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イランのイスラエル攻撃でウクライナが嘆く理由 NATO非同盟国への対応の違いが招く戦争リスク

東洋経済オンライン / 2024年4月19日 9時40分

イランがイスラエルに向けて無人機とミサイルを発射後に作動した対ミサイルシステム(写真:ロイター/アフロ)

シリアの首都ダマスカスにあるイラン大使館周辺が1日に空爆され、イランのイスラム革命防衛隊(IRGC)の対外工作機関「コッズ部隊」の上級司令官、ザヘディ准将と部下を含む7人が死亡したことを受け、4月13日にイランは史上初となるイスラエルへの直接の報復攻撃を行った。

一方、アメリカのバイデン大統領は、イスラエルが今回の攻撃に対して報復攻撃を行わないよう自制を求め、報復すればアメリカはいっさい関与しないとクギを刺した。ただ、強硬派であるイスラエルのネタニヤフ首相が何もしないことは考えにくい。対するイラン側は同攻撃を事前予告したうえ、今回の攻撃は終了したとしている。

300以上の無人機やミサイルによる攻撃

4月13日に実行されたイランによる300以上の無人機やミサイルによる攻撃は、イスラエル軍によれば、アメリカ、イギリス、フランスなどの協力もあって99%撃墜し、高い防空システムの有効性が証明された。

これに反応したのが、ウクライナのゼレンスキー大統領だ。2年以上ロシア軍と戦うウクライナは、開戦当初から西側諸国に対して防空システムの供与を要請していたにも関わらず、最新鋭の防空システムを手にしておらず、アメリカから支援が先細りする今、ロシアの無人機やミサイル攻撃の前に劣勢に回っている。

ゼレンスキー氏は「もし、ウクライナが無人機やミサイルの迎撃においてパートナー国から同様の全面的な支援を受けていたら、ヨーロッパの空はずっと前に同じレベルの保護を受けていただろう」と15日の夜にⅩへ投稿した。

特にアメリカ、イギリス、フランスの軍がイランのミサイルや無人機の迎撃に協力したことについて「イスラエルは北大西洋条約機構(NATO)加盟国ではないので、NATO第5条(集団的自衛権)発動などの行動は必要なかった」と指摘し、同じNATO非同盟国のウクライナ支援との差について「偽善」と非難した。「自由と民主主義の盾となっているウクライナとイスラエルは何が違うのか」とゼレンスキー氏は疑問を呈する。

イランからイスラエルに発射された自爆ドローンや、巡航ミサイル、弾道ミサイルの大半が迎撃されることはイランには想定の範疇だった。重要なことは歴史上始めて、中東の大国で反アメリカの急先鋒のイランがイスラエルを直接攻撃したことだった。

西側同盟国の遅々として進まないウクライナ支援

だが、ウクライナの見方は異なる。ロシア軍がウクライナに向かって発射する無人ドローン機は、今回イスラエル攻撃に使用されたのと同じイラン製だ。強固な防空システムさえあれば、ウクライナも迎撃できたはずだ。

アメリカなどの協力のもとにイスラエル軍が構築した防空システムは多種多様で、最も知られているのはイスラエル独自の地上発射型の防空システム「アイアンドーム」、さらに標的への命中率は90%と言われる「ラファエル・ディフェンス・システムズ」、アイアンドームの海上防空システム版の「Cドーム」、中長距離用のミサイルやドローンに対抗する防空システム「ダビデ・スリング」、さらに弾道ミサイル迎撃システムの「アロー2」と「アロー3」も保持している。

加えて、アメリカ製の地対空ミサイル「パトリオット」も今回活躍したとされる。ドイツはウクライナの防空能力を強化するパトリオット・ミサイル防衛システムを1基追加で送ることを約束したが、トーラス巡航ミサイルの提供は拒否したままだ。

フランス、イタリアは共同開発したSAMP/T-マンバという防空システム供与を決めているが、稼働に至っていない。西側同盟国の遅々として進まない支援にゼレンスキー氏がいら立つ中、4月17日、EU首脳は「ウクライナへの防空を緊急に提供する」必要性の認識で合意したものの、具体的には何も決まっておらず、「氷河期的ペース」と欧州メディアは指摘する。

イランのイスラエルへの直接攻撃への対応は迅速で、先進7カ国(G7)は議長国イタリアのメローニ首相が4月14日夜、オンライン形式で首脳会談を開催し共同声明を発表、攻撃を「最も強い言葉で非難する」と述べた。同時にイスラエルの安全保障への関与を再確認した。当然ながらG7の一員である日本も合意文書に署名している。

