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セクハラ撲滅を阻む新たな問題、「怯える男たち」と「見えない逆襲」

ニューズウィーク日本版 2019年8月22日 15時6分

<#MeToo運動後、露骨なセクハラは減少しているが、一方で男性たちの行動が悪い方向に変化しているという調査結果が>

約2年前に始まった#MeToo運動の盛り上がりもあり、世界的に職場におけるセクハラやパワハラの悪影響は、企業にとって目をそらすことが許されない問題となった。日本でも、東京ドームシティ内で戦隊ヒーローショーの司会を務めていた女性に対するセクハラ・パワハラが明らかになり、東映は加害者の処分と謝罪に追い込まれた。

実際、コロラド大学のステファニー・ジョンソン准教授らのチームが行った調査によれば、アメリカでもセクハラ行為は減少傾向にあるようだ。調査は2016年と18年の2度、それぞれ250人と263人の女性を対象にアンケートを行ったほか、実際に経験した出来事や、この2年の間に何が変化したかについて詳細な聞き取り調査も実施した。

その結果、上司や同僚にじろじろ見られたり触られたりして不快に感じるといった経験については、16年には66%が被害を訴えていたが18年には25%に。カネや圧力で性的な行為を強要されたと訴える女性は25%から16%に減少した。

規制の強化や企業の自助努力によって、長年にわたり主に女性たちが苦しめられてきた悪習が改められつつある、というのは間違いではないだろう。セクハラを議論したり訴え出たりすることが「普通」になり、女性たちが勇気づけられたことで、加害者になり得る人物が行為を思いとどまるケースが増えたのではないかとジョンソン准教授らは考えている。ヒーローショーのケースについても、事件が発覚したのは被害者女性によるSNSでの告発がきっかけだった。

だが、(多くの場合は初めて)責任をもってこうした問題に取り組むことを求められるようになった企業や経営者たちは、必ずしも望ましい対応ができている訳ではないようだ。同じ調査では、性差別的な発言をする、不適切なエピソードを語る、性差別的な物質を見せるといった不快感を伴う行為は、この2年間で76%から92%に増加したという結果が出た。

女性を退職に追い込むような露骨なセクハラ行為が姿を消す一方で、権利の拡大を訴える女性たちを快く思わない一部の男性による「目に見えにくい」嫌がらせが増えるという反動が起きているのではないか、と調査レポートは指摘している。「この問題への注目が高まったことが、従来の権力ヒエラルキーを守りたい人々による反動として、セクハラを増やしていると考えることができる」



女性の部下を避ける男性管理職たち

さらに今年初め、世界経済フォーラム(ダボス会議)に参加した男性の経営者たちを対象にLean In Instituteなどが行った調査では、性的な不品行のリスクを減少させる解決策として彼らの多くが採用しているのは、実効性のある制度改革ではないことが明らかになった。彼らが採用した方法は、単に「男性の幹部が女性従業員と関わる機会を最小限にする」ことだ。

ニューヨークタイムズ紙の「#MeTooもう1つの側面:女性への指導を恐れる男性管理職たち」と題された記事では、金融機関のアメリカ人幹部が匿名で次のように証言している。「若い女性の同僚と2人きりになるのはためらう」

男女で2人きりになるのを不安に思う男性は彼だけではない。調査によれば、男性管理職の約半分は女性と共同で作業することに、60%は女性の部下を指導することに居心地の悪さを感じているという。相手が女性だからという理由で、業務において意図的に部下を遠ざけるのは明らかに不適切な行為だ。

#MeToo運動によって何が変わったのか。性的に見られて嫌な思いをしたり、性的な行為を強要されたりする女性は減った。「成功だ! だが男性による(見えにくい形での)嫌がらせ行為を訴える女性の声や、女性への指導を嫌がる男性の声は増えている」と、本誌の取材に答えたジョンソンは指摘する。「男性たちの行動は、悪い方向に変化してしまったのかもしれない」

「女性たちによる権利拡大の運動に対する男性たちの反応が、女性たちを助けることではなく、嫌がらせや女性を卑しめる別の方法を探って抵抗するものだったという結果は驚きだ」

それでも、長年にわたって女性たちを苦しめ、社会における活躍を阻害してきたセクハラという悪習が許されないものと認識され、減りつつあるのはたしかだ。次の課題は、その反動として生じている「見えにくい」セクハラを、社会や企業がどうやって克服していくかになるだろう。



※8月27日号(8月20日発売)は、「香港の出口」特集。終わりの見えないデモと警察の「暴力」――「中国軍介入」以外の結末はないのか。香港版天安門事件となる可能性から、武力鎮圧となったらその後に起こること、習近平直属・武装警察部隊の正体まで。また、デモ隊は暴徒なのか英雄なのかを、デモ現場のルポから描きます。



ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

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