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大谷翔平の今後の課題は「英語とカネ」

ニューズウィーク日本版 2024年3月27日 14時0分

<コミュニケーションと金銭管理を人任せにしていたことが、アメリカの一般の野球ファンには理解できない>

長年、通訳として大谷翔平選手と二人三脚で歩んできた水原一平元通訳が、実はギャンブル依存症であり、また大谷選手の口座から450万ドル(6億8000万円相当)を盗んで借金の返済に充当していたという事件は、アメリカでも最大級の関心を呼んでいます。

大谷選手が会見を開き、自分は水原元通訳のギャンブル問題は知らず、また送金にも関与していないと述べて、大谷選手に関する疑いは完全に晴れました。アメリカでも、スポーツ記者の間ではこの認識はほぼ浸透しています。ですが、一般の野球ファンの間では、まだモヤモヤとしたものが残っています。

その背景には、近年のアメリカにおける陰謀論ブーム、つまりメディアの公式発表をまず疑ってかかるクセがあり、またアジア系の価値観や行動様式は「自分たちとは違う」という一種の人種差別のような感覚もあるようです。その結果として、実はギャンブル依存症だったのは大谷選手であり、自分の口座から違法賭博の胴元に送金したのだから、それは明白だというような言説が飛び交っており、今でも消えていません。

この問題ですが、陰謀論と差別というのは結果です。その背景には、大谷選手から英語の肉声が聞こえてこないということがまずあり、その上で、450万ドルという大金が自分の銀行口座から動いても気付かないということが全く信じられないという感覚があると思われます。つまり英語とカネに無関心だという人物は、全く信じられないか、または全くリアリティーが感じられないというところに、差別や陰謀論が生まれる素地があるということです。

大谷を疑うネットの言説

アメリカのネットでは、現時点でも大谷選手のことを疑う言説が拡散しており、具体的には次の2つの指摘がされています。

1つ目は、送金の方法です。送金がネットバンキングで行われた場合には、パスワードだけでなく、二段階認証まで盗まれていたということになるわけで、これは不自然だということになります。一つ考えられるのは、英語に不安があり、また金銭への執着の薄い大谷選手が、自分の銀行口座の管理を水原元通訳に任せていたという可能性です。具体的な方法としては、パスワードなどの共有に加えて、小切手にサインだけした「ブランクチェック」を渡していたのかもしれません。

つまり口座の管理を任された人物は、その小切手に支払額と支払先を記入もしくは印字したら送金できてしまうというわけです。いずれにしても、日本的な感覚であれば、カネに関心が薄いので、金銭に関わる実務を誰かに任せて野球に集中していたというのは、一種の美談になりますが、アメリカの価値観では無責任ということになります。この辺の文化の違いの問題はあると思います。

2つ目は、大谷選手を取り巻く情報の動きが見えないということです。例えば、大谷選手が水原元通訳の問題を知ったのは、韓国で本人から告白を受けた時点だという説明が疑われています。具体的には、水原元通訳がテレビ局のESPNの取材に応じて、ギャンブル依存症であると告白を行った時点でも、あるいはドジャースのクラブハウスで選手たちの前で告白を行った際にも、大谷選手には内容が伝わっていなかったようですが、これが不自然だと思われています。

野球に専念する一方で、英語に関しては公私ともに水原元通訳に一任していたということであれば、理解できるのですが、一般のアメリカ人からすれば7年もアメリカにいるのだから、英語は理解するだろうし、怪しい、おかしい、となるわけです。さらには、大谷選手を代表して契約交渉など一切を仕切っているエージェントから大谷選手に何らかの情報なりアドバイスが行くとか、あるいはエージェントが会見などを仕切る、弁護士とのチームを組むと言った動きが見えないということもあります。

こうした問題も、これまでは水原元通訳が全て間に入っていたので、コミュニケーションができていたが、彼が不在となった今では、大谷選手には何の情報も入らないし、まして、エージェントや弁護団とのチームワークが可視化されることもないというのが現状だと思います。ですが、アメリカの一般世論としては、大谷選手がそこまで英語をスルーしているというのは、全く考えられないので、何かある、何かを隠している、不自然だということになるのです。

日本式の美学は理解されない

これからの推移としては、大谷選手自身がここまでキッパリと疑惑を否定しているので、これ以上、問題が悪化する可能性は少ないと思います。ですが、今回の事件を契機として、明らかに一般のアメリカの野球ファンからは、全く英語を話さないとか、カネについては完全に人任せにしているような人物は信じられないというリアクションが出てきたのは事実です。そして、陰謀論好きな時代のカルチャーや人種差別的な感覚がこれに乗っかっています。

そこには正義はないし、むしろ誤った偏見であることは確かです。ですが、今回の事件を一つの契機とすることで、大谷選手はできるだけ早く通訳を必要としない状態に持っていくこと、ファンと英語でダイレクトに交流ができるようにすることは大切だと思います。

野球はアメリカの国技(ナショナル・パスタイム)です。日本の大相撲でモンゴル出身の力士や親方が、難なく日本語でコミュニケーションを取っているように、そしてそのことを日本の相撲ファンが好感を持って受け止めているように、大谷選手の英語での肉声をテレビインタビューなどで聞きたいというファンの気持に応えていければ様々な雑音は消えていくでしょう。

あくまで野球に専念するのが正しいというのが日本式の美学というのは、分からないでもありません。ですが、少なくとも英語で生活し、自分のカネ勘定には責任を持つというのは、アメリカにおける社会人として必要な義務です。そして、経済効果ということでも、社会的な影響力ということでも、大谷選手にはそのような義務が課せられているのは事実であり、そこから逃れることはできないと思います。そもそもは、そうした重要な点、つまり英語とカネの問題で他人に頼ったことが、ここまで深刻なトラブルを招いた元凶だというのは、やはり事実だと思います。

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