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焦点:USスチール買収に政治の洗礼、8月に届いていた予兆

ロイター / 2024年9月10日 15時23分

米鉄鋼大手USスチールの買収計画をバイデン政権が阻止する可能性が表面化する約1カ月前の8月1日、日本製鉄は事態が悪い方向に進んでいることを強く示唆する知らせを受けていた。写真は2019年3月、都内で撮影(2024年 ロイター/Yuka Obayashi)

[ワシントン/東京 10日 ロイター] - 米鉄鋼大手USスチールの買収計画をバイデン政権が阻止する可能性が表面化する約1カ月前の8月1日、日本製鉄は事態が悪い方向に進んでいることを強く示唆する知らせを受けていた。

交渉に詳しい関係者2人によると、米国への投資を審査する対米外国投資委員会(CFIUS)が日鉄とUSスチールに対し、潜在的な国家安全保障上のリスクを特定したと伝えていた。CFIUSの当局者は両社幹部との電話協議で、買収で米国の鉄鋼生産能力が低下し、輸送やインフラなどの重要産業に混乱が生じるリスクを挙げたという。

安保上の懸念を理由に買収を阻止する権限があるCFIUSからの連絡は、日鉄にとって警鐘となったはずだった。もともとこの買収計画に対しては、11月5日の大統領選挙を前に労働組合や政治家が反対を訴えてきた。

しかし、やり取りを知る関係者2人や日鉄関係者らによると、同社は経済上の利点を根気強く説明することで、承認を得ることはなお可能と考えていた。8月19日、電話でのやり取りを補完するため米財務省で協議が持たれ、両社幹部はUSスチールの業績不振を踏まえると日鉄による投資の重要性が高いことをCFIUSに対して強調した。幹部らは主張が聞き入れられたと感じたという。

8月28日にロイターのインタビューに応じた日鉄の森高弘副会長は、計画通りの買収に自信を示した。労働組合と建設的な長期的関係を築く意向だとし、昨年12月の買収発表以降、計5回の訪米で1000人程度と面会、労働者らにも接触して買収の経済的利益について説明したと語った。労組の政治的影響力は徐々に、とりわけ選挙が終われば弱まるとの見方を示し、CFIUSやその他の規制当局との交渉が進展しているとした。

しかし、CFIUSは8月31日、17ページの書簡を両社に送った。買収計画を巡る懸念を詳細に列挙し、9月4日までに回答するよう求めた。

USスチール、日鉄、CFIUSとも、ロイターが取材で明らかにしたやり取りの過程にコメントしなかった。日鉄は、買収が国家安全保障上の懸念を引き起こすことはないとした。USスチールは、日鉄抜きで必要な投資を行える「シナリオはない」とした。

<USスチール本拠は大統領選の激戦州>

USスチールが本社を置くペンシルベニア州は大統領選の勝敗を左右する激戦州だ。日鉄は昨年12月の買収発表前、政治的影響力を持つ全米鉄鋼労働組合(USW)に接触を試みた。

USスチールが1月に開示した文書によると、日鉄は昨年11月20日にUSWとの面会を要請した。しかし、USスチールの弁護士は応じなかった。労組が別の買い手候補と連携しており、日鉄との協議に応じれば競争的選定手続きの機密性が守られなくなる可能性があるとの理由だった。

日鉄が昨年12月18日にUSスチール買収を発表した際、USWのデビッド・マッコール会長は両社が労組に情報を伝えていなかったと反発。同日に声明を出し、USスチールが従業員の懸念を無視して外国企業に身売りを決めたと批判した。この買収が労働者や国家安全保障上の利益のためになるかを精査するよう米政府に求めた。

それから3日後、ホワイトハウスのブレイナード国家経済会議(NEC)委員長は、買収は「真剣な精査」に値するとの声明を発表した。

英大手法律事務所アレン・アンド・オーヴェリーのパートナーで、M&A(合併・買収)案件を担当するパートナー、ニック・ウォール氏は、「今になって考えると(日鉄)は労組の支持を取り付けておく必要があったが、労組、とくにトップがあれほど憤慨するとは思っていなかっただろう」と語る。

日鉄のUSスチール買収を巡っては、バイデン大統領も大統領選の共和党候補トランプ前大統領も反対している。

岸田文雄首相が4月にバイデン大統領と会談するためワシントンを訪れた際、両国の間で買収問題は扱いにくいテーマとなっていた。マッコール会長は夫人を伴って晩餐会に出席し、アマゾンのジェフ・ベゾス最高経営責任者(CEO)や俳優のロバート・デ・ニーロらとともにポール・サイモンの生歌を楽しんだ。一方、USスチール、日鉄の幹部は200人以上の招待者リストには含まれていなかった。

<CFIUSが口閉ざす>

政治的な雑音がさらに増しても、日鉄はまだ道が開けており、労組はより良い条件を引き出そうとしているだけだと信じていたと、関係者は2人は語った。

しかし、その想定は8月31日にCFIUSから書簡が届いたことで崩れた。やり取りを知る関係者2人によると、CFIUSは買収がリスクを伴うと書簡で伝達。どうすれば当局者の懸念を和らげることができるかといった説明はなく、9月4日までに回答するよう求めていた。

買収に関わる弁護士が9月1日、回答期限が短い理由をCFIUSに電話で尋ねると、「われわれはただ聞くことだけに徹するよう指示されている」と答えた。同関係者らによると、バイデン政権が買収阻止の可能性を内々に両社に伝えていたことから、不吉な兆候だった。

両社は回答書の作成に取り掛かり、事実として誤っていると考えた点を訂正し、当局の懸念を和らげる措置を提案する内容の100ページに及ぶ文書を3日に提出した。ロイターが閲覧した同文書には、USWが両社との協議でより「前向き」になることを期待していると記されている。

しかし翌4日、バイデン政権が買収阻止の方針を近く発表すると複数のメディアが報じた。

米通商代表部(USTR)の元高官で、米調査会社ユーラシア・グループのデビッド・ボーリング氏は「企業が政治を読み切れなかった教科書的な事例といずれみなされるときが来るかもしれない」と話す。 

(Alexandra Alper、Trevor Hunnicutt、John Geddie、Katya Golubkova、David Dolan、Yuka Obayashi、Kaori Kaneko、Daniel Leussink 編集:Lisa Jucca)

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