1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 社会

〈著名人かたる偽SNS投資広告〉「詐欺師は私たちのように地獄に落ちてほしい」米メタ社の日本法人を集団提訴した被害者たちの苦悩「娘の高校入学金をだまし取られ、家族を泣かせてしまった…」

集英社オンライン / 2024年4月25日 21時28分

〈前澤氏やホリエモンも激怒〉SNSの偽広告で詐欺被害者がFacebook Japanを集団提訴「徐々に警戒心が薄れ…」被害者代表が語る投資詐欺の巧妙な手口〉から続く

実業家の前澤友作氏や堀江貴文氏などの名前をかたった偽SNS投資広告の被害に遭ったとして、4月25日午前、神戸市などに住む男女4人が、広告を掲載したFacebookを運営する米メタ社の日本法人「Facebook Japan合同会社」に約2300万円の損害賠償を求め、神戸地裁に提訴した。いったいどのような犯行の手口なのか。3人の被害者が集英社オンラインに被害の実態を詳細に語ってくれた。

「娘の高校の入学金がなくなってしまった」と訴えても、さらにお金を搾り取ろうとしてくる詐欺師とのLINEのやりとり

借金返済のため自宅を売却

昨年1年間の被害総額が約278億円に及ぶなど、いまや社会問題になっているSNS型投資詐欺(SNSを利用した非対面接触で金銭を騙し取る詐欺)。#1では、その背景と、今回訴訟を起こした被害者たちの代表となっているAさん(男性・42)が受けた被害について報じた。

提訴した被害者グループのひとり、61歳の佐々木陽子さん(仮名)は自らのケースをこう語る。

「昨年、ずっと勤めてきた公立学校の教師を定年退職しました。退職金で住宅ローンを一括返済すると、かなり目減りしてしまいまして……。『老後2000万円問題』と言われていますし、これでやっていけるだろうかと不安になっていました。
そんなとき、岸田首相が新しい資本主義について語っているのを聞き、投資の必要性を感じました。まだ、退職金が残っているうちに投資の勉強をしようと思ったんです」

そして見つけたのがFacebookに掲載されたKという投資家による投資セミナーの広告だった。2023年8月末のことだった。

「初心者向けの内容ということだったので、思わずクリックしてしまいました。すると、Kから『投資の勉強をしているLINEグループがあるから参加してみませんか』とLINEで連絡がきたのです。グループに入るとメンバーがすでに70人以上いて、投資情報を中心に、日常会話などを頻繁にやりとりしていました。また、毎日朝晩、株式指標など投資に関する情報も流れてくるようになりました」

佐々木さんはKについては知らなかったが、ネットで検索をかけるとプロフィールやYouTubeチャンネルもヒットしたので、すっかり安心してしまったという。

「株式の解説などを読んでも、本当に投資を勉強されてる方なんだなとの印象を持ちました。最初は情報を見るだけだったのですが、9月半ば、日本の株価が下落し始めたタイミングで(LINEグループのやりとりが)『分散投資を考えないといけない』という話にシフトしていきました。そして、『今、株式はよくないから、FXでやっていきましょう』という話になったのです」

そこからFXの取引指導が始まり、KからLINEで直接、佐々木さんに連絡がくるようになったという。

「『あなたは初心者なのでいろいろと教えてあげます』と、FXの口座開設や手続きについて教えてくれる、英金融持株会社の顧問をしているという人物を紹介されました。
私は、当然FX業者とお金のやり取りをするのだと思っていたのですが、『ここに振り込んでください』と送られてきたのは個人名の口座だったんです。ちょっと変だなとは思ったのですが、日本円をドルに変更しなければならないと説明されると『そういうこともあるのか』と信じてしまい、お金を振り込んでしまいました」

佐々木さんは、最初は少額の数万円から取引を始めた。そして、MT5(金融市場商品取引支援アプリ「MetaTrader5」)でKに指示されたように取引すると、必ず勝てたという。

