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「自分らしく働く」を諦めないで! 自分の「やりたい仕事」と「強み」は、こうすれば見つかる

ニューズウィーク日本版 2024年3月5日 19時3分

<「私には強みがない」は大きな誤解。「自分らしく働く」ために必要なこと──アウェイに「越境」すると自分の強みが分かる>

自分の強みや大事にしたい価値観とは何か? そんな問いに向き合うための考え方や行動のヒントを紹介した一冊が、『自分らしく働くための39のヒント』(KADOKAWA)です。著者は、エージェント事業、リスキリング事業などを通じてキャリアを支援するWaris代表取締役・共同創業者を務める田中美和さん。

働き方や仕事への価値観が多様化するいま、改めて「自分らしく働く」を実現するには? 今後求められる人材像とともにお聞きします。(※この記事は、本の要約サービス「flier(フライヤー)」からの転載です)

「自分らしく働く」は誰でも可能な選択肢

──『自分らしく働くための39のヒント』を執筆した背景は何でしたか。

自分らしい生き方・働き方を実現するための方法をお伝えしたいと考えたためです。私たちWarisは2013年に創業し、「Live Your Life すべての人に、自分らしい人生を。」というビジョンを掲げて、その実現に伴走しています。私自身は前職を含めて20年以上、のべ3万人以上の働く女性たちの声にふれてきました。

そのなかで、「自分の強みがわからない」「自分らしく働けるのは特別な人だけでは?」などと、自信を持てない方が圧倒的に多いと痛感しました。ですが、本来一人ひとりに強みがありますし、「自分らしく働く」ことは誰でも可能な選択肢です。そのためのヒントやノウハウをお伝えしたいと思ったのが、本書を執筆した背景です。

『自分らしく働くための39のヒント』
 著者:田中美和
 出版社:KADOKAWA
 要約を読む

──Waris創業時を考えると、人的資本経営とともに女性活躍やDEI(※)が広がり、日本企業での働き方も変わってきたかと思います。キャリアに関する悩みも変化してきたのでしょうか。
※組織内で人材の多様性を実現するというD&I(ダイバーシティ・インクルージョン)にくわえ、公平性という意味のE(Equity:エクイティ)を重視する概念のこと

働き方の選択肢が多様になってきましたよね。独立してフリーランスになる方もいれば、会社員をしながら副業でフリーランスをする方も増えてきました。また、コロナ禍で会社員にもリモートワークが広がりました。働き方の選択肢が多様になっているからこそ、「自分はどうありたいのか」にモヤモヤや不安があるという方は増えていますね。

また、生成AIのめざましい進化が話題になるにつれ、AIやロボットによって自分の仕事が代替され自動化されるのでは、という不安の声も耳にします。

「自分らしく」の中身を掘り下げるには?

──自分らしく働きたいものの、「自分らしく」の中身を言語化できていない方もいると思います。そうした方へのアドバイスはありますか。

「自分らしく」の中身を掘り下げて言語化するためには、自分のことを知るというアクションが大切だと思うんですよね。これまでどんな経験を積んできて、どんな強みやスキルを得てきたのかを振り返ってみることが大切です。

自己分析には、主観をもとにする方法と、客観的に知る方法の2つがあります。前者の1つに「ライフラインチャート」があります。グラフの横軸に年齢、縦軸に充実度をとり、これまで歩んできた道のりを振り返ることで、ご自身がどういう状態だと心地いいのかが見えてきます。さらには、作成するタイミングによって異なる気づきが得られます。

年代を問わず「やりたいことがわからない」という悩みは多いのですが、感覚的に「こういう条件が維持できていると嬉しい」というのを考えてみるのがおすすめです。たとえば、「未知のことをやるとワクワクする」という方なら、現状を振り返って「最近新しい挑戦をしていなかったから、新しい業務に手を挙げてみよう」といった気づきを得られるでしょう。

もう1つ、アセスメントなどを使った客観的な自己分析です。自分の才能(資質)を知る「クリフトンストレングス(旧ストレングスファインダー)」のように、さまざまな自己分析・自己診断ツールがWEBサイト上で提供されています。

