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問題は「AIに奪われる仕事は何か」ではない! 一生稼ぎ続けられる「π型人材2.0」になるためのステップ

ニューズウィーク日本版 2024年3月1日 17時26分

<スキルの「賞味期限」はたった4年? 石角友愛さんが語るChatGPTで「一生稼ぎ続けられる人」になるためのキャリア戦略>

「4to4」=「4年かけて学んだ知識で4年働く」。これは、シリコンバレーでは、AI時代のキャリア形成の核となる考え方だといいます。『AI時代を生き抜くということ ChatGPTとリスキリング』は、今後求められる「π型人材2.0」になるための効率的なリスキリングのプロセスを体系的に紹介した画期的な一冊です。

著者は、パロアルトインサイトのCEOでありAIビジネスデザイナーとして活躍する石角友愛さん。「学びのプロ」になり、望むキャリアを実現していくための道筋をお聞きします。(※この記事は、本の要約サービス「flier(フライヤー)」からの転載です)

「AIに奪われる仕事、安泰な仕事」という議論は枝葉にすぎない

──石角さんが『AI時代を生き抜くということ』を執筆された背景は何でしたか。

2022年のおわりにChatGPTの登場が話題を呼びました。以前から、生成AIの技術やサービスが登場するたびに、「AIに仕事を奪われる危険性が高い職業は何か?」といったファイナルアンサーを求められる機会が多くなってきたんですね。ただ、ChatGPTの一ユーザーとしても、企業にAI導入やDX推進をする経営者の立場としても、この職業が危ない、逆にこの職業は安泰というものはないと感じていました。AIは、業界・職種・役職を問わず、仕事の仕方や価値基準、もっというと人生の歩み方まで、様々な出来事の優先順位を変えていくものだと思っています。

──人生の歩み方にも変化を与えるのですね。

たとえば、グラフィックデザイナーがAIを活用してインスピレーションを得る部分を効率化できたとします。その分、クライアントと話す時間が増やせるようになったら、今度は外国人のクライアントが多くなってきた。だから英語を勉強して留学も検討しよう、といったシナリオが考えられます。こんなふうに、AIの活用を機に行動様式が大きく変わっていく可能性を感じています。

数年前は、日本政府が「DX人材をめざすなら、Pythonを学んでおくと安心」と推奨していました。ですが、ChatGPTの登場で、この前提条件は揺らぎはじめています。現在は、エンジニア80人でやっていたことがGitHub Copilotを活用すると8人のエンジニアで対応できるようになるとまで言われ始めた時代です。現にGAFAMは人材を大量にレイオフしながらも業績を伸ばしています。

こうした現実のなかで、「どの仕事がなくなるか、安泰か」は枝葉の話であって、もっと根源的な問いは、ChatGPTのような技術が次々に出てくるなかで、どんな人材になるべきか。ゲームのルールが都度変わり、自分自身も変容し続けることを大前提に、どんなキャリアを歩んでいくのか。こうしたことを考える際に本質的に役立つ本を書きたいと思い、本書の執筆に至りました。

『AI時代を生き抜くということ』
 著者:石角友愛
 出版社:日経BP
 要約を読む

ご著書『AI時代を生き抜くということ』

──「π型人材2.0」になるための「LEARN+Aステップ」の肝は何ですか。

まず「π型人材2.0」とは何かというと、強みとなる専門分野を複数持ち、それらをつなぐ広い視野を備えている人を意味します。それをさらに進化させて、自分のスキル(ドメインスキル)に相乗効果をもたらすような新たなスキル(スパイクスキル)を掛け合わせ、統合していく。これを継続している人材を「π型人材2.0」と名づけました。

「π型人材2.0」に向けてスキルを身につけるステップが「LEARN+A」ステップです。図にあるように、Let go(前提条件を手放す)、Evaluate(スキルセットを評価する)、Analyze(選択肢を分析する)、Roll out(リスキリングを実行する)、Negotiate(リスキリング後に大事な条件を交渉する)という5つのステップから成り、最後のAはAssociative Thinking(ドメインスキルとスパイクスキルを統合する力)にあたります。