ところがイランから原油供給を受け、伝統的友好関係にある日本は、イスラエル寄りのアメリカやイギリス、フランスと歩調を合わせるしかなく、ダブルスタンダードと批判される中、独自外交は展開できていない。さらにG7は、イランの石油輸出や高官を標的にした制裁の検討に入った。イランへの厳しい姿勢が、報復攻撃を検討するイスラエルに自制を促す狙いもあるが、日本は葛藤している。

西側にとって最前線基地でもあるイスラエル

一方、ロシアの攻撃を2年以上受け続けるウクライナに対する西側諸国の姿勢は、明らかにイスラエルへの対応と異なる。イギリスのキャメロン首相は「欧州諸国は大規模な軍事支援を行い、過度にロシアを刺激すれば、戦争のエスカレーションで欧州全域に戦争の危機が広がることを懸念している」と述べている。

さらに欧州内にはユダヤ人コミュニティーとイスラム系コミュニティーが存在し、つねに緊張をはらんでいる。十字軍の時代から続くイスラム勢力と西側諸国の対立は歩み寄れないほどの距離を持つ。イスラム勢力は西側同盟国を敵としてしか見てこなかった。その中で唯一、西側と価値観を共有できるのがイスラエルだ。西側の支援で建国を果たしたイスラエルは、西側にとっては前線基地でもある。

長年のユダヤ陣営のアメリカでのロビー活動もあり、フランスをはじめヨーロッパに広がるユダヤ社会は政界、財界、法曹界、メディアに人を送り込み、強力な影響力を持つ。いざとなれば非NATO加盟ながら、加盟国並みの防衛を行使するシステムが構築されている。ウクライナはもともとソビエト連邦の一部で、NATOや欧州連合(EU)への加盟を希望しているが、背後のロシアの存在をつねに気遣っている。

今年に入り、共和党が過半数を占めるアメリカ下院は対ウクライナ支援予算を通すことができず、4月15日にジョンソン下院議長はイスラエルとウクライナへの支援を今週、別個の法案として審議すると述べた。上院を通過した法案は総額950億ドル規模でウクライナ支援に600億ドル、イスラエル支援に140億ドルを充てるとなっている。

ウクライナ支援がこれ以上遅延すれば、ウクライナは取り返しがつかないほど疲弊し、欧州全体が戦争の危機に陥る可能性もある。ゼレンスキー氏は「今、全世界がイスラエル空域と近隣諸国におけるイスラエル同盟国の行動から、テロを防御するために一致団結する効果がいかに大きいかを目の当たりにした」と述べた。

全面戦争にエスカレートする危険性

今、最も注目されているのは、イスラエルのイランへの報復がどのような形で実行されるかだ。ユダヤ教で言う「目には目を歯には歯を」の考えが頭をもたげることが懸念されると、イギリスのBBCは指摘する。そうなれば全面的な地域戦争に至る可能性がある。シリアのイラン在外公館を全壊させるほどの大規模なエスカレーションには、エスカレーションで応える必要があると、イラン政府は判断した。

実際、ガザ攻撃ではハマスがイスラエルを攻撃して奪ったユダヤ人の命は約1200人で、対する25倍の3万人以上のガザ市民やハマス活動家をイスラエルは殺害した。この報復の応酬こそ中東地域全体を巻き込む全面戦争にエスカレートする危険をはらんでいる。

アメリカ依存のNATOからの脱却を模索する欧州諸国も、イスラエル寄りの外交を続ける一方で、マクロン仏大統領は「ウクライナ紛争はロシアに勝つしか終結の選択肢はない」と言明し、対ロシア懐柔策から距離を置き、場合によっては地上軍派遣もやむをえないと発言している。NATOが本気でウクライナの空を守れなければ、ロシア軍によるEU域内攻撃の可能性も出てくる。

皮肉にもウクライナをネオナチと同一視する発言を繰り返すロシアのプーチン大統領からすれば、ロシアに近いイランのイスラエル攻撃を表向き自制するよう要請したものの、結果的に西側諸国がイスラエルの防衛支援には迅速かつ大規模に対応したことで、ウクライナ防衛とのダブルスタンダードが歴然だったことから、ウクライナをあざ笑っている可能性は高いとも言えそうだ。

安部 雅延:国際ジャーナリスト(フランス在住)

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