第三者に意見を聞くのもよいし、キャリアカウンセリングやコーチングなど、キャリア支援のプロに頼るのも手です。オンラインでコーチングなどを受けられるサービスも増えてきました。

こんなふうに、自分の培ってきたものや感情を見つめ直して、自己理解を深めていただけたらと思います。

ホームからアウェイへと「越境」すると、強みが見える

──「自分らしく働く」を実現する上で、越境体験が大切になると本書にありました。その背景は何でしょうか。

なぜ越境体験がよいかというと、普段なら気づけない自分の強みに気づきやすくなるからです。法政大学大学院教授の石山恒貴先生は、「『自分がホームと考える場所』と『自分がアウェイと感じる場所』とのあいだを行き来し、ホームとは異なる知・考え方を獲得していく学びのあり方を「越境的学習」と表現しています。

私自身も実体験を通じて、アウェイに身を置くことの大切さを感じてきました。20代後半の頃に、会社員の傍ら、フィリピンの児童養護施設の子供たちを支援する団体のボランティア活動をし、チャリティーマラソンの運営事務局も3年やっていました。広報担当として、HPの文章やプレスリリース作成、SNS投稿をしていたら、言語化や伝え方が上手だねと言っていただいて。おかげで、自分の強みに気づき、自信につながったんです。

ホームでは雑誌の編集記者をしていたので、当然、私と同じように文章を書くのが得意な人たちばかり。だから言語化が強みだと気づけなかったんです。ですが、多様な人がいる環境下で、自分を必要とし、認めてくれる人がいると自信になる。私の場合は、それがWarisを起業するときの支えになりました。

あとは、幅広い年代や職種の人と接するなかで、多様なロールモデルに出会えました。そこで生まれた人的なつながりは、人生の財産になっています。

越境体験というと、副業、ボランティア、外部での学び直しをイメージするかもしれません。それは敷居が高そうですが、石山先生は「(必ずしも)社外に出なくてもいい」といいます。社内での趣味やクラブ活動、組合活動、会社横断イベントの企画に参加するのもいい。普段所属しているチームと違う人との出会いが大事で、ホームとアウェイを行き来すること全般が越境体験なのだと。こう思うと一歩踏み出すときに、気がラクになりますよね。

──今後、組織のあり方も多様化すると思いますが、改めて、どんなマインドセットやスキルをもつ人材が求められるのでしょうか。

企業が求める人材としてキーワードは、「自分を律することができる」ということ。労働人口の減少や年金支給開始年齢の引き上げにより、働く期間は長期化する一方。約50年働くことになり、今後ますます新しい知識やスキルを学び続ける力が問われます。

ところが、ベネッセコーポレーションの「社会人の学びに関する意識調査2023」によると、日本の社会人の約4割が学習経験も学習意欲もない「なんで学ぶの層」だといいます。

これからの時代に問われるのは「学歴」ではなく「学習歴」。まだまだ学ばない人が多いからこそ、常に学び続けている人は、企業でも求められ、仕事を獲得しやすくなります。

リスキリングのテーマを選ぶための3つのポイント

──リスキリングのテーマは、どのように選ぶとよいでしょうか。

ポイントは3つあります。1つめは、「仕事を効率的・効果的に行うためのスキル」。もしエクセルで単純な計算作業が多ければ、計算が一発でできるようにプログラミングを学ぶ、といったことです。

2つめは、「自分のやりたい仕事に必要なスキル」。データサイエンティストになりたいからデータ分析を学ぶような形です。自分のやりたい仕事をすでにしている人が身につけているスキルを参考にするとよいでしょう。

やりたい仕事に就くためには実務経験が重視されるので、「学んで終わり」にしないことも重要です。リスキリングでは就労支援がついた講座を選ぶのもよいと思います。学んだことを今の仕事に活かすとか、活かせるようなプロジェクトに兼務で参加できないか上司にかけあうのもいいですね。

3つめは、「理想のライフスタイルを実現するためのスキル」です。「地方に住みながらリモートで働きたい」「介護をしているので在宅がいい」などと、理想の生き方やライフスタイルから逆算して何を身につけたらいいかを考える方がしっくりくる方もいます。在宅のスタイルがよいなら、在宅でも可能なデジタルマーケティングを学ぶ、といったことです。

