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学校の制服は必要?「服装に悩まなくてよい」「多様性や個性考える機会」…戦前は憧れの対象だった

読売新聞 / 2025年1月17日 22時44分

[The論点]

 中学校や高校で服装について見直す動きが広がっています。従来は学校が指定する制服の着用が一般的でしたが、性的少数者(LGBT)への配慮や自主性を養うために服装の選択肢を増やしたケースもあります。進学を控えた季節、制服のメリットやデメリットを考えてみましょう。

[A論]身なり悩まず済む…連帯感や責任感も

 茨城県立下妻第一高校(下妻市)は創立125周年を迎えた2022年4月、付属中学設立にあわせて制服を刷新しましたが、伝統の黒色は残し、男子向けの詰め襟も踏襲しました。

 新制服の検討委員だった浜野美智教諭は同校OGで、昔は「喪服」などとやゆされた黒一色の女子の制服をあまりかわいくないと感じていたそうです。刷新でスカートのひだ部分に紫と桜色のストライプを施し、同じ配色のネクタイやリボンを採用しましたが、基調の黒色は変えませんでした。

 浜野教諭は、「地元密着の伝統校で、歴史に誇りをもつ卒業生も多い。制服の廃止や革新的な変更は選択肢に挙がらなかった」と振り返ります。

 生徒会長の2年海老原優羽さん(16)は「この学校らしさを表した制服で、学外活動でも責任ある行動を取ろうという気持ちになる。制服でも個性を伸ばすことはできる」と話します。

 都道府県立高校(全日制)の状況を各教育委員会に尋ねたところ、指定・推奨する制服や標準服がない学校は、「把握していない」とした神奈川県を除く46都道府県で101校で、全体の3・4%にとどまりました。制服がある学校の多くは、部活動がある休日や熱中症が懸念される夏季など特定の条件に限っての対応を除き、制服以外での通学を認めていないようです。

 徳島県では県立高校の全32校が制服通学を求めているといいます。徳島県教委の担当者は、「各校が生徒主体で髪形や靴下などに関する校則の見直しに取り組むが、制服そのものをなくそうという動きはない。試験的に服装選択制を実施する学校でも、何を着ればいいか悩み、結局制服や体操服で過ごす生徒が多いようだ」と実情を語ります。

 大手制服メーカー「菅公学生服」(岡山市)が23年7月に全国の中高生1200人を対象に行った調査では、制服が「あった方がよい」との回答が「どちらかと言えば」も含めて84%に上りました。制服の良いと思う点(複数回答)は、「学生らしく見える」59%、「毎日の服装に悩まなくてよい」54%、「どこの学校か一目で分かる」39%、「服装による個人差がでなくてよい(平等である)」33%などの順でした。

 同社企画開発部の吉川淳稔部長は「制服は連帯感や学校への帰属意識を生み、服装から家庭の収入格差を感じずに済むメリットもある。制服代は入学時には負担に感じるかもしれないが、3年間着られる耐久性を考えて、エコな服装として愛着をもって着てほしい」と呼びかけています。

[B論]私服で自主性育む…個性考える機会に

 東京都立井草高校(練馬区)は、指定の制服がありません。服装は自由で毛染めやメイク、アクセサリーの着用も認めています。生徒会長の2年中西夏希さん(17)は「いつも好きな洋服を着られて、季節によっての温度調節も楽」と話します。

 生徒が同校を進学先に選ぶ際、制服がないことが魅力となっています。私服での登校は少なくとも約50年前から認められていたようで、多くの地域住民に「井草らしさ」として受け入れられています。私服を認めることは、生徒の個性を尊重し、自ら考える自主性を育むメリットがあると考えられています。生徒会担当の中野健教諭(44)は「体育祭や文化祭など、教員が関わらなくても自主的に動く気質の生徒が多い」と胸を張ります。

