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「詐欺の被害金、全額回収」は誇大広告?現役弁護士に聞く、信頼できない弁護士の特徴

日刊SPA! 2024年3月9日 8時52分

 警察庁の集計によると、SNSを使った投資勧誘を装う「SNS型投資詐欺」と、恋愛感情を抱かせる「ロマンス詐欺」の被害は、2023年に計3846件あり、被害総額が約455億円だったことを、3月7日発表した。内訳は、SNS型投資詐欺が2271件(被害額約277億9000万円)、ロマンス詐欺が1575件(被害額約177億3000万円)で、1件あたりの被害額は、平均すると共に1000万円を超える。詐欺に遭ったとき、駆け込み先として真っ先に頭に浮かぶのは、権限や資格を持っている“警察”もしくは“弁護士”だという人も多いかもしれない。けれどもし、信頼して相談した相手が自分を騙そうとしていたら、どうだろう。
 本記事では、問題視されている“資格を持つ本物の弁護士による二次被害”とともに、詐欺や二次被害に遭わないための対策について、詐欺案件を専門に扱う大地総合法律事務所の代表・佐久間大地弁護士に話を聞いた。

◆本物の弁護士に騙されるケースが多発?

 詐欺被害者を救済したいとの想いから、通常は相談段階で発生する“相談料”や依頼段階で発生する“着手金”を一切もらわず、被害金額を回収できたときのみ“成功報酬”をもらって活動する弁護士がいる。それが今回、話を聞かせてくれた佐久間弁護士だ。

「どうして成功報酬のみしかもらわないのかというと、詐欺案件で騙されたお金を回収することは、非常に難しいからです。また、たとえ被害金を取り戻せたとしても、それまでに長い時間を要することも少なくありません。

詐欺被害に遭って手持ちのお金がほとんどないという人も多いですし、弁護士への相談というのは一般の方からするとまだまだハードルが高い。そのような状況で相談段階から費用が必要となると、諦めて泣き寝入りする人があふれてしまいます」

 佐久間氏と同じく被害者救済に力を注ぐ弁護士も多いなか、資格を持った本物が、弁護士の業務広告に関する規程(以下、広告規定)に違反するおそれのあるウェブ広告を掲載。着手金を支払うも“未着手のまま”といった悪質なケースもあるようだ。

◆散見される広告規定違反の悪質な具体例

 現在、東京弁護士会や大阪弁護士会、名古屋弁護士会などの公式ホームページで注意喚起されているのは、被害金の回収率が極めて低いとされている“国際ロマンス詐欺案件(以下、ロマンス詐欺)”を取り扱う弁護士業務広告に関して。記載された実例のなかには、驚くべきものも多い。

参考(東京弁護士会)、参考(愛知県弁護士会)、参考(大阪弁護士会)

「弁護士会というのは弁護士や弁護士法人を会員としている団体のことで、弁護士は必ずどこかに所属しています。私は“第一東京弁護士会”。東京には他に“東京弁護士会”と“第二東京弁護士会”もありますが、どこが上でどこが下など、違いはありません。

少し話は逸れますが、詐欺のなかには弁護士を語るニセモノに騙されるといったケースもあるでしょう。そういったニセモノを見破るときは、弁護士などの監督や指導などを業務とする“日本弁護士連合会(日弁連)”の公式ホームページで、弁護士名や登録番号を入力してみてください。ヒットしない場合はニセモノです。

資格を持たない者が弁護士の業務をおこなうことは、法律で禁止されています。弁護士にはそれぞれ登録番号というものがあるので、日弁連の公式ホームページに記載の番号と同じかどうかも確認してみてください」

参考(第一東京弁護士会)、参考(日本弁護士連合会)、参考(佐久間大地弁護士のページ)

 資格を持つ本物の弁護士が問題となっている今回のケースでは、弁護士が一人しかいないのに24時間365日相談対応と表示したり、「LINEで相談」と表示しているのに弁護士が一切内容を確認せず、事務職員のみで対応するケースもあるようだ。そのため、ロマンス詐欺に限らず、弁護士が出している広告全般に気をつける必要があるかもしれない。

「過去に取り扱ったことがないのに専門弁護士や国際ロマンス詐欺に特化した弁護士などと謳っていたり、過去に取り扱った詐欺事例として事実とは違う内容や架空の事例などを記載していたりといったケースも発覚しています。そしてこのようなケースでは、市民窓口に数々の相談が寄せられていて、懲戒手続きを受けた弁護士もいるのです」

◆現在の注意喚起は「ロマンス詐欺のみ」だが…

 先ほど紹介した広告規定違反の実例から、弁護士が出している広告全般に気をつける必要があると感じた人も多いのではないだろうか。けれど、現在はっきりと注意喚起されているのは、ロマンス詐欺案件を取り扱う広告についてのみとなっている。

