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バズるにはどうしたらいい? 面白いってどういうこと?【田中泰延×岩下智】

ニューズウィーク日本版 2019年8月23日 16時0分

<話題の本『読みたいことを、書けばいい。』著者の田中泰延氏と、『「面白い!」のつくり方』を上梓した岩下智氏が語り合った。元電通と現電通。大阪人と東京人。「面白い」を追求してきた2人の考えは?>

ネットでバズるにはどうしたらいいだろう? ウケる文章はどうやって書けばいいだろう?

そんなことに日々、頭を悩ませている人もそうでない人も、まずは「面白いとは何か」を考えてみるといいかもしれない。そしてそのために、この対談が役に立つかもしれないし立たないかもしれない。

大手広告代理店・電通で長くコピーライターを務め、現在はフリーランスで執筆活動を行う田中泰延氏と、同じく電通で今もアートディレクターとして活躍する岩下智氏。

『読みたいことを、書けばいい。――人生が変わるシンプルな文章術』(ダイヤモンド社)の著書が12万部突破、アマゾンでも総合1位となった田中氏は文章で、『「面白い!」のつくり方』(CCCメディアハウス)を上梓した岩下氏はビジュアルで、それぞれ「面白い」を追求してきた。

誰だって、SNSやブログ、あるいは日々の会話の中で「面白い」と他人から思われたい(たぶん)。でも岩下氏が著書に記すように、「自分のことを面白い人間だと思いますか?」と尋ねられて、自信を持って「はい」と答えられる猛者は少ない(きっと)。

東京出身で、自分は「面白いことコンプレックス」を抱えているという岩下氏と、大阪出身で、「面白い」の定義は「自分を捨てること」だと話す田中氏の対談は、ナナメから入り、ウンコとラッコに寄り道をしながら、真面目さとコンプライアンスの時代における「面白いとは何か」の出口へと向かっていった。



◇ ◇ ◇

岩下 今日はこうして対談させていただけてうれしいです。ありがとうございます。

田中 いえいえ、こちらこそ。今日は社会問題を話し合う対談ですので、主に辺野古の問題について語り合います。よろしくお願いします。

あ、そうそう、大事な小道具があるんですよ(カバンから付箋のいっぱい付いた岩下氏の著書『「面白い!」のつくり方』を取り出す)――もちろん、この付箋は嘘です。「よく読んだ」っていうアピールです。

岩下 実は僕も持ってきました(同じく田中氏の本『読みたいことを、書けばいい。』を取り出す)。

田中 お互い嘘の付箋がありますね。

岩下 数は僕のほうが多いですよ。

田中 まずは、この「嘘の付箋」対決っていうのがあるんですよね。僕は、この本を読ませていただいたなかでは、やっぱり公定歩合についての部分かな。公定歩合を下げるとドルの準備高が......っていう部分が特に感銘を受けましたね。

トランプも今日ツイートしていましたけど、アメリカの公定歩合は世界にとって重要な数字です。僕の本も仮想通貨について主に述べています。

岩下 僕は泰延さんの本の中では、ブレグジットのくだりが一番好きでした。

田中 そこがいちばん重要で、読んでほしかった部分です。

岩下 ただ今日は「面白い」がテーマなんで、そのへんの話はできないんですけど......。

先日泰延さんがツイッターで、この本について投稿してくださっていて、「自分が面白いことを言ってやろうって思っているときの思考回路と同じものがあった」というようなことを書いていらっしゃったんですけど、それが具体的にどこなのか、すごく気になっているんです。



「いろいろと情報を持っている人のほうが面白い」と言う岩下氏(奥) Newsweek Japan

田中 それは、面白いことを企てようとするときに、外からものを連れてくるっていう部分かな。要するに観察ですよね。スマホなんか見ないで、世の中を見回して、心に余裕を持って発見したものが面白い。これが、基本的に自分と同じなんじゃないかと思いました。面白さって、自分の中からなんて湧いてこないじゃないですか。

岩下 みんな、そういうのがどこかから降ってくると思いがちなんですけど、そう簡単に降ってはこないですよね。どこかで見たものを思い出したり、ニュースで見たものからヒントを得たりしながら、面白さを探していく。

そういう意味で、いろいろと情報を持っている人のほうが面白いことを言えるのかな、とは思いますね。

田中 だから、やっぱり面白いことには、ある程度の知識や教養は必要なんですよ。さっきの「辺野古」とか「公定歩合」とかも、まったく文脈と関係ないから笑いが起こるけど、聞いてるほうにも知識がなかったら面白くない。

そういう意味では、面白いことが言えない人は不注意っていうのもありますね。誰かの発言にしたって何にしたって、いろんなところに面白いことを言うためのネタは転がっているのに、それに気付かない。

