<健康なまま死に至るのは20人に1人。だが健康管理がいかに大事かということは頭では理解されても、実際に習慣化できる人は多くない。無理なく「健康マネジメント」を続けていくために必要なものは?>
日本は世界トップクラスの長寿国。人生100年時代の到来は目の前に迫っている。
しかし、いくら寿命が延びても「健康なまま死に至るのは20人に1人」だと、東京慈恵医科大学教授・行動変容外来診療医長兼慈恵医大晴海トリトンクリニック所長の横山啓太郎氏は語る。
横山教授はこのたび、長生きに伴うリスクを解説し、主体的に健康な生活習慣を獲得していく必要性とその方法について提案すべく、『健康をマネジメントする――人生100年時代、あなたの身体は「資産」である』(CCCメディアハウス)を刊行した。
「病気」ではない「老化」を正しく見つめ、ときに世界的ベストセラーで紹介される思考法まで交えながら「マインドセット」と「習慣」の改善を目指す一冊だ。
ここでは本書から一部を抜粋し、3回に分けて掲載している。第3回は、挫折することなく健康マネジメントを継続していくために重要となる心持ちを紹介する。
※第1回:「人生100年なのに医療は人生70年設定のまま」が引き起こす問題
※第2回:「7つの習慣」の中で「健康なまま年を取る」に役立つのはこれ
◇ ◇ ◇
部下の面倒をみるつもりで自分に接する
健康マネジメントは、会社のマネジメントとかなり近いといえます。ビジネスパーソンの読者の方なら、このイメージがしっくりくるかもしれません。
健康マネジメントがうまくいかないときは、そのうまくいかなかった「結果」を自分のなかで責めてはいけません。がんばろうとした「プロセス」を認めて解決策を考えるのです。プロセスでなく結果のみにフォーカスすると、自分が嫌になってしまいます。
会社のマネジメントに置き換えれば、あなたの部下が失敗したときに「お前、失敗しただろ!」と結果を責めたとします。これは非常に感じが悪い。言うほうも言われるほうも後味が悪いものです。このとき、結果でなくプロセスにフォーカスすると、嫌な感じが薄まります。「それは話をする相手がまちがってたね。あの会社のキーパーソンは○○さんだから、今度からそちらに話をもっていこうか」
結果ではなく、プロセスをふまえてアドバイスするだけでだいぶ印象が変わってきます。うまくいかなかったときには、結果の成否より、そのときのプロセスに目を向けるのです。
会社とちがい、健康マネジメントにおいては自分で自分をマネジメントする視点が必要になります。あなた自身が自分の上司であり、部下です。失敗したときに「どうして自分は失敗したんだ」「ダメな人間だ」と責めるだけではなんの解決にもなりません。「やり方を間違えたんだな。週3回じゃなく、週1回からはじめてみよう」、自分の行動もそんなふうにみてあげます。
新しい生活習慣をはじめたら、「はじめることがまずは大事だ。いいね」。3日つづいたけれども4日目にさぼってしまったら、「いままでまったくやってなかったのに3日もつづいたじゃないか。またはじめればいいさ」と褒めて、なだめて、つづけていくのです。エレベーターとエスカレーターをやめて階段にしてみたら思ったよりきつかったなら、「下りのときだけ階段」にするのです。どんどん自分を甘やかしてください。
高いハードルは自己肯定感を下げる
子どものいる人は、健康マネジメントを「自分に対する子育て」と考えてみるのも、自己肯定感を落とさないコツです。
自分の体を「自分の子ども」だと考えましょう。ストイックにやりすぎたり、できないときにネガティブな言葉ばかり投げかけたりしていては、子どもはひねくれた性格になってしまいます。ある程度距離をとって、愛情をもって見守るイメージで、自分の健康を育てていくのです。
このとき、見守りつつも干渉しすぎないことが肝心です。はじめのうちはうまくできなかったり、失敗したりしても、イライラせずに見守ってあげましょう。希望を聞いて、やりたいようにやらせてあげましょう。やる気がゼロなわけではありませんから、自分の心の声に耳をすませて、それにしたがってあげるのも大事です。うまくいかなくても、努力しようとした事実、チャレンジしたプロセスを認めてあげます。
高いハードルをつくらないことも重要です。
高いハードルは、失敗したときに自己肯定感を下げてしまいます。はじめから高いハードルを設定して、「がんばろう」という気持ち自体をくじいてしまっては元も子もありません。高いハードルを設定したいのをぐっと我慢して、低いハードルからはじめましょう。まずは低いハードルで成功体験を積み、それがつづいたらハードルを徐々に上げていけばいいのです。