「そうすると欲が出てきてしまいます。Kも『あなたは資金が少ないから、儲けも少ない。なので資金を増やせ。資金を増やすことが立派な投資家になるための条件だ』とものすごくあおってくるんです。
そして、LINEグループを見ると、『今日の取引で1000万円も儲かりました』といったスクショがたくさん流れてくる。今思えばみんなサクラだったのでしょうが、それを見て私もその気になってしまったんです」

試しに1000ドルを2度、出金してみると、紐づけした自分の銀行口座にしっかりとお金が振り込まれた。これがダメ押しとなり、佐々木さんはこの詐欺を完全に信じこみ、手持ちのお金をすべてつぎこんでしまった。

「すると今度は、(『もっと投資しろ』と)借金の方法まで指示してきたんです。そして、投資のために銀行のカードローンで500万円、家の担保ローンで1100万円、消費者金融から200万円とお金をつくり、手持ちのお金と含めて合計2000万円を振り込んでしまいました」

だが、投資は失敗し、残ったのは借金のみ。佐々木さんは自宅を売却して資金を得る代わりに、賃貸として引き続き元の家に住み続けるリースバックによって借金を返済することに。現在は仕事をしているため生活はできているが、将来への不安と子どもに家を残せなかった無念さを感じながら日々を暮らしている。

「訴訟したところで騙されたお金が返ってくるかどうかはわかりません。しかし、このような被害がこれ以上、広がってはいけない。社会正義のためにFacebook Japanと戦っていきたいと考えています」

「これだけ巧妙なら信じてしまう」

被害者として立ち上がったのは佐々木さんたちだけではない。現在、12人のSNS型投資詐欺被害者とともに、集団訴訟の準備をしているのは中部地方で夫と小学生の子ども2人と生活をする柳田さくらさん(仮名・39)だ。

「2024年から新NISAが始まるとの広告を目にしていて、周囲とも『新NISA、気になるよね』という話をよくしていました。だから7月くらいに株の本を購入して、ネットでも調べるようになりました。老後2000万円問題もあるし、子どももこれからますますお金かかってくるし、家のローンもありますし……」

昨年8月5日、柳田さんはFacebookで前澤氏の広告を見て、「前澤友作さんだし、安心できるかなと思ってしまいました。まさか写真が勝手に使われている偽物だとは思いもしなかった」とクリックし、S金融塾に登録した。

「最初はグループに入ってもただ見ているだけでした。そこでSのアシスタントだという人物が『Sを名乗って詐欺をしている人がいるので気をつけてください。私たちは詐欺ではないので信頼してください』と頻繁にアナウンスしていたので、ここは大丈夫なんだと安心していました」

そして、いきなり100万円を指定された口座に振り込んだ。

「でも、アシスタントから『今の情勢から、金額が多いほうが利率が高いから増やした方がいいですよ』と何度も連絡があって。利益も出ていたので安心して合計850万円を振り込んでしまいました。結婚して、子どもが生まれて、将来のことを本気で考えるようになってから、コツコツがんばって貯めてきた貯金すべてです」

それは柳田さんが週5日、朝8時半から夕方5時半まで介護士として10年間働いて貯めてきたお金だった。

それが、12月に入って「17日までに運営費を支払わないと今後の出金ができなくなる」と言われてしまう。柳田さんは、悩んだ挙句、銀行のカードローンを申し込んで350万円を借り受けて入金。すると今度は「25日には税金を払わないと出金できなくなる」との連絡が。

「もうお金がないからどうやって借りられるかネットで調べてたところ、ふと詐欺という単語が出てきたんです。そのページには私のケースとそっくりな事例が紹介されていました。弁護士の無料相談に連絡をとってみたところ、『それは詐欺です』と言われました。

そこで初めて『え? 私、詐欺にあったの?』と気づいたんです。第三者に言われるまで全然わからなかったです。なんでこんなのに騙されるんだ……と。私はふだんはどちらかというとしっかりしているほうで、オレオレ詐欺なんかに絶対に引っかからないと思っていたんですけど……すごく巧妙でした」

柳田さんは今も被害に遭ったことを家族に打ち明けられず、辛い思いを抱えたまま日常生活を送っている。同じ被害に遭った仲間が集うLINEグループだけが、その気持ちを吐きだせる唯一の場所だ。

