麻薬製造「国家ぐるみ」だったシリア・アサド前政権、主要な資金源か…周辺国に薬物汚染広がる
読売新聞 / 2025年1月14日 6時55分
シリアのアサド政権崩壊後、麻薬の製造や密輸が国家ぐるみで大規模に行われてきた実態が白日の下にさらされた。前政権の主要な資金源になってきたとされ、国内や周辺国では薬物汚染が広がる。国家再建を急ぐ暫定政権にとって、製造拠点や密売ネットワークの壊滅は急務だ。(ダマスカス郊外 田尾茂樹)
ダマスカス郊外ドゥーマの町外れ。塀に囲まれた丘の広大な敷地に、平屋の建物があった。地下に巨大な空間が広がる麻薬工場だ。
中に入ると薬品特有の臭気が鼻をつく。床には大量の錠剤が散乱していた。興奮剤アンフェタミン系の合成麻薬「カプタゴン」だった。依存性が強く安価で「貧者のコカイン」とも呼ばれる。
錠剤の近くには電子機器のような箱形の装置が多数放置されていた。案内役の男性は「この中に隠して密輸していた」と説明した。麻薬を中に隠して偽装するため、果物やジャガイモなどに似せた発泡スチロールの容器も散らばっていた。
関係者によると、建物は元々、民間の食品工場だった。2017年にバッシャール・アサド前大統領の弟で軍の精鋭部隊を率いるマヘル氏に近い政治家に接収され、麻薬工場に転用されたという。軍が警備し、地元住民は近づけなかった。政権が崩壊した昨年12月8日に反体制派戦闘員らが駆けつけると、既に無人で建物に火が放たれ、物資の一部が焼けていたという。
アサド前政権は欧米などの制裁で経済苦境に陥る中、麻薬ビジネスで巨額の利益を得ていたとされる。世界銀行が24年に公表した報告書によると、シリア産カプタゴンの市場価値は最大年56億ドル(約8800億円)に達し、推計62億ドルだった23年の国内総生産(GDP)に迫る。市場に出回るカプタゴンの8割はシリア産で、前政権が得た利益は年24億ドルに上るとの推計もある。カプタゴンは国内で兵士や若者らに使用され、サウジアラビアなどの湾岸諸国やヨルダンにも密輸された。シリアが23年5月にアラブ連盟に復帰する際、アサド政権は麻薬対策を約束したが、何も取り組んでいなかった模様だ。
麻薬工場は国内に100か所以上あったとされ、政権崩壊で一時的に製造は止まったとみられる。旧反体制派が主導する暫定政権は「シリアを浄化する」と訴えるが、国内外に根強い需要があり、犯罪組織などによって再び生産が活発化する恐れも指摘される。周辺国などと連携して製造や密輸を阻止し、国民の意識啓発などを通じて薬物乱用を防ぐことが暫定政権にとって大きな課題となる。
ドゥーマで見つかった麻薬工場の元所有者の親族アーレフ・トゥートさん(60)は「国民を食い物にしてシリアを麻薬国家に変えたアサド氏らを必ず罰してもらいたい」と訴えた。
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