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日本人は「政治に興味ない」「専門的に生きている」──外国人のお笑い座談会より

ニューズウィーク日本版 2019年8月6日 9時45分

<ハーバード大卒お笑い芸人のパックンが、周来友、チャド・マレーン、ナジーブ・エルカシュの3氏を呼んで「日本と世界のお笑い」を大研究。日本のお笑いに「政治」がない理由が見えてきた>

外国と日本のユーモアはどう違うのか? なぜ日本には政治をネタにしたお笑いがないのか?

8月6日発売のニューズウィーク日本版「パックンのお笑い国際情勢入門」特集(8月13&20日号)で、「世界の政治を題材に日本の読者を笑わせる」という難題に挑んだパックン(パトリック・ハーラン)が3人の在日外国人と激論した。

座談会に集まったのは、中国人のジャーナリストで実業家、タレントでもある周来友(しゅう・らいゆう)さん(56)。吉本興業所属のお笑い芸人で、『世にも奇妙なニッポンのお笑い』(NHK出版新書)の著書もあるオーストラリア出身のチャド・マレーンさん(39)。そして、ダジャレ好きなシリア人ジャーナリスト、ナジーブ・エルカシュさん(45)。

『笑点』の大喜利よろしくパックンが司会を務め、各人にお題を振る。時に得意のジョークが飛び交い、時にディベートの様相を呈し、時に下ネタに走る4人。

3時間近くに及んだ「外国人座談会」は本誌特集にも収録しているが、ここでは拡大版を前後編に分けて掲載(この記事は後編)。脱線し過ぎた箇所と放送禁止部分を取り除き、濃密な1万5000字に凝縮しました。どうぞお楽しみください。

座談会・前編:「日本のお笑いって変なの?」をパックンが外国人3人と激論しました

(※一部の読者が不快に感じるおそれのある刺激的な表現を含みます)

◇ ◇ ◇

編集者 コントの内容にはどんな違いがありますか。

パックン 日本はほとんど日常生活じゃないですか。アメリカだと政治や下ネタが多い。シットコム(シチュエーションコメディー)だと日常生活だけど、コントになると飛んだ設定が多い。バイキングの話とか、宇宙人が地球にやってきた話とか。

周 中国だと時事ネタが多いね。その年にすごくはやっていたことだとか。

パックン アメリカだと、ちょっとシュールな設定もある。昔『サタデー・ナイト・ライブ』で見たコントの1つは、頭にステーキがくっ付いているキャラクター。あり得ないでしょ。頭がトウモロコシになっている「コーンヘッズ」というキャラクターもいた。

編集者 あ、知ってます!

パックン 映画にもなった。すごい怪力で、地球人の文化がいまいち分からないという設定だった。日本よりもコントの設定が飛んでます。日本のコントは、設定はアメリカのシットコムに近い。中東はどうですか。

ナジーブ ジョークが中心だけど、コントの内容、設定について言えば......例えば、精子の話。

チャド ザーメンですか。

ナジーブ ザーメンです。チャドさん、ドイツ語上手ですね。

パックン ザーメンってドイツ語なの?

ナジーブ 精子の中にエースがいる。みんないつもフラストレーションを抱えている。ある時、ゴムに穴が開いた。みんなすごく一生懸命走って、断トツに速いエースの子が先にたどり着いた。それでみんなに向かって言うんです。「ストップ、ストップ! うんこだった」

パックン 嫌だねぇ。アナルセックスのジョークだねぇ。まぁ、せっかくこういう時間帯になってきたので、アメリカンジョークを1つ。

ビジネスマンがどこかの国に行って、接待をいろいろ受ける。夜遊びでヤってるときに、その国の女性に「オシャイヤー、オシャイヤー!」と言われて、これは「最高」って意味だなきっと。うまいって言われてるんだな俺、と調子に乗っている。これでこの国の言葉を1つ覚えたぞ、と。翌日、ゴルフに行って、ホールインワンを打つんですよ。それで「オシャイヤー、オシャイヤー!」と言うと、相手の人は「え、穴が違うってどういうこと?」。

