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イランも臨戦態勢に──戦争を避ける最後のチャンス

ニューズウィーク日本版 2019年5月17日 18時15分

<アメリカとイラン、どちらも「戦争は避けたい」と言うが、準備は着々と進んでいる>

イランの精鋭部隊「革命防衛隊」のトップが、アメリカとの軍事衝突が迫っている、と警鐘を鳴らした。同時に、どのような展開になってもイランが最終的に勝利すると鼓舞した。

イラン政権に近いタスニム通信の報道によると、革命防衛隊の副司令官から新司令官に先月任命されたばかりのホセイン・サラミは、5月15日に出席した式典でイランが「敵国との全面対決」に近づいていると警告した。

今月アメリカは、イランの脅威が高まっているとして空母エイブラハム・リンカーンを中心とする打撃群と、核搭載可能な戦略爆撃機による部隊を中東に派遣した。さらに15日、イランの隣国イラクから、緊急要員以外の大使館職員らの退避を命じた。

緊張が高まる中でサラミ司令官は、1978~1979年のイラン革命を引き合いに出した。イラン革命でイランは、アメリカが支援するパーレビ国王を追放し、イスラム教シーア派の法学者が権力を掌握する今のイスラム共和制を樹立した。その現体制が、存亡の危機が迫っている──。

「イスラム共和制に重大な危機が迫っている。敵国は可能な限りの攻撃能力を従えて戦場にやって来た」とサラミは述べた。

ホルムズ海峡は渡せない

サラミはトランプ政権の「最大限の圧力をかける戦略」は、イランの「抵抗、粘り、忍耐」によって最終的に頓挫するだろう、と続けた。「我々の敵は限界だ。表面は強く見えるが、内側から骨粗しょう症を起こしている」

米政府はこの数週間、イランやイランが支援する代理武装勢力が、中東でのアメリカの関係機関への攻撃を企てている、とイランの脅威を強調してきた。ジョン・ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は5月5日、イランの攻撃計画に関して「不安な兆候がある」と言った。実際翌週には、ホルムズ海峡近くのオマーン湾で6隻の石油タンカーが相次いで攻撃される事件が起きた。

世界全体の原油海上輸送の約3分の1が通過するホルムズ海峡は、アメリカ、イラン双方から最重要の戦略的要衝と見なされ、両陣営が睨み合いを続けている。ドナルド・トランプ米大統領がイラン核合意からの離脱を決定した昨年5月以降、対立の度合いは強まるばかりだ。



2015年に締結されたイラン核合意は、イランの核開発を制限する見返りとして経済制裁を解除するもので、アメリカとイランの他、イギリス、フランス、ドイツ、ロシア、中国も参加している。

トランプ政権は、この核合意は中東のイスラム武装組織への支援や弾道ミサイル開発に資金を注ぎ込むことをイランに許すものだと非難している。アメリカが核合意から離脱した昨年5月以降は、原油を筆頭にイランからの禁輸措置は強化された。一方イランは、アメリカの制裁への対抗先としてホルムズ海峡を封鎖するとほのめかしている。

イランは、軍事衝突があるとすればアメリカのせいだと主張している。イランはアメリカが「対立を煽るフェイク諜報活動」を行っているという。アメリカは2003年、イラクに侵攻したときにも、「イラクには大量破壊兵器がある」というフェイク情報を口実にした。

事実、イランが弾道ミサイルの配備を進めているとした情報は、イランと敵対するイスラエルからアメリカに提供された衛星写真に基づくものだと、ある国防総省関係者は本誌に明かした。さらに今週14日には、ボルトンに命じられたパトリック・シャナハン米国防長官代行が、イランに対する攻撃・報復作戦を立案していたことも明らかになった。

だが今のところは両国とも、戦争は望まないと意思表示している。イランの最高指導者ハメネイ師は今月14日、「今回のにらみ合いは、軍事的なものではない。戦争になることはないからだ。イランも(アメリカも)戦争を望んでいない」と語った。

トランプも翌日、アメリカがイランとの軍事衝突に向かう可能性があるかどうか記者団から尋ねられ、「そうならないことを望んでいる」と発言した。戦争を回避するなら今のうちだ。


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ペルシャ湾に向かう米空母エイブラハム・リンカーン




トム・オコナー

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