どのステップも大事ですが、あえていえば2番目のステップEvaluateと、最後のAssociative Thinkingが特に大事。Evaluateは、自分のスキルセットを可視化して、評価するステップ。自分の役職やプロジェクトの名称は言葉にできても、培ってきたスキルを言語化するのはなかなか難しいものです。こうしたスキルセットをリスト化していくときにおすすめなのが、ChatGPTの活用です。

ChatGPTに「自分のドメインスキルを棚卸しするプロンプト」とともに、過去の役職や職歴、条件を入れると、ChatGPTがドメインスキルを出力してくれます。プロンプトの具体例は本書に譲りますが、試した方からは、「自分はこんなスキルを身につけていたのか」という声をよく聞きますね。驚くような結果が出ることもあるようです。

──文字になってはじめて気づくことがあるのですね。

転職活動の予定がなくても、定期的に職務経歴書のアップデートをするのをおすすめします。3か月に一度か半年に一度、自分を客観視したときのアピールポイントや評価される点を考えてみることができるのです。

ポイントは、自分のウリが相手にイメージしてもらいやすいこと。ダイレクトリクルーティングでは、企業側がデータベースの中から、自社の求める人材のスキルセットの単語を検索し、その検索ワードに引っかかった人の職務履歴書が出てくる。なので、自分のスキルセットを「タグづけしやすい形」でまとめておくことが大事になります。

ビギナーでいることへのプライドを捨てよう

──『イノベーションのDNA』という本にあった「関連づける力」が、本書ではπの柱を結びつける「Associative Thinking(統合力・連想力)」として紹介されていました。この連想力を磨くために、どんな実践をするとよいでしょうか。

連想力を磨くためには、常に新しいことにトライしていること、つまり何らかの「ビギナーでいること」の習慣化が大事だと思うんですよね。たとえば、Metaのトップであるマーク・ザッカーバーグ氏は、ビジネスにおいてはビギナーの真逆といえる存在。ですが、新たにブラジリアン武術を習いはじめています。それについて「面白いことをやり続けられるかどうかは、また恥をかいたり、初心者に戻って体を蹴られたりすることをいとわないかどうかにかかっているのかもしれない」と答えている通り、無駄なプライドを捨てて、叱られたり失敗するなど恥ずかしい思いをすることに意義があるのだそう。

ビギナーでいることのメリットは、自分と関係のない領域の情報や知識を取り入れたときに、脳内でトランスファーリンクがつくられて、点と点が線になりやすくなるから。これは、ドメインスキルとスパイクスキルを統合するAssociative thinkingそのものです。

たとえば、異業種交流会で、今まで関わりのなかった業界の人と話してみる、でも良いと思います。違う会社の人と話すだけでも、社風の違いなど発見があります。これは、自分のキャリアを客観視することにもつながってきます。仕事に限らず筋トレやマラソンでもいい。どう点と点がつながり、線になっていくかを楽しみながら、積極的にビギナーになる習慣化をおすすめします。

本人提供

組織でのリスキリングは「現場のコラボレーション」がカギ

──組織やチームに「リスキリングへの前向きなマインドセット」をインストールし、学びのカルチャーを定着させるためには、リーダー層・人材育成に関わる人はどんなアクションをとるとよいでしょうか。

組織としてリスキリングを推進するうえで、従業員に「こういうプログラムを提供するから、好きなときに学んでください」というフェーズは終わりました。自社の戦略に合ったスキルセットをいかに従業員に身につけてもらうか。この戦略と人事育成施策・評価の整合性をとらないといけません。

リスキリング推進には「戦略」と「実践」が必要です。まず戦略レベルでは、トップがビジョンとともに「自社に必要な人材像」を打ち出すことが必要です。そのうえで、従業員の目線に立ち、「こうした人材になったらどんな良いことがあるのか」を明らかにする。こうしたコミュニケーションができてはじめて、リスキルが実現できます。

学ぶ内容も、現場でのアウトプットにつながるようにオーダーメイドすることが必要です。座学の授業よりも、未経験のプロジェクトをやるほうがふさわしい場合もあります。

──たしかに、それなら受講者のコミットメントも上がりそうです。

次に実践レベルでは、学習状況を定点観測しましょう。組織でのリスキリングは、現場でのコラボレーションを重視すると、相乗効果が生まれやすいものです。本人も現状を話すことでモチベーションが上がるし、リアルタイムでの共有が同僚の学びや刺激にもなります。slackでもいいので情報共有しやすいプラットフォームを用意して、あるテーマでリスキリング中の人と経験者をつなぐといった工夫ができるといいですね。