(一同爆笑)

チャド 日本の芸人は下ネタは普通に言うんですけど、あんまりテレビで言わへんのは、なんかずるしてる気がするから。簡単に笑いを取れるから。そもそも、ジョーク自体、日本人はあまり言わない。落語家さん、噺家さんは言ったりするけど。



「日本人はすぐに笑う」「『ボビーと思います』だけでウケる」

ナジーブ 日本だと、普通に起こることで日本人は笑っちゃう。例えば「雨に濡れた」、これだけで笑う。

パックン 最初、周さんに日本に来て予想と違ったことは何ですかと聞いたら、いきなりディープな話に行っちゃったんだけど、僕自身はこういうところに最初驚いたんですよ。日本人はすぐに笑う。大して面白いこと言ってないのに笑う。

ナジーブ そうそう。「転んだ」ワッハッハ、みたいに。

パックン 「久しぶりだねぇ」「そうだよねー」ハッハッハ。全然面白くねえよ!

ナジーブ シチュエーションで笑うのか、物語で笑うのか。よく分からないけど、日本人はシチュエーションで笑うのだと思う。私が話す物語性のあるジョークで笑ってほしいのに、笑ってくれない。

パックン 日本人はジョークに構えるんですよ。「ジョークです」と言うと、さぞ面白いこと言うんだろうな、みたいな。ハードルがぐんと上がる。日本のテレビも、ほとんど即興なんです。その場で生まれる笑い。

チャド もしくは、作り話だと面白くないけど、一人称でしゃべるのはいい。

パックン そう、すべらない話。面白い実体験としてしゃべるといい。でもとにかく(日本人は)よく笑ってるんですよ。

ナジーブ 私の中では1つのセオリーがあって、日本人はすごくしっかりしている。常に完璧な形があり、それがちょっと崩れると笑える。だから、転んだとか雨に濡れたとか、それだけで面白くなるんじゃないか。

パックン みんながしっかりしているから、ちょっとしたずれが笑いになる。われわれ外国人のお笑い芸人、タレントがたぶんすぐに気が付くのは、日本の常識がすごく......。

チャド 狭いんですね、共通している常識が。

パックン そうそう。常識が決まってるわけ。アメリカだと非常識も含めて常識というか。

チャド 文化も宗教も、いろいろあるから。

パックン だから、英語を間違えたって大して笑えない。

チャド 「ボビーと思います」とかね。日本だとこれだけでウケる。「ボビーと申します」じゃなくて「思います」。

パックン ボビー(・オロゴン)さんがね。お約束のネタがあるじゃないですか。(林家)三平師匠も僕を題材にネタにしてるんですけど、「ご愁傷様です」を「ご馳走様です」と間違えたりとか。

ほかにも、社長にタメ口で話すだけで笑いになる。「社長、元気か」「平社員の口調じゃねぇよ」ってね。これだけで笑える。常識をちょっと逸脱するだけで笑えるのが日本の特徴かな。アメリカだと常識が広過ぎるから、もっと極端なことをやらないと笑えない。



「イギリスではエリザベス女王が下ネタのオチになる」

周 日本人は結局、面白いから笑ってるんじゃなくて、ばかにできる、自分が上に立てるから笑ってるんじゃないか。優越感で笑ってるのかなーと、そういう気はしますけどね。

パックン どうなんですかね。日本人は笑って優越感を覚える?

編集者 それで言うと、『ガキ使』のケツバットみたいな、ああいういじめっぽいタイプの笑いは、不快に受け止める外国人もいると思うんですが、どうですか(編注:『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』で、笑ってはいけない状況で笑ってしまった人は、罰ゲームとしてバットで尻を叩かれる)。

パックン アメリカ人として不快感はないけれど、抵抗はあります。めちゃめちゃある。

チャド こちらとしては、ケツを叩いてることが面白いわけではなくて、そこに至るまでが面白いのであって、ケツバットだけに注目されてしまうのは、すごく不本意。

パックン それは芸人目線じゃん。オーストラリア人目線だったら?