「罪悪感があってめちゃめちゃ辛いです。打ち明けたら家族が崩壊すると思って、誰にも相談できなくて……」

そう言うと、涙を流して嗚咽をもらした。

「せっかく子どものためと思って貯めてきたお金が、子どもに1円も使えないまま全部なくなってしまったのが本当に悲しくて……。詐欺だとわかってから、子どもの顔を見ると本当に辛くて、毎日泣いていました。
家族のため、子どものためと思って、ちょっと勉強したかっただけなのに、子どもたちを裏切ることになってしまった。本当に悲しいです」

奪われたお金のうち一部でも返ってくればと、柳田さんは訴訟をする準備を進めている。

「これだけ巧妙であれば(誰でも)信じてしまうと思います。メタ社は許せないですね。広告を載せるならもっと精査してほしい。国もNISAとかこれだけ投資を勧めているのに、安全対策が不十分だったわけじゃないですか。その責任は重いと思います」

貯金を奪われただけでなく借金も背負っている現在、再び子どものために貯金をする余裕はない。それでも子どもの成長は待ってくれない。今後への不安は募るばかりだ。

娘の入学金が支払えなくなり公立へ変更

柳田さんらが進める集団訴訟の被害者グループで代表を務めているのは45歳、エンジニアの堀井裕太さん(仮名)だ。堀井さんは1400万円をこのSNS型投資詐欺によって奪われた。そのうち900万円は銀行3社から無担保のカードローンで融資を受けたものだ。

「これらの借金の返済額は月に約10万円もあるんです。寝るまで頭の中ではお金のことを考えていて、毎日ぐったりしてしまいます。もし、目の前に犯人がいたら刺してやりたいくらい精神的に苦痛です」

堀井さんには今春、高校入学した子どもと小学生の子どもがいる。今回、詐欺の被害に遭ったとわかったとき、真っ先に家族に謝ったという。

「上の子どもが第一志望の私立校への進学がすでに決まっていましたが、今回の被害で生活に一切余裕がなくなってしまった。高校の入学金や学費も支払うことができなくなってしまったので、娘の部屋ですべて話して理解してもらって、公立に変更してもらったんです。家族を泣かせてしまい……精神的にすごく辛いです」

堀井さんも、ただ投資の勉強をしようと思ってFacebookの広告をクリックし、佐々木さんや柳田さん同様、LINEグループへと招待されたという。 

資金の振込先として指定されたのがベトナム人の個人口座だったり、関係のない法人口座だったりと、今思えば不自然な点はあった。それでも当時は「理由を説明されると素直に信じてしまう精神状態になっていた」という。そんな堀井さんが犯人に望むことは何なのか。

「まずお金を返してほしい。そして罪を償ってほしいです。何人もの被害者の人生をグチャグチャにしているのですから、同じ痛みを味わってもらいたい。被害者の中には『天国から地獄に落ちた』と話す人がいますから、詐欺師も地獄に落ちてほしい。
でも、法律やプラットフォームがいい加減で詐欺を取り締まれない面もあるわけです。詐欺を働ける環境をつくり続けたプラットフォームにも責任を取ってもらいたいですね」

基本的には虚偽広告について、掲載したプラットフォーマー(広告媒体)に責任を追及することはできないとされている。4月25日午後、SNS型投資詐欺に遭い神戸地裁に集団訴訟を起こした被害者4人の代理人弁護士らは記者会見を開き、「虚偽広告の掲載によって利用者に不測の損害を及ぼすことを予見し、内容の真実性を調査確認する義務があったにもかかわらずそれを怠り、広告料収入を得た」と主張した。

裁判の行方はSNS社会の一大関心ごととなっている。 

※「集英社オンライン」では、SNS型投資詐欺のトラブルについて、情報を募集しています。下記のメールアドレスかX(Twitter)まで情報をお寄せ下さい。
メールアドレス:
shueisha.online.news@gmail.com

X(Twitter)
@shuon_news  

ニセ広告被害弁護団
メールアドレス:hori@taiheiyolaw.com
被害者相談窓口:https://taiheiyolaw.com/contact-ad-fraud/

取材・文/中山美里
集英社オンライン編集部ニュース班

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください