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他の星に持ち込みも持ち帰りもダメ、「惑星保護」という考え…除菌やふき取りで微生物やDNA排除

読売新聞 / 2025年1月15日 5時0分

 太陽系には生命の存在が否定されていない星がある。米国や日本などはこうした星を目指して宇宙開発でしのぎを削るが、地球外生命体を地球に持ち帰ったり、地球の生命を別の星に持ち込んだりすることに問題はないのだろうか。そんな懸念から生まれたのが「惑星保護」という考え方だ。

宇宙船に「未知の生命体」影響懸念

 2017年制作の米映画「ライフ」は、火星で採取した未知の生命体の細胞を宇宙ステーションで調べた飛行士たちが、成長した生物に襲われる恐怖を描いたSFスリラーだ。もちろんフィクションだが、実際、地球に帰還した宇宙船や持ち帰った試料に未知の生命体が付着している可能性は否定できない。逆に、地球から他の星に向かう探査機には微生物やその細胞、DNAなどが付着している可能性があり、星の環境に思わぬ悪影響を及ぼす恐れもある。

 こうした懸念から、世界の研究者らでつくる国際宇宙空間研究委員会(COSPAR)が示しているのが「惑星保護方針」だ。宇宙開発に携わる国が取るべき行動の規範を表しており、COSPARの前身組織が1958年に制定した。旧ソ連が人類初の人工衛星スプートニクの打ち上げに成功した翌年のことだ。

 どんな対策が必要かは、生命存在の可能性や探査の目的によってカテゴリー分けされている。例えば火星や、木星の衛星エウロパ、土星の衛星エンケラドスは生命が存在する可能性が否定されておらず、着陸を目指す場合には探査機の最も厳密な除菌が求められている。

 微生物の中には宇宙空間の強い放射線や高熱に耐える種もある。そのため除菌は探査機を高温のオーブンで熱したり、アルコールが染みこんだ布で拭き取ったりして徹底される。既に1970年代の米航空宇宙局(NASA)の火星探査計画では、発射前に探査機全体を熱する大がかりな手法が取られていた。

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所の木村駿太・特任助教(微生物学)は「DNAなどは壊れにくく、一度持ち込まれると、地球から運ばれたものなのか、その星由来のものなのか、区別できなくなってしまう」と指摘する。

 JAXAも保護方針に沿った対策を取り入れている。2020年には探査機「はやぶさ2」が小惑星リュウグウから試料を地球に持ち帰ることに成功。JAXAは試料に生物が存在する可能性が低いことをCOSPARに事前報告して認められていた。そのため試料の安全性を示す文書などを作成しただけで厳重な保護対策は必要なかった。

 JAXAが対策に力を入れたのは、火星の衛星フォボスに向けて26年度に無人探査機を打ち上げ、試料を持ち帰る「MMX計画」だ。フォボスは火星との距離が6000キロと近く、火星由来の隕石いんせきが降り注いだ可能性があるからだ。

 ただ、保護方針にフォボスの記載がなく、JAXAなどは18年、試料に火星由来の物質が含まれる確率を独自に計算。生物が存在する可能性は極めて低いと結論付けたところ、COSPARはリュウグウと同じ水準での対策を認めた。JAXAの山崎丘教授は「科学的な根拠から丁寧に分析した研究が評価された形だ」と話す。

 JAXAはMMX後に無人探査機での火星着陸を検討しており、探査機を除菌する新たなクリーンルームを相模原キャンパス(相模原市)に26年に設置する見通しだ。種子島宇宙センターでも探査機に付着した微生物の検査体制を整える。木村氏は「科学的な信頼性と人類を守るため適切に惑星保護を進め、火星やその先の生命の探査や発見につなげたい」と意気込む。

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