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本場スコットランドで味わう至高のスコッチ旅

ニューズウィーク日本版 2019年9月6日 20時0分

<時代はワインセラー巡りからウイスキー・ウオークへ──スコットランドで高級シングルモルトを飲みまくる>

ブドウ畑とワインの試飲はもう古い。最新の流行はスコッチ発祥の地を訪ね歩くウイスキー・ウオークだ。

英スコットランドは昔からずっと人気の観光地だった。けれど今、観光客は特定の目的──古いスコッチを飲み倒す旅に夢中なようだ。

スコッチウイスキーはスコットランドの歴史と同じぐらい古くからあるが、一大産業になったのは19世紀。ウイスキーへの課税が大幅に引き下げられ、儲かるビジネスになってからだ。

現在では、キャンベルタウン、ハイランド、アイラ、ローランズ、スペイサイドの5つの地域に120を超える蒸留所があり、ビジネスは活況を呈している。強力な追い風となっているのがアメリカでの「ウイスキー・ルネサンス」だ。

ここ数年、ニューヨークやシカゴ、ロサンゼルスなどでは、ウイスキー専門のバーが次々にオープン。同時にウイスキー造りへの関心も高まった。

スコッチウイスキー協会の発表によると、2018年にスコットランドのウイスキー蒸留所を訪れた観光客は過去最高の200万人に達した(2017年は190万人)。大半がドイツ人とアメリカ人だ。2019年はさらに増加が見込まれている。

ラガブーリン蒸留所を所有するディアジオなどの酒類大手にとっては、絶好のビジネスチャンスだ。同社は観光客のスコッチ体験を「一変させる」ため、今後3年間で1億9000万ドルを投資すると発表した。

これはぜひ、ブームの実態を自分の目で確かめなければ!というわけで今年5月、アイラ島に直行した。アイルランド北部から約40キロ、スコットランド西岸のヘブリディーズ諸島南部にある、風が強い小さな島だ。

ワインとはここが違う

アイラ島はブルーベルの青い花と太古の森、手付かずのビーチが美しい自然の島。スコットランドで最も有名な9つの蒸留所の所在地でもある。原料の麦芽を乾燥させるとき、ピート(泥炭)を燃料に使うスコットランドの代表的な高級シングルモルトウイスキーは、全てここで造られる。

私はグラスゴーから飛行機に乗り、着陸後すぐ島の西側、インダール湾のほとりに向かった。ここには小規模生産のモダンなクラフトウイスキーで知られるブルックラディ蒸留所がある。



ブルックラディ蒸留所のサンプル採取 JEFF J MITCHELL/GETTY IMAGES

ブルックラディは1881年の創業だが、2000年にワイン業者のマーク・レイニエとサイモン・カフリンが買収した時点では、5年以上閉鎖されていた。

少量生産を維持したいと考えたレイニエとカフリンは、ビクトリア朝時代の歴史的な設備と倉庫を再整備。伝統の手作り生産にひとひねりを加えた。さまざまな種類の斬新な樽、特にワイン樽を使ってウイスキーを熟成したのだ(スコッチの熟成には通常、バーボンやシェリーの樽が使われる)。

この再建事業は大成功を収め、蒸留所は2012年に約7400万ドルでフランスの高級酒大手レミー・コアントローに売却された。買収後も少量生産を貫くという契約付きで──。

現在、ブルックラディは島で自治体に続く2番目の雇用主。泉の水や「土壌(ソイル)のゴッドファーザー」と呼ばれる地元農家ジェームス・ブラウンの大麦など、地元の産品を全て使う試みにも取り組んでいる。

ウイスキー・ウオークは、事前にウイスキーのことを少し勉強してから行くと、さらに楽しめる。私は蒸留所のアダム・ハナットにレクチャーを受けた。そこで学んだことは──。

ウイスキーの試飲はワインに似ているが、同じではない。テロワール(生育環境)、成分、果物や穀物をアルコールに変えるプロセス、味覚と香りといった類似点もあるが、ワインのテイスティングが口に含んで吐き出すのに対し、ウイスキーはそのまま飲み込むのだ。

スコッチは一気飲みや、何かと混ぜたり急いで飲むようにはできていない。ちびちびと口に入れたら、舌の上で風味が広がるのをゆっくりと味わう。そしてスムーズに喉を流れる、焼けるような感覚を楽しむのだ。

「最高のウイスキーはゆっくりと花開く。1秒置きに味覚が変わる」と、ハナットは言った。

そしてウイスキーはブランドごとに、たとえラベルが同じでも樽ごとに独自の風味がある。「アイラにはウイスキー作りの小さな生態系がいくつもある。全て手作業で、原料はほとんどがアイラ島のものなので、1回作るごとに違いが出る」と、ハナットは言った。

「ここの農家の大麦を使い、ここで蒸留して熟成し、ここでボトルに詰め、世界中に送る。私たちには、それが正しいことだという感覚がある」

私はその日、社名を冠した非ピート系の「ブルックラディ」と、ピートの香りが濃厚な「ポートシャーロット」を試してみた。どちらもフルーティーで、ほとんど桃のようだ。



「地元産」へのこだわり

そして世界で最も「ヘビー」なピート・ウイスキーと称する「オクトモア」は、予想よりも穏やかな味だった。口の中にピートのスモーク感が広がったが、喉にガツンとくるほどではない。これは......いける!



ラガブーリン蒸留所の外観 ALAN COPSON-AWL IMAGES/GETTY IMAGES

翌日は「土壌のゴッドファーザー」ことブラウンの車に乗せてもらった。牛の餌やりの合間にピートを掘り出し、泉から水をくむのを見学するためだ。

沼地に向かう途中、ピートとは何かを尋ねると、ブラウンは次のように説明してくれた。

「ピートは若くて水分の多い石炭のようなもの。分解された樹木やらが圧縮されてできる。島では最近まで、誰もが冬の暖房、お茶を入れるときや、ウイスキーの香り付けに使っていた」

地面からピートを掘り出すのはとてつもなく大変な作業だった。それに危険でもある。ぬかるんだ泥の表面は不安定で、何かを一晩放置すると、流砂のような沼にのみ込まれ、二度と浮かんでこない。

幸い、ブラウンはこの辺りの地理に精通している。私たちは無事生還して、全てのブルックラディ産ウイスキーの母ともいうべき地下の泉にも足を運んだのだった。

<本誌2019年9月10日号掲載>

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※9月10日号(9月3日発売)は、「プーチン2020」特集。領土問題で日本をあしらうプーチン。来年に迫った米大統領選にも「アジトプロップ」作戦を仕掛けようとしている。「プーチン永久政権」の次なる標的と世界戦略は? プーチンvs.アメリカの最前線を追う。



ポーラ・フローリック(作家)

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