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日本女性が子育て後に正規雇用に復帰するチャンスは依然として閉ざされている

ニューズウィーク日本版 2024年3月13日 11時0分

<子育て後の女性の働き方を見てみると、仕事への復帰チャンスは主に非正規雇用だ>

イギリスの経済誌「エコノミスト」が、29カ国の「女子の働きやすさ」を指標化しランキングにしたところ、日本は下から3番目だったという。賃金の性差が大きく、女性の場合、年齢が上がった正社員でも年収の中央値は400万円を超えない(ガラスの天井)。こういう現実があることを思うと頷ける結果だ。

そもそも日本は、働く女性の割合も先進国の中では低い。性別役割分業が強く、家事や育児等の負担が女性に偏るためだ。女性の就業率の年齢カーブを描くと、結婚・出産期に谷がある「M字」になるのはよく知られている。

  

政府の白書をみると「M字の底は過去と比べて浅くなっており、様々な施策の結果、女性の社会進出が進んだ結果だ」などと(誇らしげに)書かれている。確かにそうだろうが、働き方の中身も気になる。フルタイム就業、パート就業、無業という3カテゴリーの内訳をグラフにすると<図1>のようになる。

左は1985(昭和60)年のグラフだが、働いている者(青色+オレンジ色)の割合を見ると、20代後半に谷がある明瞭な「M字」型になっている。男女雇用機会均等法が施行される前の年で、性役割分業が強かった当時の状況が出ている。

現在では様相はかなり変わり、働く女性の割合は上がり、M字の底も浅くなっている。フルタイム就業者の割合も増えている。だがこれは、未婚で働き続ける女性が増えたためでもあるだろう。よく見ると2020年では、就業率の盛り返しはもっぱらパート就業の増加による。フルタイム就業は結婚・出産期に下がった後、盛り返しを見せていない。「M」ならぬ「L」になっている。

同一世代を追跡したデータではないが、フルタイム就業への復帰のチャンスが閉ざされている、ということだろう。1985年では「主に仕事」の割合の再上昇がややあるが、自営業がまだ多かったためかもしれない。しかし雇用労働化が進んだ今では、女性のフルタイム就業率のカーブは「L字」型になってしまっている。

政府の白書では、M字の底が浅くなったことをもって、女性の社会進出の進展などと書かれているものの、働き方の中身を透視すると、子育て後の女性の復帰チャンスは主に非正規雇用だ。

他国も同じかというと、そうではない。<図2>は、フルタイム就業者の割合を年代ごとに出し、線でつないだグラフにしたものだ。日本を含む主要6カ国のカーブが描かれている。

  

日本だけが明瞭な右下がりになっている。年齢を上がるにつれ女性はフルタイム就業(正規雇用)から退き、復帰のチャンスもない。サンプルが少ない標本調査なのであくまで参考だが、日本の特異性が注目される。

未婚女性が希望するライフコースで最も多いのは、家のことと仕事を両立する「両立型」だが、現実の予想としては「非婚就業継続型」が最多だ(「子どもは欲しいがワンオペはきつい...非婚就業に傾く日本の女性の理想と現実」2024年2月7日、本サイト掲載)。言い方はよくないが、結婚による損失を意識してのことだろう。

女性の高学歴化が進んでいることもあり、キャリアの断絶や減収といった「損失」は、昔に比べてより強く意識されるようになっている。これを回避するには、男性の家事・育児分担率を高めなければならない。未婚化・少子化に歯止めをかけるには、ジェンダー平等の視点が求められる所以だ。

<資料:総務省『国勢調査』、
    「ISSP 2020 - Environment IV」>

  

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舞田敏彦(教育社会学者)

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