ウンコを踏んで臭い人はなぜ面白いのか

岩下 僕は今回、この本の中で「面白い」を法則化してみたんですけど、元々はっきりと意識していたものではなくて、書いているうちにだんだん自分の中で整理できてきて、「こういうことかな」というふうにまとまった感じなんです。

ただ一方で、書いているうちに、いわゆる方法論を書いてもしょうがないんじゃないかって思うようにもなったんです。「ああすれば、こうなる」っていう内容になったらダメだなって気付いた。それで、全体に若干ゆるい内容になっているんですけど(笑)。

そこでぜひお聞きしたいんですが、泰延さんにとっての「面白い」の定義って、どういうものですか?

田中 僕にとっての「面白い」の定義は、「自分を捨てる」ということです。僕は大阪人ですから、バナナの皮があったら率先して滑りにいく奴が面白いんですよ。犬のウンコが落ちていたら率先して踏みにいく奴が面白い。

でも、東京の面白い人とか広告業界の面白い人っていうのは、自分は安全地帯にいる。安全地帯から提示する「面白さ」って、「おしゃれ」に近いんですよ。

岩下 あー。

田中 もっと言うと、自分が死ぬことが最大のオチなんですよ。どんな人間でも最後は死ぬでしょ。つまり、われわれはオチに向かって歩いているわけだから、そのオチを予感させることが笑いになる。

先日、がんで余命告知を受けている写真家の幡野広志さんとネパール取材に行ったんですけど、まずいものを食べたときとか、車が危ない所を走ったときに、「やめて! 寿命が縮まる!」って言うんですよ。こんな恐ろしいギャグ、幡野さん本人しか言えないですよ。

岩下 なるほど。僕のほうは、本の中では辞書に書かれている定義から引っ張ってきて、「人を惹きつける何らかの魅力がある状態」が「面白い」ってことなんじゃないかなと書いていて、確かに定義上はそうなるんですけど、やっぱり人それぞれ違うと思うので、なかなか難しいなぁと改めて思いますね。



「関西では、いちばん悲惨なことをした人が、いちばんヒエラルキーが上」と語る田中氏 Newsweek Japan

田中 確かに魅力がないと人を惹きつけないけど、ウンコを踏んで臭い人はなんで面白いんやろ?

岩下 本に書いた話で言うと「差別」っていうことかなと思うんです。つまり、ある対象に対して、自分とは違って「様子がおかしい」「滑稽である」「ヘンテコである」と感じるもの。そういう面白さって結構たくさんあるんですよね。変なことをしているとか、変な顔をしているとか。

関西のお笑いって、そういうところが特に面白いと思うんです。お笑いの基本としてよく言われる、面白い顔と、面白い動きと、面白い言葉ですよね。

田中 それは、ウンコを踏みに行って「クサッ」ていう顔をするところまで含まれているっていうことだと思うけど、ただ、大阪人の僕に言わせたら、それを自分がやらなきゃダメなんですよ。関西では、いちばん悲惨なことをした人が、いちばんヒエラルキーが上になる。

それと、「誤解されたままにする」。リカバーしちゃダメなんです。「あいつは頭が変だ」という状態のまま家に帰らなきゃいけないんです。

みんなが面白いと言うものは面白くない

岩下 なるほど。以前お会いしたときに聞いたラッコとカワウソの話もそうですよね?

田中 あれは単なる事実です。これは大事な話ですから、ちゃんと対処しておきたいので説明しますと、カワウソが体長50センチを超えたら、ラッコと呼ばれます。そして、ラッコが体長1メートルを超えると、ビーバーと呼ばれます。出世魚みたいなもので、生物学的にはまったく一緒なんです。

その証拠に、カワウソは英語で「Otter」、ラッコは「Sea otter」と言います。成長の過程でだんだん大きくなって、川が狭くなったから海に出ただけなんです。それがひとつの生物の真実なんです。ハマチがブリになるのと同じです。

これは何度も言っているけど、なかなか信じてもらえなくて......。僕はガリレオの気分ですよ。コペルニクスも同じ。真実を述べる者は無視されるんですよね。

岩下 この話を聞いたあと、一応ググりました(笑)。でも、世の中にはやっぱり間違いは正さなきゃ、指摘しなきゃっていう人も結構いて、ツイッターで炎上の元になるようなコメントを書いてしまうのも、実は真面目な人なんですよね。

SNSで面白いことを投稿しようとしている人も多いと思うんですけど、一方で、何でも大真面目に非難する人がいるから、面白いことを言えなくなるっていう風潮があると思うんです。CMや広告は特にそうで、「コンプライアンス」っていう言葉がよく使われるようになったあたりから、どうしてもみんな守りに入りがちですよね。

