Infoseek 楽天

5G界、一夜にして一変! 「トランプ勝利、Huawei片思い」に終わるのか

ニューズウィーク日本版 2019年4月18日 19時0分

Huaweiのアップルへのラブコールは、アップルとクァルコムの突然の和解により片思いに終わった。危機感を抱いたトランプの思い切った巨額投資と民間企業への介入が奏功し、5G界は一夜にして一変した。

コラムを書き終えた瞬間──

4月11日にHuaweiが「アップルになら、自社半導体を販売してもいい」と言っているのを知ってから、これは5G界に激変をもたらすと思い、先ずは事実の確認追跡とともに、それをどう解釈し、どう位置づけるかに苦慮していた。一昨日の明け方まで格闘し、ようやく分析に整合性が出てきたので、昨日17日の朝、その原稿をYahooのコラムにアップすべく、これも悪戦苦闘し、ミスを起こさないように更に推敲を重ねながら、ようやく午前 9時50分に<Huaweiが5G半導体をAppleにだけ外販?――Huaweiの逆襲>を公開したのだった。

Yahooのコラムにある「公開」というボタンを押す瞬間には、ある種の決断がいる。

「押すよ、いいね?」と自問自答しながら、クリックする。他のキーボードを叩く勢いではなく、そこには「祈り」のようなものを込めて、ゆっくりだが、力が入る。

押した瞬間、その内容は読者のものになる。

ああ、終わった――。

連日の徹夜のような闘いを終えた後に、張りつめていた背中や首や肩や腕から力が抜けていく。

前のめりにパソコン画面にくらいついていた姿勢から解き放たれ、フーッと溜め息をついて、パソコンから離れた。

もう80にもなる者が日夜送る生活形態ではない。若者だって、ここまで24時間、常に新しい事象を追いかけ、常に思考し、常にパソコンと向きあっていれば過労で倒れるだろう。夢の中でハッとして、「そうだ!こう解釈すれば整合性が出るのではないか!」と新しい着眼点に気付き、そのまま起き上がって、その着眼点を裏付ける証拠を検索し始めることもある。

この年になれば、ゆっくり余生を送るものかもしれない。それなのになぜ、ここまで闘い続けなければならないのか。

Yahooのコラムは別に書く義務を課せられているものではなく、書くことが許されているだけで、ノルマもない。本来なら気楽でいいはずだ。実際、私はこのコラム欄が大好きで、こんな良い形態はないと思っている。

ならば、のんびりやればいいではないかと自分でも思うのだが、どうにも解放されない使命感のようなものが私を支配しているのだ。



中華民国の時代に生まれ、中国でのあの革命戦争を経験し、餓死体の上で野宿して恐怖のあまり記憶喪失になりながら、八路軍に指示されるまま避難した先が朝鮮族の多い延吉だった。そこでまた朝鮮戦争を経験し、新中国誕生の中で、日本人として罵倒され自殺まで試みながら生き残ってきた。

そんな人間がいま執筆をして、言論弾圧をする中国に抵抗しながら、真相の分析に命を賭けて挑んでいく。たぶん、ここまでの歴史を背負いながら、なお執筆を続ける者はいないだろう。だからこそ、餓死せずに生き残った者としての使命感が私を執筆へと駆り立てるのだろう。

その毎日を繰り返しながら、今ようやく整合性のある分析に漕ぎ着けたのだ。

さあ、ひと休みしよう。

コーヒーの一杯でも飲もうか......。

そう思った時だった。

中国の新しいニュースを知らせるスマホの通知音が鳴った。

見れば「苹果与高通和解」(アップルとクァルコムが和解した)とあるではないか――!

なに――?!

ウソでしょ......?

慌ててパソコンに戻り、中国大陸のネットを開いて「苹果」と入力しただけで、すぐさま「苹果与高通和解」という選択フレーズが候補として上がってきた。

ああ、だめだ。ここまで来ているのか。

いやな予感を覚えながら、候補のフレーズをクリックすると、すでに2300万件以上ヒットするという熱気がネットに溢れていた。

中国は大きなショック

中央テレビ局CCTVではすでに放送したらしい。その結果を知らせる「央広網」にCCTVの見解が載っていた。中国共産党の機関紙「人民日報」の姉妹版「環球時報」の電子版「環球網」は、この時点で何本も記事を発表していたし、中国共産党の内部情報を書いてきた「参考消息」も、「金融界」や「量子位」など、なかなか信用のあるサイトも、それぞれに事実関係と見解を発表していた。

前日まで「もしかしたら華為(Huawei)が、アップルに5G半導体を売るかもしれない」あるいは逆に「ひょっとしたらアップルが華為の5G半導体を買うかもしれない」という目も眩むような可能性が中国のネットに大きな期待感を抱かせていただけに、この急転直下の「和解」が、どれほど大きなショックを与えたかは、想像に難くない。

「一夜之間、5G変了天――!」 (一夜の間に、5G界は一変してしまった!)