参考:東京弁護士会「国際ロマンス詐欺案件を取り扱う弁護士業務広告の注意点」、参考:東京弁護士会「国際ロマンス詐欺案件を取り扱う弁護士業務広告の注意点2」

「これには理由があります。ロマンス詐欺案件は“まったく回収できない”もしくは、“回収できても少額”であると弁護士の間で十分に認識されている。にもかかわらず、“被害額600万円で500万円回収”や“被害額200万円全額回収”などと謳い、弁護士に依頼すれば高額な被害金額でも回収が確実だと誤解させる広告を出して着手金をもらうケースが散見されたことです」

とくにロマンス詐欺の場合、被害金が一千万円や二千万円というケースも多く、1億などと超高額になることもあるのだとか。そのため着手金のパーセンテージが2.8%などと低くても、被害金が一千万円だと28万円。二千万円だと56万円と高額になってしまう。

「それでも一般的に着手金は契約時に支払わなくてはいけないし、被害金がまったく回収できない場合でも返金されることはありません。そのため、回収の見込みがほぼないにもかかわらず着手金を受け取ったり、弁護士が依頼を未着手のまま放置してしまったりすれば、詐欺被害者は再び詐欺に遭うのと同じ状況に陥ってしまうのです」

しかし実際、「弁護士から事件処理の報告がない」、「事件処理の進捗や今後の見通しについて弁護士に説明を求めたのに対応がない」、「高額回収ができると説明されたのに着手金倒れになった」といった苦情が寄せられている。

「懲戒処分を受けた弁護士のなかには、『回収の可能性はゼロではないため着手金詐欺ではない』と考える人もいるかもしれません。ただ、これがまかり通るとなると、弁護士を信頼して依頼した詐欺被害者は、無駄なお金を支払って時間まで費やし、さらには心までも傷つけられることになります」

 過去に金融機関で勤めていた筆者は、借金の返済に困って弁護士に過払い請求や個人再生などの債務整理を弁護士に依頼したが放置されて身動きが取れないと困る顧客を何人もみてきた。こういったケースは、どうだろう。

「問題のある弁護士による二次被害という点で、いま問題視されているのはロマンス詐欺だけです。また、大半の弁護士は依頼者様の悩みを解決しようと真摯に取り組んでいることも付け加えておきます。ただなかには、着手金だけもらって意図的に未着手という事例もあるかもしれません」

◆ロマンス詐欺の回収率と口座を売ってはいけない理由

 ロマンス詐欺の回収率については、詐欺を専門に扱う佐久間弁護士でさえ「被害金を回収するのは、本当に難しい。ほぼ回収できないと思ったほうがいいでしょう」と繰り返すほど。ではどうして、詐欺案件のなかでもロマンス詐欺はとくに回収率が低いのだろうか。

「ロマンス詐欺の場合、基本的にフェイスブックのメッセンジャーやインスタグラムのDMといったSNSを通じてやり取りをするので、相手方がどこの誰だか分からない。相手方まで辿り着くことは、およそ無理です。そのため銀行から相手方に送金している場合は、相手方の銀行口座を凍結し、残高が残っていればそこから回収。また、名義人の情報を銀行に照会して手紙を送り、口座名義人に返金請求をすることもあります。

これは、2008年6月に施行された“振り込め詐欺救済法”によるもので、たとえその銀行口座の持ち主が詐欺に関係していなくても、口座の凍結や残金の回収、返金請求ができるようになりました。口座を売買した時点で、犯罪に加担しているとみなされるイメージです」

参考:政府広報オンライン「「振り込め詐欺救済法」に基づき、振り込んでしまったお金が返ってくる可能性があります。」

 そのため、「たとえお金に困っても、自分の銀行口座を売ってはいけない」と佐久間弁護士。もちろん犯罪であり逮捕されるケースもあるほか、自分の生活が改善されてきたときや相続したタイミングで返金請求を受けるケースも考えられるからだ。

「ただ、売買された口座を管理しているのは詐欺集団の可能性が高いため残高は残っていないことがほとんどですし、口座を売買しなければならないほどお金に困っている人が返金請求時に現金を持っているケースは少ない。つまり、被害金を回収するというのは非常に稀であり難しいことなのです。現金を手渡ししている場合は、口座の差し押さえなどもできないため、さらに回収が難しいことになります」

◆弁護士が詐欺まがいの広告を出す背景

 ではなぜ、回収率が低い詐欺まがいの広告を本物の弁護士が出してしまうのか。そのひとつに、「広報に疎く、集客のノウハウを持たない弁護士も多いです。年配ともなるとなおさらで、宣伝やPRは広告業者にお願いすることがほとんど」といった背景があるようだ。