子どもには厳しいばかりではダメで、ときには甘えさせてあげることも必要です。毎日アイスクリームを食べるのは、虫歯になるし、太るし、さすがによくない行為でしょう。でも「一生アイスクリーム禁止!」ではおもしろくない。今日は夏祭りだからアイスは食べていい。学校で先生にほめられたからアイスを買ってもいい。それでいいではないですか。
どうでしょう? 健康マネジメントは、考えれば考えるほど子育てに近いと思えてくるのではないでしょうか。
喫煙は自分の子どもにタバコを吸わせるのと同じ
自分の体を「自分の子ども」と考えるのは、自分を客観視することにもつながります。自分の愛する子どもを、わざわざ傷つけたい人はいないでしょう。
しかし、タバコを吸う人は、喫煙を「自分の子どもを傷つけるのと同じ」ととらえることができていません。1日10本、年間3000本以上のタバコを吸ったときの、子どもがこうむる受動喫煙の害は、子どもに年間10本タバコを吸わせるのと同じです。それをイメージできないからタバコをやめられないのです。自分がタバコを吸っているそばで、子どもがタバコに火をつけたらあわてて止めるでしょう? その視点が欠けているのです。
子どものたとえがピンとこない人は、自分の体を「愛車」と考えるのもいいでしょう。車は、古くなったり調子が悪くなったりしたら買い換えられる点が自分の体とは異なりますが、客観視するという点ではこちらのほうがわかりやすいかもしれません。
自分でメンテナンスをし、ワックスをかけて大切にしている愛車に、「ストレスがたまっているから」と自分で傷をつける人はいないでしょう。しかし、体によくない習慣をつづけるのは、愛車に自分で傷をつけるのと同じことなのです。自分を客観視できておらず、自己肯定感も低いからです。
人生を旅にたとえるなら、自分の体は旅の足となる愛車です。人生を終えるその日まで、どんなふうに旅はつづいていくでしょうか? 途中で土砂降りにあったり、道路事情が悪いところも出てくるでしょう。同乗者には誰がいますか? 車の窓からみえる景色はどうでしょうか?
そんなふうに自分の体を客観視できれば、健康マネジメントもしやすくなるのです。
『健康をマネジメントする――
人生100年時代、あなたの身体は「資産」である』
横山啓太郎 著
CCCメディアハウス
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部
日本は世界トップクラスの長寿国。人生100年時代の到来は目の前に迫っている。
しかし、いくら寿命が延びても「健康なまま死に至るのは20人に1人」だと、東京慈恵医科大学教授・行動変容外来診療医長兼慈恵医大晴海トリトンクリニック所長の横山啓太郎氏は語る。
横山教授はこのたび、長生きに伴うリスクを解説し、主体的に健康な生活習慣を獲得していく必要性とその方法について提案すべく、『健康をマネジメントする――人生100年時代、あなたの身体は「資産」である』(CCCメディアハウス)を刊行した。
「病気」ではない「老化」を正しく見つめ、ときに世界的ベストセラーで紹介される思考法まで交えながら「マインドセット」と「習慣」の改善を目指す一冊だ。
ここでは本書から一部を抜粋し、3回に分けて掲載している。第3回は、挫折することなく健康マネジメントを継続していくために重要となる心持ちを紹介する。
※第1回:「人生100年なのに医療は人生70年設定のまま」が引き起こす問題
※第2回:「7つの習慣」の中で「健康なまま年を取る」に役立つのはこれ
◇ ◇ ◇
部下の面倒をみるつもりで自分に接する
健康マネジメントは、会社のマネジメントとかなり近いといえます。ビジネスパーソンの読者の方なら、このイメージがしっくりくるかもしれません。
健康マネジメントがうまくいかないときは、そのうまくいかなかった「結果」を自分のなかで責めてはいけません。がんばろうとした「プロセス」を認めて解決策を考えるのです。プロセスでなく結果のみにフォーカスすると、自分が嫌になってしまいます。
会社のマネジメントに置き換えれば、あなたの部下が失敗したときに「お前、失敗しただろ!」と結果を責めたとします。これは非常に感じが悪い。言うほうも言われるほうも後味が悪いものです。このとき、結果でなくプロセスにフォーカスすると、嫌な感じが薄まります。「それは話をする相手がまちがってたね。あの会社のキーパーソンは○○さんだから、今度からそちらに話をもっていこうか」
結果ではなく、プロセスをふまえてアドバイスするだけでだいぶ印象が変わってきます。うまくいかなかったときには、結果の成否より、そのときのプロセスに目を向けるのです。
会社とちがい、健康マネジメントにおいては自分で自分をマネジメントする視点が必要になります。あなた自身が自分の上司であり、部下です。失敗したときに「どうして自分は失敗したんだ」「ダメな人間だ」と責めるだけではなんの解決にもなりません。「やり方を間違えたんだな。週3回じゃなく、週1回からはじめてみよう」、自分の行動もそんなふうにみてあげます。
新しい生活習慣をはじめたら、「はじめることがまずは大事だ。いいね」。3日つづいたけれども4日目にさぼってしまったら、「いままでまったくやってなかったのに3日もつづいたじゃないか。またはじめればいいさ」と褒めて、なだめて、つづけていくのです。エレベーターとエスカレーターをやめて階段にしてみたら思ったよりきつかったなら、「下りのときだけ階段」にするのです。どんどん自分を甘やかしてください。
高いハードルは自己肯定感を下げる
子どものいる人は、健康マネジメントを「自分に対する子育て」と考えてみるのも、自己肯定感を落とさないコツです。
自分の体を「自分の子ども」だと考えましょう。ストイックにやりすぎたり、できないときにネガティブな言葉ばかり投げかけたりしていては、子どもはひねくれた性格になってしまいます。ある程度距離をとって、愛情をもって見守るイメージで、自分の健康を育てていくのです。
このとき、見守りつつも干渉しすぎないことが肝心です。はじめのうちはうまくできなかったり、失敗したりしても、イライラせずに見守ってあげましょう。希望を聞いて、やりたいようにやらせてあげましょう。やる気がゼロなわけではありませんから、自分の心の声に耳をすませて、それにしたがってあげるのも大事です。うまくいかなくても、努力しようとした事実、チャレンジしたプロセスを認めてあげます。
高いハードルをつくらないことも重要です。
高いハードルは、失敗したときに自己肯定感を下げてしまいます。はじめから高いハードルを設定して、「がんばろう」という気持ち自体をくじいてしまっては元も子もありません。高いハードルを設定したいのをぐっと我慢して、低いハードルからはじめましょう。まずは低いハードルで成功体験を積み、それがつづいたらハードルを徐々に上げていけばいいのです。
子どもには厳しいばかりではダメで、ときには甘えさせてあげることも必要です。毎日アイスクリームを食べるのは、虫歯になるし、太るし、さすがによくない行為でしょう。でも「一生アイスクリーム禁止!」ではおもしろくない。今日は夏祭りだからアイスは食べていい。学校で先生にほめられたからアイスを買ってもいい。それでいいではないですか。
どうでしょう? 健康マネジメントは、考えれば考えるほど子育てに近いと思えてくるのではないでしょうか。
喫煙は自分の子どもにタバコを吸わせるのと同じ
自分の体を「自分の子ども」と考えるのは、自分を客観視することにもつながります。自分の愛する子どもを、わざわざ傷つけたい人はいないでしょう。
しかし、タバコを吸う人は、喫煙を「自分の子どもを傷つけるのと同じ」ととらえることができていません。1日10本、年間3000本以上のタバコを吸ったときの、子どもがこうむる受動喫煙の害は、子どもに年間10本タバコを吸わせるのと同じです。それをイメージできないからタバコをやめられないのです。自分がタバコを吸っているそばで、子どもがタバコに火をつけたらあわてて止めるでしょう? その視点が欠けているのです。
子どものたとえがピンとこない人は、自分の体を「愛車」と考えるのもいいでしょう。車は、古くなったり調子が悪くなったりしたら買い換えられる点が自分の体とは異なりますが、客観視するという点ではこちらのほうがわかりやすいかもしれません。
自分でメンテナンスをし、ワックスをかけて大切にしている愛車に、「ストレスがたまっているから」と自分で傷をつける人はいないでしょう。しかし、体によくない習慣をつづけるのは、愛車に自分で傷をつけるのと同じことなのです。自分を客観視できておらず、自己肯定感も低いからです。
人生を旅にたとえるなら、自分の体は旅の足となる愛車です。人生を終えるその日まで、どんなふうに旅はつづいていくでしょうか? 途中で土砂降りにあったり、道路事情が悪いところも出てくるでしょう。同乗者には誰がいますか? 車の窓からみえる景色はどうでしょうか?
そんなふうに自分の体を客観視できれば、健康マネジメントもしやすくなるのです。
『健康をマネジメントする――
人生100年時代、あなたの身体は「資産」である』
横山啓太郎 著
CCCメディアハウス
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部