チャド オーストラリア人には、その違いを伝えていきたいと思っている。

パックン 日本のお笑いは面白い、それは僕もそう思っているけれど、ケツバットが(その面白さを伝える)邪魔をしていると思うんですよ。

でも面白いよね。日本は穏やかな文化で、暴力はあまりないし、司法制度の懲罰も軽いんだけど、お笑いはちょっと激しい。アメリカは社会が超暴力的なのに、お笑いは穏やかですよ。ツッコミもない。けなしたり、毒舌で笑いを取ったりすることはあるが、ケツバット的なものは全くない。

じゃあ、そろそろ政治にいきましょう。政治ネタができない日本をどう思いますか。

周 日本はできない? 政治家をいじったりできるし、実際してますよ。まぁ最近はね、安倍さんが強くて忖度とかもあって、みんなビビってるんだけど。日本で本当にできないのはたぶん、皇室だよ。皇室は絶対できない。

編集者 確かに。絶対できない。

パックン これはイギリスと大違い。それこそ、エリザベス女王が下ネタのオチになったりするんですよ。何でもありです。



「日本人は今、そこまで不満がないんじゃないか」

ナジーブ 政治とちょっと違うけど、アイデンティティーのユーモアがある。これは面白いと思いますね。日本でもネタにできる可能性があると思う。

例えばシリア難民の話で――実際にあった話だけど――スウェーデンに随分前に難民として行き、今は市民権を取っているシリア人がいる。彼らの祖国から難民がたくさんやって来たときに、彼らはその新しい難民を排除したい政党に投票したんですよ。同じシリア人なのに。

レバノンでも、隣国シリアからの難民を疎ましく思う風潮がある。30年前に難民としてレバノンに来たシリア人が、レバノン国籍を取った。その役所からの帰り道で、こう言う。「あー、一体いつになったらシリア人は自分の国に帰るのか」

パックン いいジョークだね。

周 実情でしょ?

ナジーブ いや、スウェーデンは実情だけど、レバノンのところはジョーク。

パックン でしょ。だからスウェーデンの実情を題材にそういうジョークを作っているというのは、素晴らしいと思う。矛盾した状況。僕も個人的に、先に入ったアメリカ人のお笑い芸人として、後から日本に来たアメリカ人を排除したい気持ちはある。

(一同爆笑)

編集者 厚切りジェイソンとかですね。

パックン おい、名前出すな!

チャド ジョークのおおもとにあるのは真面目なことじゃないですか。それを面白おかしく伝える。笑って過ごすしかないというか。となると、日本は平和ボケと言われるくらいで、苦しい局面にいない、不条理を経験していないから、そういうユーモアが生まれていないのでは。

パックン (ジョーク本著者の)早坂隆さんも言ってました。日本人は今、そこまで不満がないんじゃないかと。

チャド 日本人はわりと受け入れ態勢抜群な人たちでしょう。受け入れてしまう。不満がないわけじゃないけど、まぁしゃあないなと。もしも爆発するぐらいに不満が(社会に)たまってるなら、勝手に芸人がネタにしていると思う。芸は社会の鏡だから。

パックン でも、万が一不満があったとしても、それを代弁するのは芸人じゃないという国民目線もあるんじゃないか。なんで芸人がそんな政治ネタをやって、政治に口出してるんだっていう、芸人を見下す風潮。

編集者 最近はカンニング竹山さんなどがコメンテーターとして活躍しているが、見下す風潮はないと思う。

パックン (彼は政治で)ジョークを言っているわけではない。僕もコメンテーターをやらせてもらっているが、ジョークとメッセージは分けて発言している。

フランス人に教えてもらったけれど、フランスのお笑いにはメッセージが必要だと。アメリカでスタンダップをやっている日本人2人に聞いても、アメリカのお笑いにはメッセージ、何か残すものが必要だけど、日本人は芸人にメッセージを求めていないと言っていました。

