日本の順位なぜ下がる 「報道の自由度ランキング」が蒸し返す「フクシマ・ウォーター」「放射能処理水」
J-CASTニュース / 2024年5月5日 13時30分
「報道の自由度ランキング」の日本のページ。23年よりも2つ低い70位だった。日本に関する説明は23年とほとんど同じだった
国際NGO「国境なき記者団」(RSF、本部・パリ)は2024年5月3日(現地時間)、恒例の「報道の自由度ランキング」24年版を発表した。
日本の順位は23年より2つ低い70位で、先進7か国(G7)では最下位だった。ただ、日本に関する説明はほとんど変わっておらず、何が悪化したのかは読み取りにくい。数少ない変化が、東京電力福島第1原発で出た処理水の海洋放出や、能登半島地震をめぐる対応に関する記述が加わった点だ。
前者については、「フクシマ・ウォーター(Fukushima water)の呼び名として『放射能処理水』(treated radioactive water)という用語を使ったりする」ジャーナリストに対してSNSで「嫌がらせ」が行われている、とした。「フクシマ・ウォーター」は福島県が「本県への風評、さらには差別を助長するおそれがある表現」として批判している表現だ。ランキングの説明では「フクシマ・ウォーター」「放射能処理水」といった表現を使うことが「報道の自由」に資すると読み取られかねず、風評被害の払拭を試みる被災地との温度差が浮き彫りになっている。
ノルウェー、デンマーク、スウェーデンの北欧諸国がトップ3独占
RSFでは、専門家へのアンケートなどを通じて、180か国・地域の状況を「政治」「経済」「法律」「社会文化」「安全」の5つの観点から100点満点で評価。5つの平均値をランキング化している。
24年のトップ3は、ノルウェー、デンマーク、スウェーデンと北欧が独占した。アジア太平洋地域では、ニュージーランド(19位)、東ティモール(20位)、サモア(22位)、台湾(27位)、オーストラリア(39位)、フィジー(44位)、トンガ(45位)、韓国(62位)などが比較的上位にランクイン。日本は、これらの国々よりも低い70位だった。
日本に関する説明は23年とほとんど変わらず、「安全」の項目の説明が若干変更された程度だ。
24年版では、総論で、
「日本は議会制民主主義国家であり、メディアの自由と多元主義の原則は総じて尊重されている。しかし、伝統的な利害関係やビジネス上の利害関係、政治的圧力、男女間の不平等によって、ジャーナリストが監視者としての役割を完全に果たすことがしばしばできなくなっている」
と指摘した上で、記者クラブ、特定秘密保護法、キー局と新聞社が互いの株を持ち合う「クロスオーナーシップ」の問題などを列挙している。
「フクシマ・ウォーター」福島県知事も「風評、差別助長」と問題視
では、比較的変化があった「安全」の項目はどうか。23年版は、
「SNSでは、国粋主義者の集団が、政府を批判したり『非愛国的』なテーマを取り上げたりするジャーナリストに対して日常的に嫌がらせを行っている」
と説明。「『非愛国的』なテーマ」として「福島原発事故による健康問題」が例示された。さらに、別件として22年12月に日本外国特派員協会に爆破と記者の殺害を予告する電話があったことにも言及した。
これに対して24年版では特派員協会への殺害予告が削除され、「『非愛国的』なテーマ」の説明が次のように変化した。
「能登半島地震への対応の遅さを議論したり、フクシマ・ウォーター(Fukushima water)の呼び名として『放射能処理水』(treated radioactive water)という用語を使ったりすること」
この「フクシマ・ウォーター」の表現はたびたび英字メディアに登場し、風評被害を拡大しかねないとして被災地で問題視されている。福島県議会では23年12月21日の企画環境委員会で、県の風評・風化戦略担当理事兼原子力損害対策担当理事を務める岸孝志氏が、
「本県への風評、さらには差別を助長するおそれがある表現」
「本県の復興は道半ばであり、風評払拭に向けて県民が一丸となって地道に頑張ってきた努力を踏みにじる行為であると受け止めており、誠に遺憾」
などと答弁。今後の方針を「県としての対応を様々な観点から検討していきたい」としていた。
12月25日の内堀雅雄知事の定例会見では、この「県としての対応」の内容に関する質問が出た。内堀氏は「対応」の内容は明らかにしなかったが、県議会の答弁と同様に、「フクシマ・ウォーター」の表現を批判している。
「アルプス処理水の海洋放出に伴う海外向けの報道において、一部の報道機関から福島県に対する風評や差別を助長する恐れのある表現がなされたことは誠に遺憾。今後海外に対する風評払拭や輸入規制撤廃に取り組む国、関係機関とも緊密に連携を図りながら様々な観点から、どういった手法が適切か対応を検討していく」
(J-CASTニュース編集委員 兼 副編集長 工藤博司)
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