アングル:イスラエル・ハマス紛争、氾濫する偽情報で世論歪む恐れ
ロイター / 2023年10月18日 17時45分
10月13日、パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスがイスラエルに大規模攻撃を仕掛けて以来、ネット上ではデマや誤解を招く情報が氾濫している。写真はガザのハン・ユニスの破壊された住宅のそばを飛ぶハト。11日撮影(2023年 ロイター/Ibraheem Abu Mustafa)
Inna Lazareva Adam Smith Avi Asher -Schapiro
[13日 トムソン・ロイター財団」 - パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスがイスラエルに大規模攻撃を仕掛けて以来、ネット上ではデマや誤解を招く情報が氾濫している。専門家らは、こうした状況が国際世論をゆがめ、現地の混迷を深め、報復の呼びかけを高めていると指摘する。
イスラエルは攻撃を受けた後、報復措置としてパレスチナ自治区ガザへの大規模な攻撃を行い、18万人が住居を失い、230万人が電力と水の供給を絶たれている。
人権団体や研究者らは、世論操作のために誤った情報を付した画像や改変された文書など、誤解を招いたり、根拠のない主張をシェアしないよう、ソーシャルメディアの利用者に対して警告している。
ティエリー・ブルトン欧州委員(産業政策担当)は今週、ソーシャルメディア産業のリーダーであるイーロン・マスク、マーク・ザッカーバーグ両氏に対し、オンラインのコンテンツに関する欧州連合(EU)の新ルールを遵守し、それぞれが経営するサービスであるX(旧ツイッター)とフェイスブック、インスタグラムにおけるデマの拡散に対処するよう要請した。
紛争勃発後のデマについて、またその拡散の状況について知っておくべきことを整理する。
<どのような偽情報が拡散しているか>
ニュースの信ぴょう性評価とデマ追跡を行うサイト「ニュースガード」の編集者ジャック・ブルースター氏は、ソーシャルメディアで拡散しているデマには主として4つのタイプがあると指摘する。
ブルースター氏が確認した主要なデマは次のようなものだ。
・イスラエルに対する攻撃は「偽旗作戦」であり、敵方を非難する口実を作るために実行された作戦である。
・ハマスに殺害された子どもと称する映像はイスラエル側による演出である。
・米政権はイスラエルに対する80億ドルの支援パッケージを承認した。
・ウクライナがハマスに武器を横流ししている。
「7amleh」として知られる非営利組織アラブ・センター・フォー・ソーシャルメディア・アドバンスメントでも、ガザで人質になっているイスラエル人の赤ちゃんや性暴力に関するいくつかの不正確な情報を追跡している。
中東地域で暮らす家族にとって、デマは個人的な苦痛をもたらしかねない。
9日、Xに投稿されたある動画は、ガザとの境界に近い「ニル・オズ」と呼ばれるキブツ(農業共同体)の自宅から7日に拉致されたヤファ・アダルさん(85)が救出された際の映像とされていた。
映像には、高齢の女性が兵士らに取り囲まれている様子が映っている。女性は黒いバンから降りて座り、兵士から水の入ったボトルを受け取っている。
この動画はネット上で広く拡散したが、家族が確認したところ、この女性はアダルさんではないという。
孫のアドバ・アダルさんはトムソン・ロイター財団が運営するニュースサイト「コンテクスト」の取材に対し、「(動画を見て)本当にがっかりした。祖母が戻ってきたのではないかと思ったのに、実際には別人だった」と語った。
<デマを加速させる要因は>
ブルースター氏によれば、ソーシャルメディア上では、ロシアによるウクライナ侵攻の初期段階に出回ったフェイクニュースと同じように、暴力に関するデマや誤報が広がっているという。
テクノロジー及びメディアの専門家らによれば、ソーシャルメディア空間において最も顕著な変化は、X(旧ツイッター)を利用したデマ拡散の手法だという。
「ビデオゲームの映像を現実のものとして流すユーザーもいれば、まったく別の事件や戦争の映像をシェアするユーザーもいる」とブルースター氏は言う。
一方、TikTokなどその他のソーシャルメディアは、前後の文脈を欠いた動画をシェアするのに利用されている。
ニュースガードが注目するのは、イスラエル高官がハマスに拘束されたと称する動画、そしてハマス戦闘員がパラグライダーでイスラエルに侵入する様子という動画だ。実際には、前者はアゼルバイジャンの治安部隊が男性らを拘束している動画、後者はエジプトで撮影されたものだった。
これらの動画は数十万回も再生された後、ようやく削除された。
TikTokはコンテクストの取材に対し、コメントを控えるとした。
Xはコンテクストに対し、リンダ・ヤッカリーノ最高経営責任者(CEO)による声明を示した。声明では、「今回のような急速に変化する状況に対応すべく(略)社内リソースを再配分し、複数の社内チームの力を結集している」と記されている。
旧ツイッターで公共政策担当スタッフとしてコンテンツモデレーション(投稿の適正管理)を担当していたセオドラ・スケアダス氏は、改ざんを伴う投稿や誤解につながる動画・画像の氾濫に対処するXの能力は、人員削減によって大幅に低下したと指摘する。
「かつてのツイッターであれば、信頼できる情報を優先的に表示し、デマや利用条件違反のコンテンツを削除し、ある種の投稿に対しては背景情報を追加するためのラベルを付していたはずだ」とスケアダス氏は語る。
<ソーシャルメディアによる対処は>
Xでは、今回の紛争に関しては、誤解を招く可能性のあるコンテンツに対してユーザーが背景情報を付加できる機能「コミュニティーノート」が500件以上投稿されているとしている。
だがスケアダス氏は「危機の進行中には、コミュニティーノートでは投稿量に追いつけない」と言う。
ユーチューブは、ニュース価値が十分にあれば生々しいコンテンツを同サイトに投稿することは可能だが、利用ルールに反する動画については規制していると述べている。
写真・動画共有アプリ「スナップチャット」を運営するスナップは、デマや暴力扇動については監視を続けているとしている。
インスタグラムとフェイスブックを傘下に抱えるメタは、ヘブライ語・アラビア語を母語とする者を含めた専門家によるチームが、「リアルタイムで急速に変化する状況」を監視している、と述べている。
<現実世界への影響は>
「7amleh」でエグゼクティブディレクターを務めるナディム・ナシフ氏はコンテクストの取材に対し、虚偽の言説の主な狙いは、世論を操作し集団的処罰を正当化することだと述べた。
「こうした現象は情報へのアクセスにかなりの影響を与えており、パレスチナ側の言説が検閲され、あるいはオンラインへの投稿が不可能な状況に鑑みて、非常に懸念されるところだ」
ナシフ氏は、この状況はさらなる暴力への呼びかけと実際の危害につながる可能性があるばかりか、人権侵害が闇に葬られ、司法の働きが阻害されてしまうと指摘する。
祖母が依然として行方不明となっているアダルさんは、偽情報のせいで家族が支援を求めにくくなるのではないかと心配している。
「ここの現状を世界が理解してくれることを切に願っている。こういったことが起きると、実際には酷い状況でも、好転していると思われてしまう」
(翻訳:エァクレーレン)
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