JR東日本「値上げ」は都心に近いほど割高感大きく 山手線の通勤定期1か月「東京-新宿」1550円アップ
J-CASTニュース / 2024年12月30日 11時0分
通勤定期代の値上げが気になる
コロナ禍が終わって鉄道利用者が増えても、物価高騰などの影響を強く受ける鉄道業界。近年は、バリアフリー対応やホームドア設置など、利便性や安全に対する投資も必要になってきた。また、従業員の給与も上昇させなければならない。
そうなると、運賃・料金を値上げするしか解決策はない。運賃の値上げは、所轄官庁の認可が必要である。
これまでさまざまな鉄道会社が値上げをしてきた。そんな中で、消費税増税時以外値上げをしてこなかったのが、JR東日本である。
しかし、JR東日本は2024年12月6日、運賃改定の申請を国土交通大臣に対して行ったと発表した。改定の発表内容を見ると、かなり気になるものである。
首都圏の運賃が高くなる
今回の運賃改定では、東京圏にある「電車特定区間」「山手線内」の運賃区分を、「幹線」に統合する。一部区間で交通系ICカードよりも紙のきっぷのほうが安いところがあったが、それをやめ同額か、交通系ICカードのほうが安いようにする。
「幹線」とは、国鉄末期の1981年に国鉄の路線を2種類に分け、その際の過去の輸送実績に基づいて分けた区分で、主要な路線として位置付けられたものである。JR移行後に新設された路線は、輸送予測で「幹線」かどうかを決めた。そうではない路線を「地方交通線」と呼ぶ。
さらに、「幹線」「地方交通線」の運賃を値上げする。普通旅客運賃と、通勤定期旅客運賃を値上げし、6か月の通勤定期旅客運賃の割引率を見直すというものだ。通学定期旅客運賃は据え置くという(ただし首都圏の電車特定区間は「幹線」の料金となる)。
普通運賃の改定率は幹線が4.4%、地方交通線が5.2%、通勤定期は幹線が7.2%、地方交通線は10.1%である。この両者では通学定期の運賃改定はない。
普通運賃よりも通勤定期のほうが値上げ率は高く、定期券の割安さが薄らいでいる。
だが「電車特定区間」「山手線内」が幹線に統合される影響は、非常に大きなものとなっている。普通運賃の改定率は電車特定区間で10.4%、山手線内で16.4%、通勤定期は電車特定区間が13.3%、山手線内は22.9%、通学定期は電車特定区間で8.0%、山手線内で16.8%。都心に近ければ近いほど値上げ率が高く、通勤定期の値上げはすごいことになっている。
「電車特定区間」「山手線内」の値上げ状況を詳しく見てみよう。
「幹線」に統合される影響は大きい
交通系ICカードで、「幹線」と「電車特定区間」「山手線内」の違いを見てみよう。交通系ICカードでは「幹線」は1~3kmまで147円、4~6kmまでが189円、7~10kmまでは199円となっている。「電車特定区間」「山手線内」では、1~3kmまでが146円、4~6kmまでが167円、7~10kmまでが178円だ。
これを「幹線」に統合し、1~3kmまでが155円、4~6kmまでは199円、7~10kmまでが209円となる。
都心部を10km乗車する場合には、31円もの値上がりになる。わかりやすくいえば、東京駅から品川駅まで乗車する際に、178円だったものが209円になるということだ。
東京駅から主要駅までの値上げ状況を見てみよう。新宿駅までは208円だったものが253円になり、45円もの値上げになる。上野駅までは、167円だったものが199円になり、32円の値上げとなる。けっこう上がる。
通勤定期1か月で見てみる。東京駅から品川駅は5620円から6240円に、620円の値上げ。東京駅から新宿駅は、6290円から7840円に、1550円の値上げ。東京駅から上野駅は、5280円から5890円に。610円の値上げである。
単に値上げだけではなく、「幹線」になることで大きな影響となる。都市部の運賃のメリットがなくなっていき、都市生活者は困ることになる。
これまでの運賃体系は、「電車特定区間」「山手線内」があることで、乗客の多い都市部は安いということになっていた。その状況が悪化してしまう。
加えて、私鉄などとの競合がある「特定区間」を12区間だけ残し、18区間を廃止にする。たとえば品川~田浦・横須賀・衣笠・久里浜など、京急との競合区間だ。新宿~八王子といった区間は残す。競合関係が薄れたところは事情に応じて廃止していくことになる。
