診療支援へ国産AI開発に政府着手、病名候補を提示…数年以内の実用化目指す
読売新聞 / 2025年1月11日 5時0分
政府が、医師の診療を支援する医療用の国産生成AI(人工知能)を開発することがわかった。問診結果を基に病名の候補を医師に伝えるなどして医療の質を向上させる狙いがあり、数年以内の実用化を目指す。医療分野での生成AIを巡っては、不正確な情報による誤診のリスクなどが指摘されており、開発チームは対策の研究にも取り組む。
自治医科大の永井良三学長(循環器内科)をトップとするチームには、国立情報学研究所や情報・システム研究機構、東京大、神戸大、九州大など約40の研究機関・民間企業が参加し、昨年9月に着手した。
基盤技術となる大規模言語モデル(LLM)に、国内の提供元から利用許諾を得た日本語の医学論文などのテキスト数百億文字を読み込ませる。個人情報を匿名化したコンピューター断層撮影装置(CT)などの画像約5億2000万枚も追加し、今春にもシステムを完成させる。
医療機関では、問診結果から可能性のある病名を示すなどし、医師の診断を支援する。レントゲンなどの画像診断で、がんの疑いなどの重要な所見があれば医師に注意を促す機能を加え、見落としによる医療事故を防ぐことも想定している。
さらに、▽電子カルテの記入補助▽報告書や紹介状の下書き▽感染症の「発生届」などの文案作成――を担い、事務負担を軽減する。患者にとっては、医師と向き合う時間の増加が期待される。
医療分野では、海外の大手IT企業が生成AIの開発を進めているが、海外製は学習データの偏りから日本の実態が反映されにくく、個人情報が国外に流出する恐れも指摘されている。また、生成AIは事実に基づかない情報を回答する「ハルシネーション(幻覚)」などの技術的な課題があり、チームは発生の仕組みや防止対策も研究する。
開発費は総額約220億円。2023年度の内閣府の補正予算に計上され、公募と審査を経て昨年夏にチームが固まった。生成AIの性能の指標で、学習した規模を示す「パラメーター」の数は1720億程度となり、医療用としては世界最大規模となる見込みだ。技術の流出などを防ぐため、国内のデータセンターを使う。
実用化では、電子カルテのメーカーがシステムに生成AIを組み込むケースなどを想定しており、参入を促す。
◆大規模言語モデル(LLM)=生成AIの基盤となる技術。膨大な文字データを学習して次に来る単語の確率を予測し、文章の作成や要約、質問への回答といった処理をする。LLMは、英語のLarge Language Modelの略。
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