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焦点:加社の買収提案、実現に幾重ものハードル セブンに重い説明責任

ロイター / 2024年8月22日 13時6分

カナダのコンビニエンスストア大手、アリマンタシォン・クシュタールによるセブン&アイ・ホールディングス買収の実現には、幾重ものハードルがあると専門家は指摘する。写真はセブン&アイ・ホールディングスのロゴ。2017年12月、都内で撮影(2024年 ロイター/Toru Hanai)

Ritsuko Shimizu Maki Shiraki

[東京 22日 ロイター] - カナダのコンビニエンスストア大手、アリマンタシォン・クシュタールによるセブン&アイ・ホールディングス買収の実現には、幾重ものハードルがあると専門家は指摘する。複数の関係者によると、クシュタールは全株取得を提案しており、時価総額約5.2兆円を超す巨額買収となる。専門家からは実現は不可能ではないとの声も上がるが、セブン&アイ側にも慎重な検討と重い「説明責任」が求められる。

<米国事業拡大が狙い、日本のビジネスには疑問符>

UBS証券シニアアナリストの風早隆弘氏は「難易度が低いとは言わないが、現時点で不可能なディールと考える必要はない」としたうえで「相当両者における努力が必要だし、最終合意に向けては詰めなければならない要件がかなり多い」と指摘する。

複数の専門家は、クシュタールの狙いは米国での事業拡大だとみている。クシュタールは2028年のEBITDA目標100億ドル(23年度は58億ドル)を掲げており、米国での事業拡大機会を求めているとみられている。

Smead Capital Managementの最高経営責任者、Cole Smead氏は、クシュタールは「誰よりもコンビニエンスストアを最適化し、ビジネス全体のマージンを改善した歴史がある」とし「マージンと収益性を大幅に増加させることができる」と話す。

米国でコンビニシェア第1位のセブン&アイを第2位のクシュタールが買収する場合、連邦取引委員会(FTC)の審査が必要となる。クシュタールはM&Aに関して百戦錬磨だけに、当局の認可に関して懸念の声は少ない。ただ、セブン&アイが米スピードウェイを買収した際もFTCの命令で293店舗を売却しており、今回、仮に合意しても、一定規模の店舗の売却を求められることが予想される。

一方、日本国内のビジネスに関しては、うまく運営できるか疑問符を付ける声が上がる。セブンイレブンは、フランチャイズ制を取り、ベンダーを巻き込んだ商品開発を強みとしてコンビニ業界で他を引き離す日販を誇ってきた。SBI証券のシニアアナリスト、田中俊氏は「フランチャイズの利益との共存が大前提にある。その辺りを踏まえて、(外資が)きっちり経営していくのはハードルが高い」と話す。

これまでドラッグストアの英ブーツ、スーパーの仏カルフール、英テスコなど外資系小売り企業の多くが、仕入れの構造問題や消費者のきめ細かなニーズに対応できず撤退してきた歴史がある。

田中氏は「シナジーが出るのは北米に限られるという状況からすると、高値づかみしてまで取りに来るかは疑問だ」と述べ、現在の情報を前提に考えると「実現性は低いのではないか」とみている。

<「指針」後初の大規模オファー>

これまで日本では、買収提案を受けても社内で処理され、公表されない例も多かった。関係者によると、セブン&アイは、過去にもクシュタールから買収を打診をされた経緯があるが、公表されていなかった。

しかし、2023年に経済産業省から「企業買収における行動指針」が示され、「真摯な買収提案」に対しては「真摯な検討」をしなければならないとされた。指針では、1)企業価値・株主共同の利益の原則、2)株主意思の原則、3)透明性の原則が提示されている。今回の案件は、指針が公表されて以降、海外から国内企業に対して行われた初めての大規模な買収オファーとなる。

セブン&アイは、米ファンドの要求などもあり、2022年から社外取締役が過半を占める体制となっている。社内体制も、外部環境もこれまでとは違っていることもあり、今回設置された社外取締役による特別委員会の判断に注目が集まる。

UBS証券の風早氏は「今回、特別委員会含めて相当真面目に検討しなければならないことになる。特に株主に対する説明責任は、今までとは全くレベル感の違う話になっている」と指摘。仮にオファーを断るにしても、自社で経営した方が企業価値が上がるということをきちんと説明しなければならず、セブンは重い説明責任を負う。

米ファンドから要求されていたように、セブン&アイは傘下の総合スーパー、イトーヨーカ堂や百貨店のそごう・西武の構造改革が遅れ、株価も低迷している。どのような選択をするとしても、投資家が納得する説明が求められることになる。

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