また、導入したプログラムの効果検証も重要です。受講者のどれくらいの割合が修了したのか、それが売上アップにつながったのか。人的資本開示の時代には、こうしたことを個々にメトリクス化して、リアルタイムで管理できるようにするのが理想です。

最近では学習開発に特化した「ラーニング・ディベロップメント」の部署が増えてきています。それくらい、従業員の学習効果について戦略的にデータドリブンでPDCAを回せるような体制が求められていると思います。

村上春樹の「ランナー必読書」が、リスキリング習慣化に効く

──石角さんの人生観や価値観に影響を与えた本は何でしたか。そこからの気づきについてもお聞きしたいです。

一冊目は、経営学者クレイトン・クリステンセン氏の『イノベーション・オブ・ライフ』。何度も読み返すというよりは、本の内容が頭に入っていて、その基本要素が血 肉となり、私の判断基準にもなっています。転職や出産など人生の大事な局面で、この本に書かれていたことを思い出し、自分流に解釈して、指針にしている。そんな大事な一冊です。

『イノベーション・オブ・ライフ』
 著者:クレイトン・M・クリステンセン、ジェームズ・アルワースカレン・ディロン
 翻訳:櫻井祐子
 出版社:翔泳社
 要約を読む

2冊目は、村上春樹さんのエッセイ『走ることについて語るときに僕の語ること』です。走ること、小説家としてのありよう、創作の秘密を語った一冊です。ランナー必読の書でもあり、あらゆることの「習慣化」に活かせる本です。村上春樹さんが小説家として活躍し続けられるのは、才能だけでなく習慣の力が大きいことがわかります。

たとえばランニングも、行く前は「明日でもいい」「寝たい」「私にはできないかも」といった考えがよぎることもあります。ですが、これらは目標を達成するうえで、全てノイズにすぎません。

大事なのは、こうしたノイズに打ち勝って、継続していけるように脳内をコントロールしていくこと。この本からは脳のコントロール方法が学べるのでおすすめです。運動はもちろん、リスキリングの習慣化にも役立つので、読んでみてください。

『走ることについて語るときに僕の語ること』
 著者:村上春樹
 出版社:文藝春秋

石角友愛(いしずみ ともえ)

パロアルトインサイトCEO/AIビジネスデザイナー

2010年にハーバードビジネススクールでMBAを取得したのち、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAI関連プロジェクトをシニアストラテジストとしてリード。その後HRテック・流通系AIベンチャーを経てパロアルトインサイトをシリコンバレーで起業。東急ホテルズ&リゾーツのDXアドバイザーとして中長期DX戦略への助言を行うなど、多くの日本企業に対して最新のDX戦略提案からAI開発まで一貫したAI・DX支援を提供する。AI人材育成のためのコンテンツ開発なども手掛け、芝国際中学・高等学校に対しAI人材育成プログラム「AIと私」を提供。順天堂大学大学院医学研究科データサイエンス学科客員教授(AI企業戦略)および東京大学工学部アドバイザリー・ボード、京都府アート&テクノロジー・ヴィレッジ事業クリエイターを務めるなど幅広く活動している。日経クロストレンド、毎日新聞、ITmediaなど大手メディアでの連載を持ち、DXの重要性を伝える毎週配信ポッドキャスト「Level 5」のMCや、NHKラジオ第1「マイあさ!」内「マイ!Biz」コーナーにレギュラー出演中。「報道ステーション」「NHKクローズアップ現代+」などテレビ出演も多数。著書に『いまこそ知りたいDX戦略』『いまこそ知りたいAIビジネス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『経験ゼロから始めるAI時代の新キャリアデザイン』(KADOKAWA)、『才能の見つけ方 天才の育て方』(文藝春秋)、『AI時代を生き抜くということ ChatGPTとリスキリング』(日経BP)など多数。

パロアルトインサイトHP:https://www.paloaltoinsight.com/

お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com

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flier編集部

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