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アメリカ初の軍事パレードはトランプ再選に向けた大がかりな選挙集会──独立記念日

ニューズウィーク日本版 2019年7月4日 18時10分

<戦車を展示し戦闘機の実演飛行も予定される式典を再選のために利用するトランプが、わざわざ武力を誇示しないという超大国アメリカの伝統的な矜持をぶち壊しにする>

ドナルド・トランプ米大統領発案の軍事パレードが、7月4日の独立記念日(日本時間の5日)に首都ワシントンのリンカーン記念堂で行われる。

「アメリカに敬礼を(Salute to America)」と銘打ったこのイベントには、ナショナル・モール(リンカーン・メモリアル前の広場)での戦車の展示や戦闘機の実演飛行などがあり、リンカーン・メモリアルとポトマック公園では花火が打ち上げられる。トランプも演説する。超党派の独立記念日に大統領が演説をするのは異例だ。

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アメリカでは初の本格的な軍事パレードになる予定だが、トランプは支持者にプレミアム観覧席のチケットを配布するなど、再選のための選挙活動に利用しようとしていることがわかった。入場料無料の公的イベントで、トランプの支持者がVIP席を埋め尽くす可能性について、多くの倫理・法律の専門家から懸念の声が上がっている。

オバマ政権下で連邦職員管理局倫理部の部長を務めたウォルター・ショーブはツイッターで米議会にこう呼びかけた。「トランプは自陣営に多額の献金をした支持者へのご褒美として、国民の血税で行われるイベントのVIP席のチケットを(共和党全国委員会を通じて)配布しようとしている。きみたちは、こんなことを許すのか? 政治家が再選に向けた資金調達に軍隊を利用する。アメリカはそんな国に成り下がったのか」

<参考記事>トランプは軍事パレードより、4万人の飢えた退役軍人に食事を

再選しか頭にないトランプ

これでは、イベントに参加する兵士まで米軍の倫理規程違反に問われることになると、米海軍予備役将校でジャーナリストのジョシュ・キャンベルは指摘し、国防総省の倫理指針に記載された「禁止された政治活動(セクション4.1.2)」のスクリーンショットをツイッターに投稿した。

「米軍の現役兵士は、1.政党の資金調達活動、集会、党大会、選挙活動の運営、討論会に参加してはならない。これは軍服の着用いかんにかかわず、兵士であることが推測できるか否かにもかかわらない」

トランプが、党派を超えた厳粛な式典で政敵を攻撃し、自分の実績を強調するのはこれが初めてではない。6月初めにはフランスでノルマンディー上陸作戦75周年記念式典に参列。FOXニュースのインタビューに応え、作戦で戦没した米兵が眠る墓地を背景に、ライバル民主党のナンシー・ペロシ下院議長とロシア疑惑を追及したロバート・モラー特別検察官をあしざまにののしった。

<参考記事>トランプをパリに招いたマクロン「おもてなし」外交のしたたかさ



2017年の訪仏時には、エマニュエル・マクロン大統領とともに革命記念日の軍事パレードを観覧。いたく感銘を受け、ワシントンでも米軍の軍事力を誇示するイベントを開催すべきだと言った。この話が伝わった直後から、共和・民主両党から、軍事パレードは多額の費用がかかる上に、挑発的な悪いイメージを与えかねないという反発が相次いだ。

アメリカは軍事超大国でありながら、フランスやロシアや中国のような軍事パレードは行わず、軍事力の誇示を控えてきた。圧倒的な超大国なのに、わざわざ誇示する必要はないというのが歴代政権の伝統的な考えだった。

しかもトランプは、軍事パレードに何百万ドルもの税金をつぎ込むつもりだ。ある財務専門家は公共放送機関ナショナル・パブリック・ラジオ(NPR)に対して、航空機や軍事設備をイベントに駆り出すのには大変なコストがかかると指摘した。大統領専用機「エアフォースワン」に使われているボーイング747型機は、使用1時間あたり最大25万ドル。また国防総省によれば、儀礼飛行に使われる戦闘機の一部は、1時間のレンタル代が約2万ドルになる。

ジョージア州フォートスチュアート陸軍基地から首都ワシントンまで超重量級の戦車一両を移動させるだけでも、費用は莫大。ホワイトハウスのある側近がUSAトゥデー紙に語ったところによれば、移送費の概算見積もり額は87万ドルだった。戦車が通った後は、削れたアスファルト道路の修繕費もかかる。

費用がかかりすぎるし、独立記念日の祝賀というよりも2020年の大統領選に向けたトランプの選挙集会になっているとして、独立記念日が終わっても批判は続きそうだ。

下院軍事委員会のジャッキー・スペアー下院議員は7月1日、ツイッターにこう投稿した。「トランプはテレビ映えする瞬間をつくろうと必死だ。独裁者は戦争兵器を誇示することで劣等感を補おうとするものだ。何より、金の無駄遣いだ」


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ジェシカ・クウォン

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