──3つのポイント、意識してみます。仕事の効率化に関するスキルだと、AIをどう活用し、AIとどう協働していくかが問われそうです。

AIといえば最近、AIの専門家による講演で面白い話を聞きました。カスタマーサポートも、AIチャットボットの導入により、コミュニケーションが滑らかになっているというのです。コールセンターのトラブル対応では、いきなり怒鳴る顧客もいて、オペレーターも精神的にハードな面があります。ですが、AIが一次対応をすることで、トラブルに関する情報整理をして、必要なケースでのみオペレーターにつなぐ形になった。すると、オペレーターが顧客に怒鳴られることが減り、コミュニケーションがスムーズになったそうです。

人間の仕事がAIに代替されるのでは、と不安を抱く方も多くいます。ですが、AIの活用で、「人間にしかできない価値ある業務」にますます注力しやすくなると思います。

創業の原動力になった、「働き方の未来」を描いたあの名著

──田中さんのキャリアや価値観に影響を与えた本についてお聞かせいただけますか。

リンダ・グラットンの『ワーク・シフト』です。過去20年間の生き方や働き方の常識が大きく崩れつつあることを教えてくれた一冊です。この本が出た2012年当時はちょうど、日本の働き方に課題を感じて、共同創業者となる仲間たちと起業を考えはじめた時期。そんなときに話題になった『ワーク・シフト』が非常に面白くて。彼女たちと本の感想をシェアしながら「こういう世界をつくりたいよね」と語り合いました。

印象的だったのは、世界各地からリモートで、プロジェクトベースで働く姿が具体的に描写されていたこと。当時は働き方改革の前で、長時間オフィスで働くことがよいという価値観が一般的。私も周囲の人もそこに息苦しさを感じていたし、ワークとライフの両立に対して焦りや葛藤を抱いていました。

だから、本書の描く未来図に衝撃を受けましたし、「時間や場所にとらわれない働き方」を広めたいという思いが強まりましたね。フリーランスで働きたい女性と企業とをつないで仕事のマッチングをするという、創業初期からのサービスにもつながりました。『ワーク・シフト』は、Waris立ち上げの原動力になった本なんです。

『ワーク・シフト』
 著者:リンダ・グラットン
 翻訳:池村千秋
 出版社:プレジデント社
 要約を読む

──最後に、田中さんの今後のビジョンについてお聞かせください。

ライフステージの変化に応じて、多様な働き方を柔軟に行き来できる社会をつくりたいと考えています。働く期間が長期化しているので、会社員として一社に勤め続けること自体が珍しくなっていくと思うんですね。転職やフリーランスになる期間もあれば、「サバティカル」という職務を離れた長期休暇をとるケースもある。このように主体的にキャリアを移行することを、Warisでは「キャリアシフト」と表現しています。

最近、「フリーランスだったが50代で会社員になった」という方に立て続けに3名お会いして、そういうのはとてもいいなと思ったんです。もう「35歳転職限界説」は過去のもの。売り手市場も相まって、40代、50代でも再就職や転職をする方は増えています。だから、挑戦したいというご本人の意思があれば、色々な可能性が広がっているのです。

そんななかで、Warisで行ってきた仕事のマッチングや成長を支援するリスキリングの事業だけでなく、多様な選択肢をお伝えしながら、一人ひとりのキャリアシフトを支援していけたらと思います。

田中美和(たなか みわ)

株式会社Waris共同代表/一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会理事/国家資格キャリアコンサルタント

慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、日経BPで編集記者として働く女性向け情報誌「日経ウーマン」を担当。取材・調査を通じて接した働く女性の声はのべ3万以上。女性が生き生き働き続けるためのサポートを行うべく独立し、2013年、多様な生き方・働き方を実現する人材サービス企業Warisを創業し共同代表に(現在ベネッセグループ入り)。フリーランス女性と企業との仕事のマッチングやリスキリングによる女性の就労支援に取り組む。最近では女性役員紹介事業を通じて意思決定層の多様性推進にも尽力。X(旧Twitter):@Miwa_Tanaka57

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flier編集部

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