田中 この間テレビドラマを見ていたら、銀行強盗がシートベルトして逃げていましたからね。「急いで逃げろー!」って言いながら車に乗って、カチャって。これ、おかしいよね。

もちろん企業が炎上を恐れるのは分かるけど、そういう制約が多くなり過ぎて、広告も、広告業界にいる人も面白くなくなってきているんですよ。どんどん叩かれて、その結果、おしゃれに逃げる。

岩下 広告に関してもうひとつ思っているのは、みんなが面白いって言うものは、実はあまり面白くないということです。角が取れてツルッツルになってしまう感じで、気付くと普通になっている。予定調和に収まってしまうんですよね。

それってなんでだろうって考えると、みんなが面白いって言うってことは、面白くない人まで面白いって言っているからなんですよね。



「面白いことも、真面目に考え過ぎると絶対に面白くない」と話す岩下氏 Newsweek Japan

田中 でも、その流れで言うとね、この対談自体も実は懸念しているんですよ。というのは、僕だってたまにはロジカルなことも言うじゃないですか。記事にしてもらったときに、その部分だけを切り取られると、僕はすっかり翼をもがれたエンジェルなわけですよ。みんな飛べないエンジェルですよ。

つまりは、余談のところが実は大事で、その合間に言っているのは、それなりに当たり前のことを言っているだけなんですよ。だから最初の「今日は辺野古の話をします」っていうところが実は大事。話の面白さっていうのは、ほぼ細部なんです。

岩下 コピーライターの仲畑貴志さんが言う「エビフライの尻尾理論」ですね。エビフライの尻尾みたいに「ここ、いらないんじゃないの?」っていう部分こそが大事で、そこがなくなったらエビフライじゃなくなるどころか、ウンコみたいな衣のかたまりになってしまうという。

面白いほうが毎日が楽しいし、地位も上がる

田中 「面白くない人が多いから、どうしたらいいでしょうか」っていうのも実はアホな話で、全員が面白かったら面白くないんですよ。面白くない人がいるのは実はありがたいことで、そうじゃないと自分が面白いかどうか分からない。

僕は会社に入ったときに上司に、「君はまったく優秀ではない人間だ。しかし、重要だ。なぜなら、優秀じゃない人間がいることで優秀な人間が優秀だとよく分かるから必要なんだ」と言われました。

岩下 確かに、みんなが面白かったら困っちゃいますけど、やっぱり少しはユーモアが欲しいなとは思いますね。そのほうが、毎日が楽しくなると思うんですよ。

田中 時々、説教することで自分を誇示しようとするような人がいます。いわゆるマウンティングですね。そういう人には、必要以上に真面目なことを言うと、かえって蔑まれることもあるっていうことを知ってほしいですね。

それよりも、面白いことを言ったほうが認められるし、地位も上がる。岩下さんの本の中でも、歯車だって「遊び」の部分がないと回らないっていう話を書いていますよね。

岩下 そうなんです。だから面白いことも、真面目に考え過ぎると絶対に面白くない。そういう意味では僕の本も、変に真面目に読まないで、ゆるく読んでもらえるとありがたいです。1行でも何か面白いって思ってもらえたらいいのかな、と。それは、この本だけじゃなくて、どんな本についてもそう思います。

田中 岩下さんの本の素敵なところは、最初に「僕は面白いっていうことにコンプレックスがあります」って告白していて、だから方法論を考えよう、となっているところ。

岩下 実はちょっと「怖いな」というのもあったんです。「面白い」をテーマにした本って意外となくて、真面目な学者が書いた本があったとしても、やっぱり面白くはないんですよね。それで、これは結構勇気のいるテーマだなと気付いて、最初に予防線を張っておこうかな、と。

ただ、僕は東京出身なので、実際、関西の人に対するコンプレックスがあるんですよ。関西人のようには永遠になれない。やっぱりDNAに染みついているんですかね?

田中 それは小麦粉の量です。お好み焼き、たこ焼き、うどん......小麦粉になんか成分が入っているんです。

岩下 そこですか。

田中 ただ、僕たちの本って結論が一緒なんですよね。何もしないよりやったほうが楽しくなる。だから、読まないよりは読んでもらったほうがいいってことでいいんじゃないですかね。

それぞれ付箋をたくさん付けた相手の著書を持参した岩下氏(左)と田中氏(右) Newsweek Japan


『読みたいことを、書けばいい。
 ――人生が変わるシンプルな文章術』
 田中泰延 著
 ダイヤモンド社



『「面白い!」のつくり方』
 岩下 智 著
 CCCメディアハウス




ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

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