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プーチンの誤算、傷だらけでクリミア半島から逃げ出す黒海艦隊

ニューズウィーク日本版 2024年3月6日 17時22分

<陸ではウクライナ軍を押しているロシアだが、黒海ではドローン攻撃による大きな被害が続出。ロシアが誇る黒海艦隊も大損害を被って東に逃げている>

ロシアがウクライナへの本格的な侵攻を開始してから2年以上。ロシアのウクライナにおける最大の戦利品であったクリミア半島に対する支配には、亀裂が入りかけている。

ここ数週間、ウクライナ本土の戦いではロシア軍がかなりの犠牲を払いつつも大きな勝利をおさめているが、対照的に「ウクライナは黒海の戦いにほぼ勝利した」と、ロバート・マレット退役米海軍副提督は本誌に語った。

 

2022年2月以来、ウクライナ軍の攻撃でロシアの黒海艦隊はかなりの損失を被っている。2014年にロシアがクリミア半島を併合して以来、ウクライナはこの半島の奪還を誓っている。

過去10年間、ロシアはクリミア半島の黒海沿いの軍港を利用し、ロシアの勢力を越えてウクライナ南部にまで投射するつもりでいた、と元ウクライナ海軍大尉のアンドリー・リジェンコは言う。

だが、クリミア周辺でのウクライナの攻撃が成功しているため、ロシアの計画は頓挫しかけている。

ロシアは開戦後早い時期にウクライナ製と思われるネプチューン・ミサイルの攻撃で旗艦モスクワを失った。2023年9月には英仏製ストームシャドー・ミサイルの華々しい攻撃でロシアのキロ級潜水艦が破壊された。

ウクライナ海軍のドローンは今年2月、ロシアの誘導ミサイル搭載コルベット艦イワノベッツを破壊し、上陸用艦船数隻の撃沈に成功している。

失われたロシアの優位性

2月中旬、ウクライナは、ロシアのセバストポリ海軍基地の南東に位置するクリミア南部の都市アルプカの近くで、大型揚陸艦シーザー・クニコフを撃沈したと発表した。この攻撃によって、元から数が少なかったロシア軍の揚陸艦の艦隊がさらに縮小した。

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は攻撃の直後、「今日、われわれは黒海の安全を強化し、国民のモチベーションを高めた」と述べた。この種の艦船を失ったため、ロシア軍の上陸作戦はかなり難しくなる、とリジェンコは本誌に語った。

ウクライナは、ロシアのフェオドシャ港や、クリミア半島とロシアのクラスノダール地方を結ぶ重要なクリミア大橋など、クリミア東部まで攻撃範囲を拡大している。

3月5日未明、ウクライナ国防省情報総局(GUR)は、ロシアのプロジェクト22160哨戒艦4隻のうちの1隻であるセルゲイ・コトフに、ウクライナ国産のマグラV5水上ドローンが突っ込んでいるように見える映像を公開した。ウクライナによると、同船はロシアが占領するクリミアとロシア南西部を隔てるケルチ海峡の近くにいた。地元情報筋はクリミア大橋が一晩閉鎖されたと伝えた。

GURはソーシャルメディアへの投稿で、この艦船は「船尾、右側面、左側面に損傷を受けた」と付け加えた。

イギリスのグラント・シャップス国防相は昨年12月、ロシアは過去4カ月で黒海艦隊の20%を失ったと述べ、「ロシアの黒海における優位性は、今や疑わしい」と、語っている。

海軍のドローンと西側から供与された巡航ミサイルを駆使するウクライナの執拗な攻撃は、ロシア海軍を黒海の東に押しやり、クリミア半島周辺のロシア占領地域の安全を脅かしている。

「ロシアは東に移動するしかない」と言うのは、ウクライナ軍トップの元特別顧問で、現在はアメリカン大学キーウ校の学長を務めるダニエル・ライス。だが、そうすることでロシアはクリミアに対する支配力を失うことになる、と彼は本誌に語った。

 

ロシアは黒海東部の港湾インフラの拡張を余儀なくされているが、それはクリミア周辺の施設(セヴァストポリにある基地や軍港など)が危機に瀕しているからだ、とマレットは言う。

ロシアは、ロシア領内と国際的に認められている黒海の港湾都市ノボロシスクにクリミアの資源の一部を移している。一部報道によれば、ロシアはジョージア領内で事実上の独立状態にあるアブハジアのオチャムチレ港に新たな軍事基地を計画しているともいう。そうなれば、黒海におけるロシアの部隊はウクライナの海岸線からさらに遠ざかることになる。

ロシアは新型の主要艦船をクリミアに留めておくことを非常に警戒するようになり、数隻をノボロシスクに移した、とリジェンコは言う。

黒海はグレーゾーンに

「侵攻前のロシアの基本的な前提は、領空の支配と黒海における海軍力の支配の2つであったはずだが、どちらも失った」と、ライスは言う。

ウクライナは黒海経由で何百万トンもの穀物を輸出することにも成功している。

だが、これはウクライナがこの周辺地域を支配下においたことを意味するものではない。ウクライナのせいで北西の隅では動きがとりにくくなっているとはいえ、ロシアは依然として黒海の大部分を支配している、とリジェンコは言う。黒海の一部が「グレーゾーン」になり、どちらの国が支配しているとも言えなくなった段階だ、と彼は言う。



エリー・クック

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