1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 社会

救急現場「バイスタンダー」不安・自責・後悔…消防・NPOでサポート

読売新聞 / 2024年10月29日 15時0分

主催する救命講座で、参加者にオンライン相談サイトを紹介するカードを配るすがわらさん(左、大阪市内で)

 事故や急病など救急現場に居合わせた人を意味する「バイスタンダー」の精神的な負担を軽減する民間の動きが出てきた。「怖かった」「何もできなかった」という不安や後悔のほか、「正しく手当てできたのか」と悩みを抱くことがあるためだ。気持ちに寄り添うことで、救命に安心して関われる仕組みづくりを目指している。(島香奈恵)

 〈自転車の高齢者が転倒して頭を打ったところに遭遇した。すぐ意識が戻り、出血もなく、救急搬送されたが、心臓がバクバクした〉

 〈倒れた人が手当てを受けているのを初めて見かけたが、何もせず通り過ぎてしまった。モヤモヤする気持ちを抱えたままでいるのがつらい〉

 水難事故予防や救命講座に5年前から取り組んできた大阪市のNPO法人「アクアキッズセーフティープロジェクト」に寄せられた声だ。こうした心的ストレスに丁寧に対応することが救命に携わる人を増やすことにつながると考え、同法人は先月、バイスタンダーを対象にオンラインで相談に応じる「バイスタンダーサポートサイト」を開設した。相談は予約制で60分間無料。心理カウンセラーや救助体験者が共感しながら耳を傾ける。

 代表理事のすがわらえみさん(42)は大学生の頃、救命講座を受けた後、実際に駅で倒れた男性に出くわした。心臓マッサージなどを試みたが、男性が救急搬送された後から怖くなって手が震えた。思い出すたび、「あれでよかったのか」と不安が募り、熟睡できない日も続いたという。

 相談はまだ少ないが、救命講座を開く他の団体から連携の申し出があるといい、「つらくなったら気持ちを吐き出せる場が必要」と語る。

■9割にストレス反応

 総務省消防庁の調査によれば、2022年に救急隊員が搬送した心肺停止の傷病者のうち、約7万3000人が市民によって何らかの応急手当てを受けた。1か月後の生存率は、何もされなかった場合に比べ、1・3倍高かった。

 一方で、バイスタンダーの心的負担も明らかになっている。愛知県の救急救命士らの研究チームが、高齢者施設の利用者の心停止に遭遇した職員360人に尋ねた調査では、約9割にストレス反応がみられた。不安や自責の念、後悔、無力感を訴える声が目立った。

■感謝カード

 公的な支援も広がり、同庁の21年調査では、全国の消防本部の約4割が心的ストレスのサポートを実施している。救急隊員が救命への協力に対するお礼と、つらくなった時の相談先を記した「感謝カード」を渡す取り組みが大半だが、現場の混乱もあり、全ての救助者に渡せるわけではない。

 このため、千葉県市川市のNPO法人「ちば救命・AED普及研究会」は啓発パンフレット「救助を手伝ってくれたあなたへ」を作成。9月上旬、ウェブサイトに無料公開した。

 「結果にかかわらず、手を差し伸べていただいたことは誇らしく、素晴らしい」と呼びかけ、救命処置後に不眠や疲労感などの症状があれば「自覚がなくてもストレスを抱えていることがある」と説明。「救助経験者の話を聞く」といった対処法、相談機関の情報も盛り込んだ。

 理事長の本間洋輔・千葉市立海浜病院救急科統括部長は「一人で抱え込まず、誰でも簡単に情報にたどりつけるようにしたかった。気持ちを受け止める仕組みがあることが、救命率の向上につながる」と訴える。

 災害や事件、事故などで受ける「惨事ストレス」に詳しい畑中美穂・名城大教授(社会心理学)は「助けたいと思って行動した人が心に傷を受けたままだと、救命から遠ざかりかねない。消防・医療機関の連携の動きもあるが、社会全体でサポートしていくには、保健所や自治体なども協力する必要がある」と指摘する。

▼各団体のウェブサイト

・アクアキッズセーフティープロジェクトの「バイスタンダーサポートサイト」

https://bystandercare.wixsite.com/website

・ちば救命・AED普及研究会

https://www.chibapush.org

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください