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南米の武器庫ベネズエラ、かなり危険につき......

ニューズウィーク日本版 2019年5月15日 16時0分

<武器大国となったベネズエラの政権が崩壊して犯罪組織に武器が渡れば、地域の安定も崩壊必至>

この20年の間に、南米大陸の最北部に位置するベネズエラは武器の保有数にして西半球でトップクラスの武器大国となった。そのベネズエラの治安が悪化の一途をたどる今、同国が保有する膨大な数の武器がならず者の手に渡る危険性が、この地域の安定にとって深刻な脅威となっている。武器商人たちがこの機に便乗しないよう彼らからベネズエラの武器を守ることは、アメリカとこの地域の同盟国にとって最重要課題であるべきだ。

ベネズエラのウゴ・チャベス前大統領と後任のニコラス・マドゥロ現大統領は、「アメリカによる侵略」という「脅威」を言い訳に大量の武器を購入してきた。そのほとんどはロシアから入手しており、99年から現在までの20年間で数十億ドル相当のロシア製武器を同国からの融資を受けて買い付けてきた。

ここ数年で手にしたものは、例えばロシアの最新鋭地対空ミサイルシステム「S300」のほか、数十万のカラシニコフ銃と銃弾、5000基の携帯式防空ミサイルシステム(lgla-S MANPADS)。公になっているだけでこれだけあるのだから、ほかにもより小型の武器や装置がベネズエラ軍の手中にあることは疑いようがない。

いま懸念すべきは、こうした武器の安全性だ。マドゥロ政権の支配力が揺らぐなか、腐敗した高官たちが武器を売りさばいて手っ取り早く現金を手にし、崩壊寸前の政権から逃げ出そうとしてもおかしくない。

もしマドゥロが軍の指揮権を手放さずにいられたとしても、武器が流出することへの不安は消えない。ベネズエラ軍の腐敗は甚だしく、マドゥロにてこ入れする近隣諸国のゲリラや犯罪組織と長年にわたって結び付いてきた。

民間航空機が狙われる

ベネズエラと国境を接するコロンビアやブラジルなどの犯罪組織はベネズエラ国内での麻薬や武器の密輸に積極的に関わっており、ベネズエラ政権も、こうした自警団的なゲリラ組織に率先して武器を与え、都市部における強圧的な支配権を維持しようとしてきた。

もしベネズエラで政権が崩壊したら、同国の武器をカネに変える動きを止めることはほぼ不可能であり、その結末は近隣諸国にとって悲惨なものになる。

特に懸念されるのは、携帯式防空ミサイルシステムが拡散して、民間航空の安全が脅かされることだ。同ミサイルシステムの中でもベネズエラが保有する lgla-S MANPADS は、ビルの屋上からでも上空2万フィート(約6キロ)以下を飛ぶ民間機を4マイル(約6.4キロ)先まで撃墜することができる。コロンビアやメキシコのゲリラ組織はこのミサイルシステムに強い関心を示しており、既に入手したとの情報もある。



また、カラシニコフ銃や狙撃銃など通常兵器が拡散することも懸念される。ゲリラ組織や多国籍の犯罪組織はこれらの通常兵器をテロ攻撃や強盗、治安部隊への攻撃に使用するために重宝しており、ベネズエラ軍はこれらを大量に保有している。ロシア製カラシニコフ銃の工場が19年末までにベネズエラで稼働し始めるという報道もあり、そうなれば毎年2万5000丁が生産されることになる。

アメリカと中南米の同盟諸国は、ベネズエラ政権が崩壊する日に備えて武器が大量流出することのないよう包括的な戦略を立てなければならない。ベネズエラが保有する武器の情報や国境警備の技術を共有したり、武器密輸を防ぐための対策を共同で行うことも考えられる。

アメリカと同盟諸国は、ロシアに対しても、同国が不安定な独裁政権に武器を輸出することに制裁を科すべきだ。ロシアによるシリアのアサド政権への支援に対して取ったような戦略が必要だろう。

ベネズエラの武器がならず者の手に渡らないよう、祈るだけでは不十分だ。無計画による失敗は、この地域に新たな暴力の波をもたらしかねない。

From Foreign Policy Magazine

<本誌2019年5月14日号掲載>

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ライアン・バーグ、アンドレス・マルティネス・フェルナンデス(アメリカン・エンタープライズ研究所研究員)

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