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JICA職員「内々ですが仕様書を送ります」…入札不調回避狙い?「官製談合のよう」なODA情報漏えい疑惑

読売新聞 / 2024年10月14日 15時0分

 フィリピンの都市鉄道を改修する政府開発援助(ODA)の事業に関し、国際協力機構(JICA)の担当職員が業務の見積額などを漏えいしていた疑惑が明らかになった。関係者の証言や資料からは、職員が日本企業側と頻繁にメールで連絡を取り合い、秘密情報を伝えていた実態が浮かんだ。(柏原諒輪)

頻繁に連絡

 「内々ですが、TOR(業務仕様書)をお送りいたします。申し訳ありませんが、本来的には公平性の観点からお渡しすべきものではありません」

 JICA職員は2018年5月、東京都内の建設コンサルティング会社の担当者にこんなメールを送り、英語で記された業務仕様書を添付していた。

 仕様書は、円借款(有償資金協力)で実施されたフィリピン・マニラ首都圏の都市鉄道「MRT3号線」改修事業のうち、施工監理業務の入札に関するもの。フィリピン運輸省側が作成したとされ、業務の目的やスケジュール、要員計画などが含まれていた。コンサル会社の担当者は「比運輸省も含めて誰にもこのTORのことは言いません」と“口止め”を約束した。

 JICAによると、ODA事業では通常、企業は相手国政府側がホームページなどで出す公告を確認し、参画を検討する。入札に関してJICAが企業と連絡を取り合うことはないという。

 ところが問題の業務を巡っては、JICA職員が複数の日本企業と頻繁にメールで連絡を取り合っていた。職員はコンサル会社の担当者に対し、「○○(比政府が入札案内を出していた別の日本企業)から回答がありませんが、本日のテレビ会議は決行させていただければと思います」とも送信していた。

「手続き有利に」

 別のメールでは、業務の見積額が記載された資料が添付されていた。見積額は、JICAが現地調査などを通じて算出したもので、年ごとにいくら費用がかかるのかが記載されていた。

 関係者などによると、途上国に対する円借款では、JICAの見積額を基に相手国政府が事業の概要を決めることが多く、この業務でも、比政府は同様の形で入札予定価格などを設定していたとされる。

 MRT3号線は元々、韓国などの合弁企業が保守業務にあたっていたが、故障や脱線などが相次ぎ、比政府は日本側に参入を働きかけていた。鉄道産業の輸出拡大を目指す日本側も重視し、JICAには入札不調で事業が進まない事態を避ける必要があったという。こうした中、職員にはコンサル会社を受注業者として囲い込み、入札への参加案内を受けた他社より優遇する狙いもあったとみられる。

 コンサル会社の関係者は、「業務の発注を実質的に担っていたのはJICAで、見積額を含めた情報を受け取ることで、他社より有利に手続きを進められた」と明かし、「担当職員からの情報伝達は『官製談合』のようにも感じていた」と振り返った。

世界3位

 日本のODAは1954年に始まり、今年で70年となった。円借款、2国間無償協力、技術協力などからなり、当初予算は97年度の1兆1687億円をピークに減少し、2011年度以降は5000億円台で横ばいが続いている。

 近年の実績では、途上国に対する円借款での鉄道や空港などの社会資本整備が大きなウェートを占める。22年の実績は175億ドルで、米国、ドイツに次ぐ世界3位だった。

 ODAを巡ってはこれまで、相手国政府の職員らに対する日本企業側の贈賄などが刑事事件化したケースがあるが、実施機関であるJICA側の不正疑惑が明るみに出たのは極めて異例だ。

 JICAは今年7月8日、ホームページで職員を停職1か月の懲戒処分にしたと発表し、その理由については「調達手続きに関する秘密情報を漏えいしたことは就業規則に違反する」と記載した。

 JICA広報部は読売新聞の取材に「真摯しんしに受け止めており、再発防止に努めていきたい」とし、処分した理由については「円借款の供与を決定する際に、事業のコスト積算情報を漏えいした」と答えた。一方で、円借款の相手国や対象事業などについては、「職員のプライバシーにかかわる」として説明していない。

◆JICA=外務省所管の独立行政法人で、ODA事業の日本側の実施機関。職員は「みなし公務員」とされ、国際協力機構法は職員に秘密保持義務を課しており、違反した場合の罰則は1年以下の懲役または30万円以下の罰金。

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