約7割の人が禁煙に失敗している…精神科医が失敗を繰り返す人に捧げる「完全禁煙」への意外な近道
プレジデントオンライン / 2024年4月23日 15時15分
※本稿は、保坂隆、西崎知之『おだやかに80歳に向かうボケない食生活』(明日香出版社)の一部を再編集したものです。
■タバコを吸うと脳細胞の寿命を短くする
今となっては信じられないことですが、タバコは長い間、無害な嗜好品と考えられてきました。喫煙が健康に悪いということがわかってきたのは1940年代に入ってからです。
ただし、わかっていてもやめられないのがタバコの魔力です。喫煙者の60%以上が一度ならず禁煙にトライしたものの、成功したのは10人に1人だけとされています。
それでも、日本たばこ産業によると、1966年には83.7%あった男性の喫煙率が現在ではその3分の1ほどに減少しているそうです。
喫煙の害としては慢性気管支炎、心臓疾患、肺気腫、早産、脳卒中などが知られています。
しかし、脳細胞を通常よりも速いペースで死滅させていることに注目する人はあまりいないようです。
タバコというと、まずニコチンの害が思い浮かびます。
ニコチンには血管を収縮させる働きがあるので、脳内を含め全身の血液の循環が悪くなります。
血液循環が悪くなると、脳が酸素不足と栄養不足に陥ります。これが脳細胞の寿命を短くするのです。
しかも、喫煙すると血液内に溶け込む酸素の量が極端に少なくなります。つまり、身体中に十分な酸素を送れなくなってしまうということです。
■身体が慢性的な酸素不足に
ヘビースモーカーのなかには、ふだんから動悸や息切れ、めまいなどの症状を訴える人が多いようですが、これは身体が慢性的な酸素不足になっている証拠です。
ただでさえニコチンの作用で血液循環が悪くなっているというのに、血液に溶け込んでいる酸素の量も少なかったら完全な酸欠になり、脳細胞の寿命はさらに短くなってしまいます。
タバコを口にすると安心するという人は少なくありません。実際、気持ちを落ち着かせるためにタバコを吸うというケースはよくあるようです。何かを口にしていると、イライラや欲求不満がなくなるのでしょう。
とくに高齢者は喫煙習慣だけはリタイア後も現役時代のままで、朝起きたら、「とりあえず一服」という人も少なくないようです。
こういう人は、健康診断で異常を指摘でもされない限り続けるのでしょう。しかし、その間にも脳細胞が減り続けていることを忘れてはいけません。
■禁煙に挑戦しても失敗し続けてしまう人に捧げる「ひと言」
数字はやや古くなりますが、製薬会社のファイザーが2008年に成人男女9400人を対象におこなった「日本全国のニコチン依存度チェック」によると、禁煙に挑戦した人(1958人)のうち、成功したのは27.8%。7割以上の人が失敗したそうです。
おそらくこのなかには、何度も失敗を繰り返してきた人も少なからずいるものと思われます。
そのなかで、とくに禁煙、禁煙とプレッシャーを感じている人には、次のひと言を捧げたいと思います。
「とりあえずこの際、禁煙は諦めてはいかがですか」
「冗談じゃない!」という方は、この項目のこれ以降を読み飛ばしてください。私のひと言に興味を覚えた方には、続いて次のように言わせてもらいます。
「『タバコはやめません』と腹をくくってしまうのも、ひとつの考え方ではないでしょうか」
以下にその理由をお話ししたいと思います。
はっきり言ってしまえば、いい年齢になるまでタバコを吸ってきたのですから、今さらやめたところで手遅れの感が否めないからです。
本人もそう感じているのなら、いっそのこと、タバコをおいしく楽しんでしまえばいいのです。
その際は、心の底から「うまい」と思って吸うことです。
■禁煙できない人は心の底から「うまいなあ」と吸う
「やめなければ」「やめなければ」と罪悪感を持ちながら吸うのと、「うまいなあ」と楽しんで吸うのでは、心に与える影響がまるで違います。
「うまいなあ」と思えるように、タバコを吸うのはたとえば、食事が終わった後だけとか、散歩で5000歩をクリアできたときとか、シチュエーションを絞る手もあります。
あるいは、タバコを最初から半分に切っておく。こうすれば、タバコを吸う頻度は減らせなくても、実際の喫煙量は大きく減らせます。
禁煙のストレスがきついという方は、やめようやめようと考えるのではなく、まずはハッピーな減煙ができればいいや、というくらいまでハードルを下げてみたらいかがでしょうか。私にはそれが完全禁煙への早道のように思えます。
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精神科医
1952年山梨県生まれ。保坂サイコオンコロジー・クリニック院長、聖路加国際病院診療教育アドバイザー。慶應義塾大学医学部卒業後、同大学精神神経科入局。1990年より2年間、米国カリフォルニア大学へ留学。東海大学医学部教授(精神医学)、聖路加国際病院リエゾンセンター長・精神腫瘍科部長、聖路加国際大学臨床教授を経て、2017年より現職。また実際に仏門に入るなど仏教に造詣が深い。著書に『精神科医が教える50歳からの人生を楽しむ老後術』『精神科医が教える50歳からのお金がなくても平気な老後術』(大和書房)、『精神科医が教えるちょこっとずぼら老後のすすめ』(海竜社)など多数。
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医師、医学博士
1954年生まれ。神戸大学医学部卒業。神戸大、米国カリフォルニア大学アーバイン校と一貫して生体内情報伝達機構を専門に研究している。特に脂質シグナルと関連づけた新規の認知症治療薬、糖尿病治療薬、がん治療薬の開発に従事している。現在、上海中医薬大学附属日本校、ベトナム国家大学ハノイ校の客員教授を務め、後進の研究指導に当たるとともに新しい研究分野にも挑戦している。著書に『認知症はもう怖くない』『私は「認知症」を死語にしたい』『脳の非凡なる現象』(以上、三五館)、『ボケるボケないは「この習慣」で決まる』(廣済堂出版)がある。共著に『あと20年! おだやかに元気に80歳に向かう方法』(明日香出版社)がある。
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(精神科医 保坂 隆、医師、医学博士 西崎 知之)
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