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高尾山にサンダルで登る危険な観光客も…。インバウンドで賑わう“観光地の住民”の悲痛な訴え

日刊SPA! 2024年2月28日 8時52分

 昨年秋頃からは円安も相まって海外からの旅行者も増え、もはやアフターコロナ、ウィズコロナという言葉も霞んでしまうほどに、コロナ前の世界に戻った昨今。当初は旅行業界を始め、インバウンドの復活に諸手を挙げて喜ぶ声が聞かれたが、その一方、旅行者の増加によって地元住民や自然環境に悪影響を及ぼすオーバーツーリズムが問題となっている。
◆下山が困難な高尾山

 新宿から特急で50分ほどと、都心から近い登山スポットとして近年人気を集めている高尾山。今までも高尾山に何度も登っているデザイナーのKさん(女性・35歳)は、現状についてこのように話してくれた。

「まさに『行きはよいよい帰りは恐い』といった感じで、ハイシーズンともなると下山するのに相当苦労します。登山客が多すぎてケーブルカーもリフトも満員で1時間近くの待ちになってしまうのです。しかも乗るための整理券をもらう窓口の前には人々がとぐろを巻くように集まり、整理券をもらうだけでも数十分かかります」

 ならば歩いて登山道で下山すればいいのでは……と思うのだが、高尾山の登山客特有の問題がこうした混雑に拍車をかけているという。

「地元の方に聞いたのですが、観光客や登山慣れしていない人はサンダルやスニーカーで登ってしまうことも多いんです。たかが高尾山と高をくくって登ってみたところ意外とキツく、帰りは登山道での下山を諦めるという人が多いと聞きます」

◆団子を買うために100m近い行列

 交通機関がパンクするほどの人が来てしまうため、秋の紅葉シーズンなど、ハイシーズンの頂上は足の踏み場もないほど混雑するという。

「頂上の売店で食事をしようと思っても、出てくるまでに30分、40分かかることも珍しくありません。昨年の秋に登ったときには、焼いたお団子の屋台には100m近い行列ができていて、ここまできたか……と思いました」

◆軽装備が招く悲劇

 筆者も登山を嗜み、高尾山には何度となく登ったことがあるのだが、Kさんが話すように軽装備の登山客は多い。こうした軽装備の登山客の多くはケーブルカーなどで山頂に行くため、まだなんとかなる。しかし、開放的な気分になって山道に足を踏み入れてしまいトラブルになるケースも。前出のKさんは滑り落ちた観光客を目の当たりにしたことがあるという。

「昨年の秋、私は景信山から高尾山に向かって山歩きをしていたんですが、途中、高尾山から来た大学生くらいのグループと木の根っこが出っ張っている坂ですれ違ったんです。みんな軽装備で、ジーンズにスニーカーとか、そんな格好でしたね。そのとき、グループにいた女のコが、私の目の前で滑ってけっこうな勢いで2mほど滑り落ちたんです。もし巻き添えを食らってしまったら、私は横の急斜面を落ちていったでしょうね」

 女のコは幸いケガもなく、自力で歩けたそうだ。聞けば景信山まで行って下山して、バスで高尾駅まで行こうとしていたと。Kさんを始め手助けした登山者から「そんな軽装備では景信山までは行くのも危険だし、景信山からバス停まで下山するルートはもっと危険だから、高尾山に戻って下山したほうがいい」とたしなめ、高尾山に引き返すよう説得したのだとか。

◆観光客は嬉しいが将来の不安も

 こうした状況について、高尾山に住む住民は「観光客が増えることは嬉しいが……」と複雑な胸の内を語ってくれた。

「観光客が増えたことで駅もキレイになったし、高尾山口駅には大型銭湯もできた。私が住む高尾駅も登山口までいくバスが出ているので週末はすごい人で賑やかです。人が来てくれることで、お店も増えたし、私はいいことだと思います。

ただ、これがずっと続くのか? という不安も大きいですね。見捨てられて寂れた温泉街みたいになったら、それはちょっとイヤだなと。高尾山口で飲食店やってる私の知り合いも、ずっと続くのか不安だと言います。頂上がパンク状態という話も聞きますので、もう少しケーブルカーなどの交通網や売店のあり方を整備しないと『人が多くて行きたくない』って言われて見捨てられそうですよね」

◆まるで戦後の列車のような京都の市バス

 また、日本屈指の観光地といえる京都でも、オーバーツーリズムが問題となっている。阪急線西院駅近くに住む会社員のAさん(男性・38歳)は「もう、慣れました」と苦笑いしながら京都の現状を語ってくれた。

「バスに乗れないんですよ、あまりにも混んでて。しかも朝のラッシュ時だけじゃなく、ヘタすると一日中、バス停に人だかりができてるんです。バス停には白線などで列を整理するようなものもないので、日本人も外国人もどうやって並んでいいかわからず、バスが来るたびに戦後の列車のように我先にと入り口に群がります。でも、そのバスもやって来る頃にはすでに満車状態なので、2、3人が乗車しておしまい……だったりするんです」

 バスに乗れなかった観光客はあちこちに溢れ、歩道がなかなか通れなくなる日も珍しくなく、住んでいる住民にとっては頭の痛い問題になっているという。

◆観光客を受け入れる体制を整えてほしい

「せめてバス停に並ぶ列を示す白線くらい描いてほしいですね。私は毎朝、娘を自転車で保育園に送っているのですが、スマホの地図を見ながら大きな荷物を持った観光客がフラフラ歩いていたり、急に立ち止まったりして当たりそうになるんです」

 Aさんは保育園のパパ友たちと「最後に市バス乗ったのいつ?」などと、冗談で話しているという。Aさんはこうした状況について「観光客のマナーを非難する気になれない」とも。

「以前、京都市長が『京都は観光都市ではございません』と言ってましたが、京都から観光客を取ったら何が残るんだと。お金をしっかり落としてくれるんだから、ええやないかって。変な建前論でエラそうにする前に、住民も観光客も快適に過ごせる交通環境などを整備したらどうかと思うんです。京都の混雑っぷりは、行政の怠慢でしかないと私は思いますよ」

 お金を落としてくれる人がいれば、経済は回る。しかし、観光客を受け入れる地域がキャパオーバーしてしまっては元も子もないだろう。インバウンドで好景気と浮かれるのもいいが、その先を見据えてこその「おもてなし」ではなかろうか。

取材・文/谷本ススム

【谷本ススム】
グルメ、カルチャー、ギャンブルまで、面白いと思ったらとことん突っ走って取材するフットワークの軽さが売り。業界紙、週刊誌を経て、気がつけば今に至る40代ライター

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