「今回のケースだと弁護士が積極的に広告を出したというよりは、広告業者のほうから『最近、国際ロマンス詐欺が流行っているので集客できそうです。広告を出しませんか?』と誘われた形。そして言われるがまま広告を出してしまった結果、詐欺被害者を誤解させるような内容になったのではないかと考えています。ただ、本来は弁護士が最終チェックをおこない、責任をもって広告を出さなければならないため言い訳にすぎません」

 そして、「こういった弁護士が増えてしまうと、依頼する側のリスクもかなり大きくなってしまう」と佐久間弁護士は懸念する。2018年に発覚した“かんぽ生命”の不適切な契約問題を例に挙げ、次のように話してくれた。

「民営化されても郵便局を公的な企業だと思っている年配の方も多く、信頼を寄せている人も多かった。その厚い信用を利用して裏切ったという側面が、今回の弁護士による着手金詐欺と似通っていると思いますし、同じ弁護士として許せない部分です」

◆二次被害を回避して信頼できる弁護士に相談するには

 資格を持った本物の弁護士が相手ともなれば、信頼できるかどうかを見破るのは至難の業といっても過言ではない。弁護士による着手金詐欺などの二次被害に遭わないために、何かよい方法はないのだろうか。

「まず、弁護士に直接相談でき、疑問や不安に応えてくれるかということ。そして、相談した内容がどこまで進んでいるかをこまめに確認することも大切です。また、相談料や着手金が不要な弁護士に相談するというのもひとつの手段。相談料や着手金が不要なら、たとえ被害金を回収できなくても、さらなる出費を防げるというメリットがあります。もし、相談料や着手金が不要な弁護士に断られた場合は、回収率が極めて低いということです。」

 詐欺案件を専門に扱う佐久間弁護士も、相談料や着手金はもらっていない。すると、被害金を回収できない場合は成功報酬がもらえず、相談からすべての期間がタダ働きとなる。そのため、引き受ける案件は回収見込みがあるものを選定するため、一定の条件を敷いている。

「被害金を回収できたときにいただく成功報酬にも、相談料や着手金は上乗せしません。そのため、被害金を回収できるかどうかは死活問題。世間が注目する案件などにチャレンジすることもありますが、引き受ける案件は吟味します。それでも、回収率は約70%です」

 約70%と聞けば成功率は高いと感じるが、「吟味しての約70%は決して高くはないと思います」とのこと。また、「詐欺案件は解決までに時間がかかることも多いですが、まずは相談してほしい」と言う佐久間弁護士に、被害金の回収方法や返金率についても聞いてみた。

「詐欺といっても、アフィリエイトだったり、FXの投資自動売買ツール販売だったり、儲かるノウハウを販売するといった情報商材系だったりなど種類はさまざまです。具体的な内容としては、『最初は200万円かかるけど、2か月目以降には240万円ぐらいは稼げるようになる。なので、200万円返しても、手元に40万円残る。どんどん稼げるようになるから』と、絶対に儲かるというようなことを言われて騙されてしまう」

 消費者金融から200万円を借り入れして支払い、はじめた副業などが聞いていたより稼げない。それを相談すると「サポートが必要」などと言われ、どんどんお金をつぎ込んでしまうという典型的なケースも多いようだ。

「こういった相談案件は民法上の詐欺に該当する可能性もあるとは思いますが、まずは特定商取引法や消費者契約法など特別法という法律を使って返金請求をしていきます。その段階で80~90%ぐらい返金されることも少なくありません。そのため、内容をお聞きしてお断りさせていただくこともあるかもしれませんが、まずは諦めたり泣き寝入りしたりせず、相談してほしいです」

 資格を持つ本物の弁護士が詐欺被害者を再び苦しめてしまうといった事例が露呈し、不安に感じる人も多いかもしれない。それでも、法を扱うという立場を最大限に生かし、被害者救済に尽力する弁護士がほとんどであるということを祈るばかりだ。

【佐久間大地】
詐欺トラブルを専門とする、第一東京弁護士会所属の弁護士。被害者救済のため、詐欺案件に関しては相談料や着手金をもらわず解決のために活動しているほか、〈X〉や〈LINE〉、SNS(会員制交流サイト)でも相談を受け付けている。
公式ホームページ、
X(旧:Twitter):@daichilawyer
Instagram:@daichi_lawyer
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【山内良子】
フリーライター。ライフ系や節約、歴史や日本文化を中心に、取材や経営者向けの記事も執筆。おいしいものや楽しいこと、旅行が大好き! 金融会社での勤務経験や接客改善業務での経験を活かした記事も得意

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