JR東日本の論理、乗客の論理
JR東日本が、なぜ値上げをしようとなったのか。
まずJR東日本は、消費税増税のとき以外、会社発足以来運賃を値上げしてこなかった。同社の発足は、1987年4月1日である。元号でいうなら昭和62年だ。2026年春に運賃を改定するなら、39年間運賃を変えなかったことになる。国鉄の末期から変わっていないのだ。
しかし、変えない期間が長すぎた。
JR東日本発足以降、利用者増や生産性の向上、財務体質の改善など経営努力を積み重ねてきた。しかしコロナ禍による鉄道利用の減少や、物価やエネルギー価格の高騰に寄る経費の増加の影響は大きく、地方路線での沿線人口の減少(これで利用者が減る)が課題であり、待遇改善のための人件費向上が必要になってきた。
安全やサービスにお金をかける必要があり、老朽化した車両や設備の更新も求められ、災害対策やカーボンニュートラルに対する設備投資の財源も確保しにくくなっている。
サステナブルに鉄道を運営したい、というのがJR東日本の考えである。
いっぽう、乗客の側からすると「なんで値上げ?」となる。JR東日本は都市部の非鉄道事業で利益を上げており、また山手線など通勤電車の本数を減らして経費を削減している状況にある。さすがに山手線の減便は批判されており、2025年3月のダイヤ改正で増発するとのことである。
通勤定期は職場が負担するからいいものの、企業が従業員に支払う額は大きくなり、総務担当者はその資金をどこから持ってくるかを考えているのではないか。
通学定期については、私鉄などが運賃を値上げしても値段を上げない方針を示している中で、JR東日本の「電車特定区間」「山手線内」が「幹線」になることで値上げとなり、負担する親が困るという問題もある。
定期券の割引率は高いものの、そこを見直すことの影響は大きい。
JR東日本の置かれた状況が厳しいゆえに、ドル箱の都市部運賃制度を変えなくてはいけなくなり、結果として値上げになる。大きな影響があるだろう。(小林拓矢)
筆者プロフィール
こばやし・たくや/1979年山梨県甲府市生まれ。鉄道などを中心にフリーライターとして執筆活動を行っている。著書『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。
この記事に関連するニュース
-
山手線内“大幅値上げ”で崩れる「中央線最強説」 他社まで揺さぶるJR東日本の運賃改定の“衝撃ポイント”
乗りものニュース / 2024年12月23日 7時12分
-
JR東日本が初めての「運賃値上げ」を申請 2026年3月実施予定 4つのポイントをチェック!
ITmedia Mobile / 2024年12月10日 15時0分
-
運賃改定の申請について ~2026年3月の運賃改定に向け、手続きを開始しました~
PR TIMES / 2024年12月7日 13時45分
-
「オイオイオイ」 東京~新宿間は210円→260円に JR東日本、2026年に運賃を値上げ 「初乗りが160円の時代かぁ」
ねとらぼ / 2024年12月6日 17時32分
-
JR東日本、2026年3月値上げへ 安い「電車特定区間」廃止 初乗り155円に
乗りものニュース / 2024年12月6日 16時19分
ランキング
-
1維新提唱の1人区「予備選」に壁 参院選、野党内の反応鈍く
共同通信 / 2025年1月3日 17時26分
-
2愛知県内の「特殊詐欺」被害額 過去10年で最悪に…去年1月から11月までに37億円超
CBCテレビ / 2025年1月3日 19時52分
-
3福島、津波被災の町に移住者増加 住宅価格が手頃、子育て支援も
共同通信 / 2025年1月3日 17時3分
-
4神戸の民家に男女3人の遺体 親族間でトラブルか 現場にはハンマー
毎日新聞 / 2025年1月3日 17時11分
-
5「クチャラー」から抜け出す簡単な3つの習慣 「音をたてて食べる」はウザがられる
J-CASTニュース / 2025年1月3日 16時0分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください