凍結口座から「偽の公正証書で強制執行」、被害者側が配分に異議申し立て提訴…コンサル側「貸し付けは事実」

凍結口座への強制執行を巡る被害者側とコンサル会社側の主張

　詐欺事件の被害回復のために凍結された銀行口座から、虚偽の内容の公正証書に基づき強制執行をかけて支払いを得たとして、被害者側が、執行をかけた東京都渋谷区のコンサルティング会社を提訴していたことがわかった。「コンサル会社側に不審な点があり、口座の名義人に貸し付けがあるとした公正証書の内容は事実ではない」と主張。渋谷の会社側は「貸し付けは事実で正当な執行だ」と反論している。

　凍結口座を巡っては、この会社と代表や社名が同じ品川区のコンサル会社が、ベトナム人３人に各１０万円を貸したとして、裁判所に虚偽の「支払い督促」の書面を発行させて強制執行の手続きをとったことが判明。これとは別に、公正証書を根拠にした強制執行でも、被害者側が疑義を呈するケースが明るみに出た。

　問題になっている裁判の訴訟記録などによると、被害者は２０２３年１０～１１月、ＳＮＳで知り合った投資の専門家を名乗る人物らから勧められ、金の取引名目で計４２８０万円を指定された口座に振り込んだ。被害に気付いて警察と弁護士に相談し、振り込め詐欺救済法に基づいて振込先や資金移転先の口座が凍結されて取引が停止された。

　資金移転先の口座の一つは、台東区の広告関連会社が名義人となっており、約１億２６００万円の残金があった。被害者側は広告関連会社が詐欺に加担したとして損害賠償を求めて提訴。昨年５月に勝訴判決を得て、東京地裁に、広告関連会社の口座に対する強制執行を申し立てた。

　その翌月、渋谷の会社が「広告関連会社に１億３０００万円を貸し付けている」とする公正証書を作成。同地裁を通じて口座に強制執行をかけた。

　口座に対する強制執行が重なったため、東京地裁が昨年１０月に資金を分配する手続きをとり、コンサル会社に約９９００万円、被害者には約２２００万円が支払われた。

　これに対し、被害者側は同月、渋谷の会社が執行の根拠とした公正証書に不審な点があるとして、分配に異議を申し立てる訴訟を同地裁に起こした。

　訴訟では、渋谷の会社と広告関連会社が凍結口座から分配を受けようと、あらかじめ通じ合い「虚偽の内容で公正証書を作成した」と主張。根拠として、公正証書の作成が被害者側が広告関連会社に対して勝訴判決を得た直後だったことや、公正証書に記載された貸付金額（１億３０００万円）が、凍結口座の残金（約１億２６００万円）に極めて近かったことなどを挙げた。

　一方、渋谷の会社側は昨年１２月～今年１月、裁判所に出した書面で、証書の作成日が勝訴判決の直後だったのは「全くの偶然だ」とし、「広告関連会社に対する貸し付けに実態はある」として争う姿勢を示している。

「渋谷の会社、不審点多い」

　被害者側は訴訟などを通じて、渋谷の会社と広告関連会社には他にも不審な点があると指摘している。

　その一つが、広告関連会社の所在地だ。公正証書では、台東区のマンションがある場所が記載されている。このマンションは、渋谷の会社と代表や社名が同じ品川のコンサル会社が昨年、強制執行をかけた口座の名義人であるベトナム人３人の「住所」と同一だという。

　品川の会社は昨年、３人に対して各１０万円を貸し付けたとして、東京簡裁から、「支払い督促」の書面を取得。だが、別の被害者側との裁判で今月、「ダミー債権」だったことを認めた。３人は２３年１１月以前に出国していたことも判明している。

　もう一つは、広告関連会社の代表だった男性に関するものだ。公正証書が作成された昨年６月当時、男性は、品川の会社でも代表を務めていた。

　男性は同９月に品川の会社の代表を、同１０月に広告関連会社の代表を、それぞれ退任。読売新聞は同１２月、男性に公正証書の内容の真偽を取材したところ、「今は代表ではなく、コンサル会社に聞いてほしい」と話した。

　被害者の代理人を務める平沢慎一弁護士は「数多くの不審点があり、凍結口座を狙って不当な強制執行が行われたのは明らかだ」としている。一方、渋谷の会社の代理人弁護士は取材に「裁判中なので、答えられない」としている。

◆公正証書＝法相に任命された公証人が、個人や会社からの依頼を受け、当事者の面前で確認した内容を法的に証明した書面。判決と同じように強制執行を行う根拠にできる。金銭の貸し借りのほか、土地や建物の売買契約時に作られることが多い。公証人は全国に約５００人おり、元裁判官や元検察官らが務めている。