この文言が、これらの情報に共通した「ショック」であったと思う。



その前夜に私は、あんなにまで苦労して<Huaweiが5G半導体をAppleにだけ外販?――Huaweiの逆襲>を書いていたのだが、まあ、あのとき書かなかったら、二度と、この分析をすることは出来なかっただろうから、それはそれで良かったのではないかと思っている。決して負け惜しみではなく、「和解」が分かったあとで書いても、あの緊迫感を抱くことは二度となかっただろうから、Huaweiがどのような覚悟だったのかを考察する上では無駄ではなかった(と、自分に言い聞かせている)。

これを書いたからこそ、今この時点での中国ネット民の落胆が意味するものと、「和解」がもたらす今後の5G世界への影響が見えてくるからだ。

(和解内容に関しては日本のメディアでいくらでも見ることができるので、ここでは省略する。)

背後にはトランプ大統領

全ての中国情報にほぼ共通する、もう一つの分析がある。

それは「アップルとクァルコムの和解の背後にはトランプがいる」という分析だ。

日本のニュースでも既に数多く報じられているように、トランプ大統領は4月12日に、5G規格などに関して「アメリカは絶対に5G競争において勝たなければならない!」「アメリカは5Gのリーダーでなければならない!」と力説し、アメリカ政府が民間企業の投資を後押しする姿勢を、「突然!」打ち出している。

なぜ、ここにきて「突然!」なのか?

中国ではこれをHuaweiのアップルへの「オリーブの枝」援護発言と関係しているとみなしている。

<Huaweiが5G半導体をAppleにだけ外販?――Huaweiの逆襲>でも書いたように、「新浪科技」が、「華為(Huawei)がもしかしたら5G半導体を外販するかもしれない 但しAppleに対してだけ」と発表したのは4月9日 の「07:40」だ。その時点で既に「エンガジェット(Engadget)」が、「内部情報に精通している関係者が『華為が5G半導体を外販してもいいと言っているらしい。ただし、アップルに対してのみだ』と述べている」と報道している。

となれば、トランプ大統領の耳にもその情報は届いているものと推測される。なぜならトランプ大統領が4月12日に発言したのは、米連邦通信委員会(FCC)のパイ委員長とともに、ホワイトハウスでイベントを開催した時のことである。ということは、FCCは、このガジェット情報を入手していたと考えていいだろう。彼らは時々刻々湧き出てくるHuaweiに関する情報を必死でキャッチしているはずだ。



このイベントでは、5G基地局設置などへの政府補助金拡大を示唆しており、FCCは、アメリカの地方の5G整備に補助金を支給するため204億ドルの基金を設置し、民間投資の呼び水とする方針を打ち出している。

トランプ大統領は中国に対して盛んに「中国政府が特定の民間企業に投資することはWTOなどでの公平性に抵触する」として、中国政府が半導体基金を使って特定の国有企業に投資することを批難し続けてきた。にもかかわらず、自分は「アメリカ政府が特定の民間企業への投資を後押しする」という方針を打ち出しているのである。

その結果、アップルもクァルコムも、互いに損をするかもしれないことを承知で、そしてそれまでのメンツも何もかもかなぐり捨てて、トランプ政権による水面下の誘いがあり、司法で「妥協」してしまったと中国は見ているのである。

Huaweiは「失恋」したのか

中国のネットでは、Huaweiへの同情から、「アップルへの片思いだったんだね」とか「Huaweiは失恋してしまったのか」という類のコラムが数多く見られる。

中でもドキッとしたのは「いったい誰が銃口の照準をHuaweiに当てたのか?」という見出しだった。

そこにはトランプあるいはアメリカ政府を激しく批判する論調が展開されており、最終的には「Huaweiは負けない」で締めくくられている。

なぜなら、トランプ大統領の「アメリカは5Gで勝たなければならない!」という宣言は、取りも直さず、アメリカがHuaweiに負けている何よりの証拠であり、アメリカの危機感を顕著に表したものだからと位置付けているからだ。

事実、Huaweiが世界に既に設置している基地局の数は4万を超えており、ヨーロッパを始め多くの国が5Gに関してHuawei規格を用いると表明しているからだという論評が数多く見られる。現時点で、すでにアメリカの3倍に至っているという。

具体的にどれくらいの国がHuawei支持に回っているのかを検証したいが、長くなってしまったので、又の機会にしたい。

ただ一つだけ言えるのは、Huaweiがアップルに差し出した「オリーブの枝」は、5G界の動向を、大きく変えたことだけは確かだということである。

[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』(2018年12月22日出版)、『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中英文版も)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など多数。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

≪この筆者の記事一覧はこちら≫



遠藤誉(筑波大学名誉教授、理学博士)

この記事の関連ニュース