ナジーブ 仕事から帰ってきて、何も考えない、ばかな笑いがいいということだと思う。

1つおすすめしたいドキュメンタリー映画があるんですけど、山形国際ドキュメンタリー映画祭で見た、在日朝鮮人が日本のアダルトビデオ業界で活躍する作品。『IDENTITY』という作品だけど、監督が面白い人で、本当は作品名を「冬の素股(すまた)」にしたかったと。

(一同爆笑)

ナジーブ 私も爆笑したんだけど、もう1つ笑ったのが、今は帰化して日本人になった人がAVの撮影のために東京から広島に行くシーン。新幹線の窓から富士山を見て、「あー、富士山を見ると、やはり日本人でよかった」と、カメラに向かって、冗談でなく真面目に言ってるんですね。

パックン その在日は日本で生まれた人?

ナジーブ はい、日本で生まれた人。その人は自分を日本人だと思いたい。でも映画全体を通して、全然日本人として扱われていない。アイデンティティーの矛盾がある。

パックン それを聞いただけで、僕はすごく悲しい。

ナジーブ もちろん悲しいですよ。悲しみの爆笑です。たぶん私も、今シリアが内戦になってて、日本の国籍を申請することになる。でも70歳のおじいさんになってもおそらく、日本人として認めてもらえないと思う。

パックン そういう事情をネタにできるはずなんですよ。そしてそれは許されるはずなんですよ。今日の(昼間のパックンマックンの)舞台でも話したんですけど、みんな――周さんは違うかもしれないけど――お箸上手ですねと言われる。26年日本に住んでてお箸使えないやつがいるか!と思う。

周 当たり前だよ。(お箸の使い方は)私が(日本人に)教えたようなものだよ!

(一同爆笑)



「笑わせること以外のアジェンダを持つとその分面白くなくなる」

パックン 実体験として、外国人の顔だから日本人と認めてもらえないというネタは、おそらくできる。でも、もっと普通に、今日起きた政治の話をネタにできないのはなぜなんだ、と。社会情勢、世界情勢を笑いにする人が日本になんでいないんだって、不思議に思うんですよ。

チャド それを不思議に思わない理由、2つあります。一般的な日本人が政治に興味あったら(芸人が)勝手にやってる。つまり、政治に興味がない。興味ある人はもちろんいるけど、マスではないんやろなと。

もう1つは、芸人からすると、そこに手を出すリスクというか、アーティストのつもりでやってるのに、社会を変えようとか、笑わせること以外のアジェンダを持つとその分だけ面白くなくなってしまう。こっちのほうが大きな理由。興味があるし時事ネタもできる芸人いっぱいいるんですけれど、お笑いという本業になると、政治ネタをやらないほうにロマンを感じるんです。

パックン なるほど。

編集者 もしオーストラリアでお笑い芸人をやっていたとしても同じ?

チャド ガチで言うと、変えていこうと思っている。オーストラリアに行って、お前らやってること、まだまだやぞと。僕は日本のお笑いが世界で一番ダントツに進んでると思ってます。

パックン 日本のお笑いに学べと。

ナジーブ 私も(日本に政治ネタがないことが)不思議じゃないと思っている理由があります。日本人は専門的に生きています。

パックン ほぉ、それぞれが専門家ということ?

ナジーブ もしもシリアで電気屋さんに行って水道のことを頼んだら、絶対「できるぞ」と言う。でも(日本の)家の近所のベーカリーで、バゲットがないので尋ねたら「うちはバゲットはやってない」と自慢げに言うんですよ。パン屋さんなのにバゲットを売らない。バゲットを否定するわけじゃないが、専門の狭さをアピールする。

レバノンで出会ったある日本人がいて、アラブのスイーツを勉強していた。帰国したら自分の故郷、広島の田舎でお店を開きたいと言っていた。それはアラブスイーツのお店ですかと聞いたら、いや、マムールの店だと。マムールという、アラブスイーツの1つの種類。広島の田舎で? アラブのスイーツの店でしょ? いや、マムールだけです。私はマムールの神様になるぞ、みたいな。

パックン 餅は餅屋。

チャド 自分が知らないことは、その道のプロに任せる。

ナジーブ だから、コメディーの人は政治の人とは違う、それよりはコメディーの腕を磨いてください、となる。



森友学園が盛り上がったのは「人間模様だから」

パックン それで今、納得したのは、日本人はジョークを持たない、日本にはジョークの文化がない。アメリカ人はたぶん、みんなジョークを1つは持ってるんです。でも日本人は、餅は餅屋の文化だから、「芸人じゃないから、ここですぐには(ジョークを)言えない」。

チャド と、言うてまうんやろな。でもそれ関東の人だけやで。

(一同爆笑)

周 政治の話は毎日、ニュースとか情報番組とかで一応あるじゃない。でも情報番組で大きく扱うかというと、やらない。日本人は重いネタは好まない。

チャド 確かに、ワイドショーで政治の話はたくさんある。あれはどういうことですか。

パックン 森友学園とか(盛り上がった)。

周 あれは政治だからではなく、人間模様だからじゃないか。

パックン あの題材は話題にできる。僕らもちょこちょこ笑ってる。マックンの娘はドラムがすごく上手いんだけど、将来の夢はと聞くと、獣医さんと答える。「じゃあ加計学園に行くんだね」と言うと、笑いが取れるんですよ。これだけで。

チャド え、誰の娘ですか?

パックン え、そこ?

(一同爆笑)

パックン マックンという相方がいまして。吉田眞、と言うんですが......。

旬な政治であれば、それをお笑いのネタにできるはず。舞台でもやってる。今週収録で来週オンエアのお笑い番組にちょこちょこ入れていいはずなのに。

周 ちょこちょこならいいんですよ。

チャド 森友学園の問題で、なんであれだけ盛り上がったかというと、やはり人間模様だからだと思う。『働くおっさん劇場』って知ってます? 松本人志さんが10年くらい前にやってた番組。定点観測して、そのおっさんが嘘ついてるなとか、いま無理してるなとか、そういう人間模様。まぁ、要するにあれを見てほしいということなんですけど、とにかく日本のお笑いは人間の本質を追求している。

パックン いやぁ、今日チャドさん呼んでよかった。そういうところは僕は目を付けていなかった。組織の人間として忖度するとか、人の自由を制限するとか、そういう話になるかと思っていた。ウーマンラッシュアワーの村本(大輔)さんと話して、あることを話したら仕事が飛んだとか、そういうのは取材で聞いて。このメンバーだと、そこじゃないんだね。チャドさんは、お笑いの本質的な違いと感じるんですね。

じゃあ周さん、検閲があるから、中国人は政治ネタを裏でやってるんですよね。プロの芸人に限らず、裏(日常)でも日本人が政治ネタをやらないのはなぜだと思いますか。

周 やっぱり、現状に満足してるんじゃないの。不満がもしあっても、他の国、他の人と比べて、まだましだと。だから海外にも行きたくない。

パックン 社長にもなりたくない。

周 今がいい。それが一点。もう1つは、頑張っても、文句言っても変わらない(と思っている)のがあるんだね。中国人は抑圧されていて不満がある。だからどこで爆発させるかというと、友人との飲み会などで爆発させる。



政治に対して一般人が声を挙げた経験がそんなにない?

パックン あまり不満はないし、政治は変わらないだろうと。デモにも参加しないしね。ナジーブさんはどう思います?

ナジーブ 何も変わらないと思う日本人が不思議です。私たちシリア人は、もっと抑圧的な政権があるのに、変わると思って頑張っている。

たぶん、日本の政治にはユニークな歴史がある。日本は戦後、制度ががらっと変わったのに、偉い人たちは変わらない。日本の20世紀の教育についてのドキュメンタリーで、インタビューしたことがある。おじいちゃんが言ったんです。私たちは戦前、最後の日まで、天皇が神様で、最後の1人が死ぬまで戦うと言ってたのに、次の朝「今日からは平和主義」だったと。偉い人たちは同じ人たち。それがすごくユニークだと思う。だから政治が変わっても、おいしい思いをするのは同じ人だと、日本人は思ってるんじゃないか。