 着る人の性別が固定された制服は、性別に違和をもつ若者の悩みの一つです。性的少数者(LGBT)の子どもらの支援を行う一般社団法人「にじーず」代表で、トランスジェンダーの当事者でもある遠藤まめたさん(37)は、「中高はセーラー服だったが、とても恥ずかしい格好をさせられていると毎日感じていた」と振り返ります。性別違和のある若者は、制服を理由に希望の進路を諦めたり、不登校になったりするケースが多いそうです。遠藤代表は「制服が理由で進路が狭まるのはとても残念」と話します。

 多様性について学ぶ一環として、期間限定で私服での登校を取り入れている学校もあります。千葉県立大多喜高校(大多喜町)は、生徒会の発案で2024年9月から月1回「私服登校の日」を設けています。生徒会長の2年平山芽衣さん(17)は、「服装にはそれぞれの個性が出て、みんなの笑顔が増えた気がする」と手応えを感じています。私服登校の日にはアンケートを実施し、生徒同士で課題を話し合っています。森田圭一教頭(48)は「服装を通じて、多様性や個性について考えるいい機会になっている」と語ります。

 また、制服には経済的な課題もあります。公正取引委員会の調査によると、22年度の高校のブレザーの平均価格は男女でそれぞれ3万円台後半。学校が指定した業者が制服を独占的に製造、販売する場合は価格が下がりにくいようです。

 名古屋大の内田良教授(教育社会学)は「私服を認めることで生徒の自由度は増す。風紀が乱れるという指摘があるが、私服の学校もごく普通の学校生活が営まれている。制服の経済的デメリットを解消するためには公費による支援も重要」と指摘しています。

社会の変化映す鏡

 日本での学校制服の歴史は、明治時代まで遡ります。

 日本大の刑部おさかべ芳則教授(日本近代史)によると、1879年(明治12年)に学習院が、中央部がホック掛けとなっている詰め襟の制服を導入します。86年(明治19年)には、現在の東京大学が金の五つボタンの詰め襟を取り入れます。「東大型」の詰め襟は、旧制中学校や高等学校、師範学校へと広がりました。

 女子は、明治まで着物にはかまが主流でした。大正に入ると服装の洋装化を進める「服装改善運動」が起き、1921年(大正10年)に名古屋市の金城女学校(現・金城学院)がセーラー服を導入します。その後、セーラー服の学校が増え、制服として定着していきました。

 戦後は米国文化の影響で、男女とも徐々にブレザーへと置き換わります。学園紛争が盛んな60~70年代に、進学校を中心に私服で登校できる学校も現れます。80年代以降はカラフルなブランド製などを採用する学校も登場しました。

 刑部教授によると、進学率が低かった戦前は、学校の制服は憧れの対象で、生徒はエリートであることを体感していたそうです。戦後になると、制服は「自分たちを管理するもの」との意識が強くなって反発も生まれました。しかし、最近の若者は、そうした抵抗感は薄いようです。刑部教授は「制服は社会の変化がよく表れ、時代を反映している。日本には学校に限らず多種多様な制服があり、『制服大国』と言える」と話しています。(世論調査部 小田倉陽平、深谷浩隆)

[情報的健康キーワード]インフルエンサー

 SNSなどでの言動が大きな影響力を持つ「インフルエンサー」は、SNSのフォロワーが1万人以上いることが目安とされます。

 発信力が大きいだけに、問題も起きています。広告主がインフルエンサーに報酬を支払い、個人の感想を装って商品などを宣伝させる「ステルスマーケティング」が問題となり、2023年10月に法律で禁止されました。

 選挙への影響も指摘されています。昨年11月の兵庫県知事選や米大統領選では、インフルエンサーの支持候補を応援し、対立候補を攻撃するフォロワーらの投稿が拡散しました。ルーマニアで昨年11月に行われた大統領選挙では、首位となった極右候補の宣伝に100人以上のインフルエンサーが関与していたことが発覚。組織的な情報操作が疑われ、憲法裁判所が選挙のやり直しを決定しました。

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