焦点:ハリス氏登場で慌てるトランプ氏陣営、戦略練り直しも難航
ロイター / 2024年8月9日 17時3分
8月8日、ほんの2週間余り前、トランプ前米大統領の陣営は11月の大統領選での地滑り的勝利を見据え、民主党寄りの州まで勝ち取るための壮大な戦略を描いていた。写真は7月、全米黒人ジャーナリスト協会のイベントに登壇したトランプ氏(2024ね ロイター/Vincent Alban)
Gram Slattery Alexandra Ulmer Nathan Layne
[ワシントン 8日 ロイター] - ほんの2週間余り前、トランプ前米大統領の陣営は11月の大統領選での地滑り的勝利を見据え、民主党寄りの州まで勝ち取るための壮大な戦略を描いていた。ところが民主党のバイデン大統領が選挙戦から撤退してハリス副大統領が候補に急浮上して以来、共和党側はかつて楽勝を見込んでいた州を死守することに照準を定めざるを得なくなっている。
トランプ大統領の参謀らは一時、ミネソタ州やバージニア州のような民主党寄りの州も狙えると見込んでいた。それが今、勝利への道はペンシルベニア州やジョージア州など伝統的な激戦州を抑える「ナローパス(狭い道)」へと変わった。
トランプ氏の長年の顧問であるコーリー・ルワンドウスキー氏はロイターに対し「戦況は変化した」と認める。「われわれの多くはバイデン氏を相手に積極攻勢をかけたいと望んでいた。非常に良い手応えを感じていた」
トランプ氏とその支持者らは表向き、ハリス氏を現実離れしたリベラルに仕立て上げ、移民やインフレに関するバイデン氏の不人気政策と結びつけようと精力的に動いている。相手がバイデン氏であれハリス氏であれ、ほとんど変わりはないとの立場だ。
しかし情報筋9人がロイターに語ったところによると、トランプ氏陣営の内部では、ハリス氏はバイデン氏よりもはるかに手強い相手だと認識されている。バイデン氏は認知機能の衰えが疑われ、支持率が低下していた。
トランプ氏陣営の1人は、勝負の舞台が「縮小したというほどではない」としながらも、「ニュージャージー州のような場所について話す理由はなくなった」と語り、民主党が非常に強い州はあきらめざるを得ないとの本音を明かした。
ロイターはトランプ氏陣営のスタッフ、アドバイザー、献金者、合わせて12人に取材。バイデン氏よりも若くダイナミックなハリス氏が対抗馬になったことで、陣営が戦略の練り直しを迫られている実態が浮かび上がった。
ハリス氏の登場で民主党側は活気付き、数日で数億ドルの献金が集まるほどの勢いを見せている。
トランプ氏の上級顧問の1人は「彼女が勝つ可能性があるのはだれの目にも明らかだ」と話した。
トランプ氏陣営に取材すると、ハリス氏が民主党候補になってからも戦略は変わっていないと答える。共和党のアナ・ケリー報道官は「チーム・トランプはすべての激戦州で広告を打ち、ミネソタやバージニアなど伝統的な『青い州』(民主党寄りの州)にも戦いの舞台を拡大し、現地にスタッフを配置している」と述べた。
ロイターが取材したトランプ氏側の情報筋は、3つの問題点を指摘している。(1)ハリス氏の弱点を攻撃する広告展開の遅れ(2)バンス氏を副大統領候補に選んだことに対する一部の共和党指導者や献金者からの疑念(3)トランプ氏がハリス氏を個人攻撃し、同氏の政策的立ち位置に狙いを定めようとする参謀らの努力を台無しにしていること――だ。
<5月のメモ>
トランプ氏陣営は5月末の時点で、ハリス氏もしくは他の民主党議員がバイデン氏に代わって大統領候補になる可能性を視野に入れ、シナリオを錬り始めていた。
ロイターが確認した12ページのメモには、大統領候補の交代に関する民主党のルールと、バイデン氏の自発的辞退や「内乱」を含むシナリオがまとめられている。ハリス氏が候補になった場合の対応については詳しい記述がない。
トランプ氏陣営の世論調査担当者、トニー・ファブリツィオ氏は先月報道陣に公開した書面で、ハリス氏の支持率は短期的には高まるが、その後戦況は落ち着くと予測。ハリス氏の 「蜜月」は終わり、有権者の注目はバイデン氏と共に働いてきた副大統領としての役割に戻るとの見方を示した。
バイデン氏の選挙戦撤退に先立ち、トランプ氏を支持する特別政治活動委員会(スーパーPAC)「米国を再び偉大に(MAGA)」は、バイデン氏の衰えをハリス氏が隠してきたと非難するテレビ広告を準備した。この広告は、バイデン氏が撤退を発表した7月21日に4つの激戦州で放映され始めた。
同時に陣営は、トランプ氏がバンス氏を伴走者に選んだことで守勢に立たされた。バンス氏を巡っては、ハリス氏を含む一部の民主党議員を「子どものいない猫好きおばさん」と呼んだ過去の発言を巡り、否定的な報道が相次いだ。
共和党全国委員会と選挙陣営には、バンス氏が選挙戦で足を引っ張るのではないかと懸念する一部献金者からの問い合わせへの対応に追われている。情報筋2人が明らかにした。
<トランプ氏による個人攻撃>
そしてトランプ氏はと言えば、ハリス氏の政策的立場に焦点を当てるのではなく、同氏を個人的に侮辱する罵詈雑言(ばりぞうごん)を展開。そうした「口撃」はハリス氏よりもむしろトランプ氏への反感につながっている。
先週の全米黒人ジャーナリスト協会のイベントでトランプ氏は、母親がインド生まれで父親がジャマイカ生まれのハリス氏について、本当に黒人なのかと問いかけた。情報筋らによると、献金者や側近らは困惑し、警戒したという。
その3日後、トランプ氏は激戦州ジョージアで人気の高いブライアン・ケンプ知事を集会で攻撃。有権者の支持を獲得するために力を借りる必要のある知事を敵に回してしまった可能性がある。
トランプ氏はまた、自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」上で、理解に苦しむ投稿を重ねている。6日には、バイデン氏が民主党の大統領候補に復帰するのではないかとからかった。
世論調査でトランプ氏がバイデン氏へのリードを広げていた春から初夏にかけて、トランプ氏はミネソタ、バージニア、さらにはニューヨークなど、民主党が盤石と見なされた州でもイベントを繰り広げていた。
しかし3日は基本に戻り、ハリス氏と支持率が拮抗するジョージア州で選挙運動を行った。同州の世論調査担当者で、どちらの陣営にも属していないマーク・ラウントリー氏は「この州は接戦になるだろう。一部黒人有権者からの支持のおかげで、トランプ氏がまだわずかに優位だが」と語った。
選挙広告費を調査するアドインパクト社によると、激戦州ではトランプ氏が広告費支出で負けている。同社のデータでは、7月22日以降、ハリス氏側の支出は1億1200万ドル、トランプ氏側は7010万ドルだ。勝敗の鍵を握るとみられるペンシルベニア州では両陣営の支出が拮抗している。
ハリス氏が登場するまでは共和党が安泰と見られていたノースカロライナ州で、トランプ氏陣営が新たに多額の広告費を投入したことが、おそらく最も多くを物語っている。
トランプ氏陣営の資金調達に携わるジャスティン・セイフィー氏は「ハリス氏がノースカロライナ州をあきらめることを期待して、彼らは資金を投入している」と語った。だがハリス氏陣営は、すでに同州で動き出している。
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