パックン これは僕が東工大で受け持った授業でも言ったんですけど、日本は現代の民主主義国家としては珍しく、革命を起こしていないんです。民主主義を自らの力で獲得したわけじゃなく、お偉いさんたちが決めて民主主義になった。ヨーロッパに視察団を送って、学んで明治憲法を作った。その後GHQが来たけれど、(戦前と)今の民主主義はそこまで変わらないです。百姓が一揆をして政権を倒したわけじゃない。

つまり、政治に対して一般人が声を挙げた経験がそんなにないんじゃないか。僕は歴史学者じゃないから分からないけれど。

編集者 政治ネタ、テレビや舞台は厳しいけれど、ネットだったらあるんじゃないでしょうか。

チャド マキタスポーツさんがそのへんのことを面白く語ってたわ。昔はみんなが会社とかで表現できないことを、お笑い芸人がテレビでやってた。今やったら、自分で発散するSNSとかのツールがあるので、テレビにお笑いを求めていない。

パックン なるほどね。テレビにお笑いを求めていない。じゃあ、そろそろ最後の質問になりますけど、日本のお笑いは政治をネタに取り入れることに挑戦したほうがいいと思います?

ナジーブ 絶対そう。いま真面目な問題を取り上げるのは、硬いニュース番組ばかりで、おじいちゃん、おばあちゃんしか見ていない。

パックン 確かに、討論番組なんて若者は見ていない。若者に伝えるには、お笑いという人気メディアを通してやるのがいい。若者に政治に関心を持ってもらう、これはアメリカのお笑いの役割の1つでもある。

チャド でも今は若い人、そもそもテレビを見てない。

パックン じゃあ、YouTubeでやればいい?

チャド 方法は何であれ、どうにでも伝わる。

パックン 周さんはどう思います?

周 求めても、無理じゃないですか。

パックン 無理? この4人の力ではどうにもならないと。

周 やりたければ、パックンとか、チャドさんが頑張ってくれたらいい。でも日本のお笑いを変えるのは、僕は無理だと思うんですよ。新しい風を吹き込むのはいいと思うけど。

チャド 世界のことを知ろう、世界情勢を知ろうって言ったって、食いつく人はいないです。

パックン ちょっと待って。この特集の前提を否定しないでよ!

(一同爆笑)

◇ ◇ ◇

この後も話は続き、「それでも日本人には海外に目を向けてほしい。グローバル化が進み、日本だけでやっていける時代ではない」「そういうロジックでなく、なんかもうちょっとロマンのある理由はない?」「結婚して子供を作ればいいじゃん」「え、それ?」であるとか、日本にはお笑いに限らず、世界に広げられるコンテンツがたくさんあるのにポテンシャルを発揮できていないといった真面目な話であるとか、とっておきのジョークを披露し合うとか、楽しい夜は更けていった。

それでも当日、パックンはこんなふうにバシッと座談会を締めたのである。

パックン 日本人がもう少しお笑いに寛大になって政治ネタが増えたら、意見交換が増え、刺激もちょっと増えて、もっと政治に参加もできるようになる。もしかしたら、お笑いから世の中を改善する流れも作れるかもしれない。そしてその流れを作る第一歩が、このニューズウィーク日本版の特集です!

(一同拍手)

チャド いや、でも......日本人、今も意外と寛大ですよ。

ナジーブ カンダイだって言うけど、本当に寛大なのか、単に関西大学の出身なのか。

パックン いま締まったよ! 続けるな!


座談会・前編:「日本のお笑いって変なの?」をパックンが外国人3人と激論しました


※8月13&20日号(8月6日発売)は、「パックンのお笑い国際情勢入門」特集。お笑い芸人の政治的発言が問題視される日本。なぜダメなのか、不健全じゃないのか。ハーバード大卒のお笑い芸人、パックンがお笑い文化をマジメに研究! 日本人が知らなかった政治の見方をお届けします。目からウロコ、鼻からミルクの「危険人物図鑑」や、在日外国人4人による「世界のお笑い研究」座談会も。どうぞお楽しみください。




ニューズウィーク日本版編集部

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