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長距離を歩くことは「歩禅」と同じ…人生に普遍的な目的なし、生きるしか道はないと悟る

読売新聞 / 2025年1月22日 5時0分

宮城県名取市の名取トレイルセンターでポーズを取る寺岡さん

徒歩旅愛好家 寺岡伸章さん 68

 私がみちのく潮風トレイルを1か月かけて完歩したのは、台風19号が大きな被害をもたらした直後の2019年秋だった。自然道はあちこちで寸断され、国道や県道を歩かざるをえないこともあった。

 美しいリアス海岸の風景に魅了され、復興工事の横を通り、巨大防潮堤の上を歩き、震災慰霊碑に何度も手を合わせ、宿の女将おかみさんらに厚くもてなされた。誤解を恐れず言えば、エコツーリズムに加え、津波被害と原発事故の復興ツーリズムの世界にまれな合作だと思った。

 午前6時までに起床し、朝食を終えて7時頃に重いリュックを背負って出発する。11時までは快調なウォーキングであるが、それ以降は失速し、積もり積もった疲れが襲ってきてヘロヘロになり、午後3時頃にやっと宿に着く。さらに洗濯と風呂を済ませて6時前後に夕食をとり、8時までには布団に潜り込んで爆睡状態となる毎日だった。

 長距離を歩くことは「歩禅」と同じだ。「歩く」「食べる」「寝る」というシンプルな生活は心地よい。余計なことをしなくて済むので、心が乱されたり、悩んだりすることがない。大切なことが見えてきた。

 私は道中こう思った。人間は知性があるため、生きる意義を見いだそうとする。カゲロウやイヌ、ネコよりも高等な生物であると思い込んでいる。人生に普遍的な目的はない。我々にはつらくても生きるしか道はない。私は疲れていても歩くしかない。歩き続けることに意義がある。

 でも一人じゃない。孤独でもない。人とつながっている。死者ともつながっている。カゲロウともリアス海岸とも。海とも山とも里とも。過去とも未来とも。徒歩の旅は心の旅だった。

 被災者の願いは、人々に忘却されたくないことだろう。旅の途上多くの優しい方々に会い、忘れられない巡礼路になった。

忘れられない巡礼路 

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