られているかが、国によって違うようだ。

日本では、パート労働は雇用の調整弁だ。賃金の上でも、フルタイムの正社員と差をつけられている。一方、パート大国のオランダでは同一労働・同一賃金の原則が徹底されている。賃金はあくまで労働時間の関数だ。各種の社会保障から疎外されることもなく、パートもフルタイムと同等の働き方として認められている。仕事を分け合う「ワーク・シェアリング」も進んでいる。

少子高齢化が極限まで進む日本では、ゆるい働き方を認めないと立ち行かなくなる。幸い、AIの台頭によりそれが可能になる見通しも立っている。「働かざる者食うべからず、フルタイム勤務をして一人前」という価値観は払拭されるべきだ。パートタイム労働者を社会保障から外したり、給与で差をつけたりするのは、それが根強いことの表れでもある。生活保護受給者に就労指導が入る際、いきなり8時間以上のフルタイムで働くことを促されるというが、これもおかしなことだ。

20世紀は「フルタイム」の時代だったが、21世紀は「パート」の時代になるだろう。そうでないと社会が回りそうにない。国民の多数が、体力の弱った高齢者になるのだから。この4月から施行される働き方改革推進法では、正規と非正規の差別的取り扱いが禁じられる。働き方改革の核は、働き方の多様化でなければならない。

<資料:OECD「TALIS 2013」>


舞田敏彦(教育社会学者)

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