Infoseek 楽天

傍若無人か、新たな核軍拡競争を招く米ミサイル実験

ニューズウィーク日本版 2019年8月21日 19時0分

<米露は核軍縮の1つの柱だったINF条約失効の責任を互いのせいだとしているが、今はロシア、中国よりアメリカが巨悪に見える>

冷戦時代に旧ソ連と交わした核戦力全廃条約から離脱したアメリカは、早速、30年以上開発が禁じられていたミサイルの発射実験を行った。ロシアと中国は、高価で危険な核兵器開発競争に再び引き込むつもりだとアメリカの行動を非難している。

アメリカと旧ソ連が冷戦時代の1987年に締結した中距離核戦力(INF)全廃条約は、射程距離500~5500キロメートルの地上発射型中・短距離弾道・巡航ミサイルの生産、実験、配備を全面禁止するもの。アメリカは以前からの通告通り、8月2日にこの条約から離脱し、2週間後の19日、カリフォルニア州で巡航ミサイルの実験を行ったことを発表した。

<参考記事>【対談】米INF条約破棄、日本にはデメリットよりメリットが大きい!? 小泉悠×村野将

これを受けてロシア大統領府のドミトリー・ペスコフ報道官は、「このような実験は、アメリカが最初からINF条約を廃止しようとたくらみ、(数週間、数カ月も前から)実験の準備をしていたことを証明するものだ」というウラジーミル・プーチン大統領のコメントを発表した。

「大統領が昨日フランスで発言した通り、われわれは挑発には乗らない。アメリカが世界のどこかに地上発射型中距離ミサイルシステムを配備するまで、わが国はそうしたミサイル配備を自制し続ける」とペスコフは言った。

発射台も怪しい、とロシア

在英ロシア大使館は、ロシアのセルゲイ・リャブコフ外務次官の発言を引用して、「ロシアは新しい軍拡競争に引きずり込まれることはない」とツイートした。

アメリカは長い間、ロシアが進めてきた巡航ミサイル「ノバトール9M729」の開発と配備を、INF条約違反にあたると非難してきた。一方、ロシアはアメリカのほうこそ、対地攻撃型トマホークのような攻撃ミサイルの発射が可能なMark-41垂直発射システム類似のプラットフォームを使用する防衛システムを配備しており、条約に違反していると非難している。

<参考記事>ロシアのミサイル開発で、NATO軍事行動も辞さず

両国ともに条約違反を否定しているが、米国防総省の報道官は19日、今回の実験ではまさにMk-41発射台からトマホーク型ミサイルの一種が発射されたことを確認した。

「INFから離脱後わずか16日後にアメリカが高度なトマホーク型ミサイルの発射実験を行い、条約を実質的に終わらせたことは注目に値する」と、リャブコフはロシアの国営タス通信に語った。「アメリカがこのようなシステムを長い間開発し、こうした研究開発を禁じる合意から離脱する準備を整えていたという事実を明白に立証している」

さらにリャブコフは「Mk41垂直発射システムを使用してミサイルが発射された」ことを取り上げ、このシステムはSM-3迎撃ミサイルや、地対地および地対地巡航ミサイルが発射できる万能型であることを指摘した。「遺憾としかいいようがない事態だ。アメリカは明らかに軍事的緊張を煽る方向に舵を切った」



アメリカのミサイル実験を非難するロシアに同調したのは中国だ。INFの締結国ではないが、中国はアメリカに条約維持を求めたロシア政府を支持してきた。

アメリカによる今回の実験について、中国外務省の耿爽報道官は、「アメリカがINF条約を公式に離脱して3週間もたたないうちに」起きたことを指摘し、実験を非難した。

「アメリカによるこの動きは、新たな軍拡競争を引き起こし、軍事的対立の拡大と世界および地域の安全保障に深刻な悪影響をもたらす」と、彼は述べた。「アメリカは、時代遅れの冷戦の考え方とゼロサム・ゲームの概念を放棄すべきだ。そして武器開発を抑制し、既存の軍縮の枠組みを真剣に守り、グローバルな戦略的バランスと安定性、そして世界と地域の平和と安全に貢献しなければならない」

INF条約からの離脱前、アメリカはロシア、中国との新しい3国間核ミサイル条約の交渉を提案したが、中国は拒否した。中国は、アメリカとロシアは2大核保有国として核不拡散については特別に責任があると主張している。

(翻訳:栗原紀子)


※8月27日号(8月20日発売)は、「香港の出口」特集。終わりの見えないデモと警察の「暴力」――「中国軍介入」以外の結末はないのか。香港版天安門事件となる可能性から、武力鎮圧となったらその後に起こること、習近平直属・武装警察部隊の正体まで。また、デモ隊は暴徒なのか英雄なのかを、デモ現場のルポから描きます。



トム・オコナー

この記事の関連ニュース